第40話 再びの旅立ち
俺は早速ブレスレットを装着してみる。
「結界の外なら魔石が勝手に魔力を吸収してくれるが、結界の中では魔石の中の魔力が尽きたら使えなくなるので要注意じゃ。しかし主の特異体質であれば、低出力で済むからそこは問題なかろう」
「この二つのダイヤルは何でしょう?」
「片方は出力の調整で、もう片方は動作時間の設定とオンオフのスイッチじゃ」
「トースターか電子レンジみたいですね」
「なんじゃそりゃ? ま、とにかくスイッチの方は回し切ると連続オンになる。その時の出力は最低の1にしておいた方がいいだろうな。一応出力は五段階にしておいた」
「あれ? 出力の目盛りは六つありますが?」
「ああ、それはお約束じゃな。その六番目の出力強度は命の保証ができないというやつじゃ。間違えて入れてしまわないように気をつけるんじゃな。……じゃあそんなもの付けるなって? そこは何か見えない力によって、付けずにはいられないんじゃ」
とにかく六つ目のところはやばいもののようだ、ダイヤルの目盛りも六つ目だけ他と随分離れたところにある。
「名前はなんとするかな……」
「名前が必要ですか?」
「うむ。そうそう、発動時には名前を叫ばないと起動しないようにしておくからな。誤作動してもいかんしな」
「オンオフのスイッチが付いているならば、なくてもいいような気もしますが」
「だって、その方がかっこいいじゃろ?」
あれ。このヘジテという人は見た目は老人だが、もしかして中身は……俺は頭に降ってわいた疑問を首を横に振ってかき消した。
テント場に戻るとオベリスクとナーガも起きて外に出てきていた。すでに椅子に座ってオベリスクは焚火に火をつけている。すっかり焚火に慣れてしまったようだ。ただ着火はファイヤースターターを使ったのか、火魔法を使ったのかは定かではない。ケトルを三脚からぶら下げてお湯も沸かしている。戻ってきた俺とヘジテに声をかける。
「おはようさん。何してたんだ?」
心なしかオベリスクはにやにやしているように感じる。ナーガはナーガで気まずい雰囲気でこちらをチラチラとみている。
「ああ、風呂の水漏れを完全に止めておきましたぞ。これでかなりの長風呂も可能になるじゃろう」
「それはありがたいな」
「しかしあの風呂は川沿いのロケーションが素晴らしいですな。またこちらにはチョクチョク遊びに来させていただいてよろしいですかな?」
「ああ、それなんだがな、余は魔王城に帰ることにしたんだ」
その言葉を聞いてヘジテは驚いている。俺は昨日の話を聞いていたので予想はしていたが、改めてはっきり言われると、少々気が引き締まる。
「しかしこの場所はキャンプ場所として、また使うことにする。ナーガに頼めばすぐに行き来できるしな」
「オベリスク様が魔王になられた暁には喜んで協力させていただきます。但し候補者の試練である今は、手助けはできません」
ナーガが言った。
「それは分かっておるぞ。もちろん魔王城には歩いて帰る……あれ? ケンロー、そのブレスレットは……そうか例の魔道具か、流石はヘジテ、仕事が早いな。なるほどもう足手まといとは言えないわけか……」
「まさかケンロー殿も同行されるのか?」
ヘジテが聞いてきた。
「ナーガやヘジテさんは、この世界の決まりでオベリスクを助けることは出来ないんだろうけど、俺は異世界人だから関係ないよね。俺も魔王城とかいうのを見てみたいしね」
「ケンローが行くというのであれば私も同行するつもりです」
ナーガが言った。
「それは面白そうですな。ならばもちろん儂も同行させていただきましょう。いや、儂の場合戻るだけですな。しかしパーティーで冒険するなんて何年ぶりですかな。年甲斐もなくワクワクしますぞ」
「それって、人族がするやつだろう? まぁヘジテはドワーフだからな。 しかし正直なところ余も楽しそうだなと思ってしまっておる」
「よし、当面ここには帰って来れないし、今日の朝ご飯は豪勢に行こう」
「そういう時はステーキなんだろう? 豚は昨日食べたから牛だな」
朝からビフテキというのもどうかと思ったが。景気づけには悪くない。俺は町で買った牛肉をオベリスクに出してもらって、厚めに切って焼き始めた。ソースはメスティンの中に醤油と砂糖、塩コショウを混ぜて照り焼きソースを作ってみた。日本酒の代わりには赤ワインを少し入れた。
荷造りを終えて旅立ちの時は来た。改良された収納袋にかなりのものを入れたので、俺のザックには殆ど何も入ってはいない。なので逆に収納袋をザックに入れてみた。何も背負っていないと山歩きは不安になってしまうのだ。
ヘジテも大きな荷物を背負っている。彼ほどの錬金術師であれば収納する魔道具は持っているに違いない。もしかすると収納魔法も使えるのかもしれない。それでもあの大荷物というのはきっと俺と同じ理由だろう。いや、もっとあれな理由もあるのかもしれない。そういうキャラ設定もよく見かける。
オベリスクとナーガはパッと見は手ぶらである。もちろん収納魔法ですべて表に出てきていないだけなのだが、それを合理主義と言ってはいけない。実用的にはもちろんそれが普通である。
森を歩き結界の外へ出て、先日のダンジョンあたりも通過してさらに進んだあたりで一同は一旦歩みを止めた。
「ここまでは私の縄張りみたいなものだったので魔物は襲ってきませんでしたが、ここから先はそれも無くなると思います。みなさんいつ襲われてもいいように武器は携えてください」
そう言ってナーガはダンジョンでも使っていた剣を取り出した。俺はザックの背に斧を棒につけた武器を括り付けてあったが、それを外して手で持った。オベリスクは相変わらず手ぶらだったが、ヘジテは荷物の中からハンマーを出した。
「ヘジテさんの武器はハンマーなんですね」
「うむ。ドワーフじゃからな。若いころはこのハンマーを幾多の魔物の返り血で赤く染めたものよ。そうしてこやつで鍛造する武器にはその魂も打ち込めるのじゃ」
何か怖いことを言っている。
※ここまで書いてきませんでしたが、本当に川沿いのキャンプには注意が必要です。川の増水は全く予想が付きません。草が生えていないようなところは増水した時水が来るという事です。せめてテント場だけでも高くなっている場所にするべきでしょう。




