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第39話 決意

 俺はと言えばまだ飲み足りなかったので、焚火を囲む席に戻って今度は町で買ってきたワインを飲み始める。


 オベリスクとナーガも寝るにはまだ早いと思っているようで、一緒にワインを飲み始めた。オベリスクには町で買ったチーズも出してもらった。


「そういえば今日、帰ってくるのにずいぶんと時間がかかっていたな。魔王城は遠いとは言っても飛んで行けばすぐだろう」


 オベリスクがナーガに聞いた。


「ヘジテは言い出せなかったみたいですが、最近魔王が事あるごとに引退をほのめかしているようなんです」


「それはまぁだから魔王の候補選なんかやっているんだろうからな」


「……まぁそうなんですが、それで今一番次の魔王に近いんじゃないかと言われているのがマダー様なんです」


「マダーが? あいつはやばいだろう。あんな奴が魔王になったら、また人間と戦争になってしまうぞ!?」


「マダーっていうのは誰なんですか?」

 俺は聞いた。


「うむ。強硬派というのかな? それとも原理主義者と言えばいいのか、魔族は人族や他のデミヒューマンよりも優れた存在なのだから、この世界全体のかじ取りをすべきだろうみたいな事を考えている奴だ。本人はいたって真面目にそう考えていて、悪い奴ではないんだが、どうもその考えには賛成しかねるんだよな」


「人間の世界に限らず、魔族の間でも何かしらの犯罪やいざこざが起きてしまうのは、統制が足りていないからだとおっしゃってました。ある意味正しいとは思いますが、なおの事厄介ですね」

 ナーガは言った。


「ケンロー、主の世界ではどのようにして秩序を保っていたのだ?」


 オベリスクに聞かれて俺は答える。


「支配は人ではなく、人の作る法に任せることにしたんだよ。でもいざこざや争いが無くなることは無かった。結局法なんて解釈次第で善悪も変わってしまうからね」


「どこも難しいのだな。そもそもこの世界には、世界全体を統一した法などというものは存在しない。各国にはもちろん法はある。しかし、それよりも統治者の権限が強いのだ。結局統治者個人の主観に左右されてしまう。だからなのか争いを無くすには統治者を一つにまとめ上げようという思想が生まれてしまう」

そこで全員が黙ってしまった。


「統治者の主観がいつでも正しいとは限らないよね。正義なんて立場によって違ってくるものだから……とにかく戦争なんて嫌だよな。嫌なものはやめておいた方がいい。理由は簡単だ。なんたってみんなが嫌なんだから……」


 俺はオベリスクに向かってそう言った。


「魔王なんてやりたくないんだけどな。でも守りたいものがあるなら、それなりに責を負えという事なのだろうな……」


「……俺も全く役に立たないというわけでも無さそうだから、オベリスクが森の外に行くというならついていくよ」


「その申し出はうれしいが、主がついてきたところで足手まといになるだけだ。ヘジテの魔道具が完成するというならば話は別だがな」


 そう言ってオベリスクは笑った。


「遠慮がないね。でもオベリスクのそういう所が好きだよ」

 俺も笑い返した。


「こと、魔王候補者の試練に関することになると、私は手をお貸しすることは出来ません。しかしケンロー殿を支援する事は問題ないでしょう。ケンローが行くというなら私も同行しましょう。オベリスク様に同行するわけではないですよ。あくまでケンローについていくだけです」

 ナーガが言った。


「詭弁だな」

 再びオベリスクは笑った。


 翌日タープの下で目を覚ますと、隣に寝ているはずのヘジテの姿は無かった。昨晩、テントの方ではオベリスクとナーガに寝てもらって。客人であるヘジテを一人で外に寝かせておくのもどうかと思ったので、俺も外でヘジテの横で眠ることにしたのだ。


 アルミシートの掛布団と落ち葉とグランドシートだけの敷布団では、明け方はそれなりに寒かったが、思った以上には快適な睡眠がとれた。外はもう明るくなっているので、俺は起き上がってテントの方を見る。オベリスクとナーガはまだ眠っているようだ。昨日は結構深酒だった。ゆっくりと寝かせてあげた方がいいだろう。


 俺は寝ぼけながらもテント場の周辺をうろうろと歩き回ってヘジテの姿を探す。彼は川近くの風呂のあたりでなにやらごそごそとやっている。


「おはようございます。何されているんですか?」


 俺はそう挨拶してヘジテの方へと歩み寄った。


「なーに、昨日も入っていて少し水漏れしているのが気になってのう」


「ああ、そういえば石灰を使った防水は、魔王城で見かけて思いついたって、オベリスクが言ってましたね」


「うむ、方法としてはそれで問題がない。しかし仕上げにはやはり錬金術が必要じゃ」


「あ、ヘジテさんは錬金術が使えるんですか?」


「まぁな、しかしこれはオベリスク様には内緒じゃぞ。これ以上魔王城での仕事を増やされては大変じゃからのう。最もオベリスク様は魔王城に戻られる気はないみたいじゃが……」


 ヘジテは寂しそうな顔をした気がした。


「……ナーガから聞きましたよ。何か強硬派の候補が魔王になりそうだとか……」


「……聞きなさったか。オベリスク様のあんな楽しそうな顔を見てしまっては、どうにも言い出しにくくてな。それでいつも以上に酒も進んでしまったようだ……まぁその話はよい。丁度いいところへ起きて来られた。ちょっとこれを腕につけて見てくだされ」


 そう言ってヘジテに手わされたのは、魔石が埋め込まれたブレスレットだった。バンド部分は金属製で結構太い。魔石と逆側には止め金具がついていて、左右にはそれぞれダイヤル状のものが二つ付いていた。


「もしかして昨日言っていた魔道具がもう完成したんですか?」


「昨日は早々に酔いつぶれて寝てしまったようで失礼した。そのせいで今朝は暗いうちに目を覚ましましてな。……歳のせいではないですぞ。で、やることも無いのでこいつを作っておったんじゃ。しかしそいつも終わって今は風呂桶の補修じゃ」


「作っておったんじゃって、魔道具ってそんなに早く作れるもんなんですか?」


「魔道具とは結局イメージの産物じゃ。お主の体を調べて、すでに昨日のうちにイメージは固まっておった。魔法陣の構成は昨日考えてあったからな、あとは形に入れ込むだけじゃった。儂は錬金術も使いこなすドワーフだから、そこからはお手の物よ」


 ヘジテはどや顔をした。

※タープ泊と言って、あえてテントではなくタープだけを張ってその下で寝るというキャンプスタイルの人がいます。友人にもいますが、私には無理ですね。ハンモックであればいいですが、地上だと顔に虫とかが這ってきそうで怖いです。

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