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第38話 一夜干し

 本当は魚が焼きあがるまで待っていようと思ったが、全員が風呂上がりの今あれを飲まないわけにはいかないだろう。俺はビールを人数分いれて全員に配った。


「おお、これはビールですな懐かしい」


「なんだヘジテはビールを知っているのか?」


「儂というかドワーフはみんな飲んでおりまずぞ。大体魔王城は飯がまずくていけない。酒もワインばかりだし、オベリスク様が今度魔王になったらそのあたりを改善してはくれませぬか」


 ヘジテにそう言われて、オベリスクは黙ってしまった。どうも魔王になる気はないという事は言い出せる雰囲気ではなかった。


「まずは乾杯しましょう」


 気まずい空気を打ち消そうと俺はそう言った。


「今日は何に乾杯しますか?」

 ナーガが聞いてきた。


「それはもちろんヘジテとの出会いに!」


 そうして四人はグラスを合わせる。最も俺のカップだけはチタン製だった。


 魚が焼きあがったところで箸ではなくステンレス製のトングで掴んでみんなに配った。

「その火ばさみのようなものは金属製のように見えますが、鉄にしては輝いていますし、まさかミスリル銀ですかな?」


 ヘジテが聞いてきた


「いやこれはステンレスと言って、鉄にクロムを加えたものですよ。あ、クロムというのも金属で……」


「うまい!!」


 俺が話している途中でオベリスクが叫んだ。


「なんだよこれ、今まで食べてきたのと同じ魚なのに味が全然違うじゃないか。水分が飛んでいる分旨味が凝縮している感じだ。太陽の光を当てただけなのにどうしてこうなるんだ? ヘジテもどうでもいい話をしていないで、早く食べてみろ」


 オベリスクの言葉にヘジテもナーガも魚をスプーンとフォークですくって食べた。


「うまい!!」


 食べたところで二人が同時に声をあげた。


 全員に驚いてもらったところで醤油の登場だ。最初から持ってきてはいたのだが、量は少ないし保存がきくという事で、今までは温存して殆ど使ってこなかった。既に町で発見して買った分の在庫もあるのでもう出し惜しみはなしだ。


「まだまだこんなもんじゃないですよ」


 そう言って俺はみんなの魚に醤油を少しずつ垂らして回る。その味変に更に三人は驚く。


「うむ、塩気はもう少しあってもビールに合うと思ったが、それをかけるとまたこれが丁度良くなるから驚きだ。この箸とやらでつまんで少しずつ食べるのがまた実にいい」


 段々オベリスクは八歳児に見えなくなってきた。かといって若者でもない。完全におっさんの物言いだ。


「ヘジテとナーガもこの箸ってやつの使い方を覚えるといいぞ。ケンロー割りばしはもうないのか?」


 残念ながら割りばしはもうなかったが、箸ぐらいならすぐに作れてしまう。俺は薪から二本の箸を切り出して二人に渡した。しかしその間に既に魚は食べ終わってしまっていた。


 次に焼いたのは町で買ってきた豚肉だ。トンテキにするには丁度いい大きさと厚さだった。熱が加わって油が下に落ちると、そのたびに炎が燃え上がる。相変わらずナーガはこれが好きなようで、じーっとその様子に注目している。

 

 俺は肉に塩と胡椒を振りかける。塩は海で作ったやつで、コショウは前の世界から持ってきたやつだ。これも町で買った分で在庫ができたので思い切り使うことができる。ある程度焼けたらトングで裏返して裏面にも塩と胡椒を振る。


 肉が焼きあがるまでの間、オベリスクはヘジテとナーガに箸の使い方を教えている。ヘジテは流石は職人だった。直ぐにコツを掴んだようだ。ナーガの方は悪戦苦闘している。お構いなしに俺は焼きあがったトンテキをみんなに配り分けた。


「これは何の肉ですかな?」

 ヘジテが聞いてくる。


「これは豚肉です。豚肉のステーキです。私の世界ではこれをトンテキと呼びます」


 ほぉーと感心しながらヘジテは肉を丸ごと箸で持ち上げてかぶりついた。しまったここは事前に切り分けておくべきだった。しかしもう手遅れだろう。ナーガの方を見るとすでに箸はあきらめて、肉をフォークで刺して丸かじりしていた。以外にもワイルドだと思ったが、その正体は竜なのだから納得だ。


 ヘジテはビールは飲みなれていていける口らしい。なんでも魔王城に住むようになってからは、ずっと飲んでいなかったとのことだ。そのせいかどうかここぞとばかりに飲み続け、かなり早い段階でべろべろに酔ってしまった。移動の疲れもあったのだろう、うつらうつらとしてきているのが見てわかる。


「しかし今日の夜ヘジテが寝る場所はどうする? 流石にテントの中で四人は狭いよな」


 オベリスクが俺に聞いてきた。


「うん、俺とヘジテはタープ泊にするよ。今日は暖かそうだから問題ないんじゃないかな。掛け布団がないからアルミシートだけはもらっていくよ。そう言ってから俺はテント場の近くの木から木へと麻ひもを渡してブルーシートをかけた。その四隅に開いてある穴にもひもを通して地面へと引っ張る。これで簡易なタープの完成だ。


 キャンプをしない人は、雨さえ降らなければそんなものはいらないと思うかもしれないが、これがあるとないとではその下部の環境は大きく違ってくるのだ。夜露もだいぶ防ぐことができるので不思議である。


 テントはそれ自体に防水性があるが、汚れ防止や防水補強の目的でその下にグランドシートというものが敷いてある。これも固定をといて引っ張り出し、タープの下に落ち葉を敷いてから上にかぶせた。四隅は軽く地面にとめた。


 すっかり眠ってしまったヘジテを三人がかりで運ぶとタープの下に横たわらせた。そうしてその上にアルミシートをかぶせる。これは薄手だがめっぽう保温性がいい。畳んだ状態であればかなり小さいので、アウトドアをやる人であれば緊急用に持って歩いている人が多い。


※トングは焚き火の必需品ですが、おおきくなるほどかさばります。かといって短いと使い勝手が悪いですよね。なので最近は折り畳み式の奴を使っています。先端に割り箸をつけるタイプのものもあるんですが、あれは強度に問題ありですね。

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