第37話 ヘジテ
翌日の朝食後ナーガは魔王城へと旅立った。LEDランタンの他、太陽光パネルとモバイルバッテリーも持参している。使い方については昨日のうちにレクチャーしてある。
残された俺とオベリスクで、今まで手を付けていなかった海魚の天日干しに取り掛かった。まずは魚を干すための台を作る。ちょうどいい大きさの石を拾ってきて、その上に太さの違う丸太を二本並べる。そこに皮をむいた木材を細く切って、直行方向に置いていく。並べ終わったら動かないようにパラコードを使って結びつける。
干すのはブルーシートの上でもいいかなと思ったが、風通しが悪そうだし情緒が無いと思った。そうして台ができたところでオベリスクに収納してもらっていた海魚を出してもらう。海水を凍らせた氷柱も一部を切り出してもらう。それを焚火で溶かして海水に戻す。魚は内臓を取り出して開いた後に海水でよく洗ってから台の上に並べていく。
「なぁなんで干す必要があるんだ?」
オベリスクが聞いてくる。
「難しい理屈は色々あるみたいだけど、とにかく太陽の力でおいしくなるんだよ。しかも長持ちするようになる。まぁそれは収納魔法を使えば関係ないんだけどね」
ナーガは昼時までには帰ってこなかった。色々と揉めているのかもしれない。誇り高い竜族にとんだ使い走りを頼んでしまったわけで、昼食後は彼女のためにブッシュクラフトで椅子を作ることにした。
いや、そのうちに来るであろうヘジテの分も必要になるかもしれないので二脚を作る。結構たくさん持ってきたつもりだったパラコードも先ほどの魚を干す台で使い切ってしまったので、椅子の組み立てには先日町に行ったときに買った麻ひもを使った。
ブッシュクラフトをすると、本当に時間が溶ける。あっという間に夕暮れ時になってしまった。丁度椅子が完成したその時に、色味が付いてきた空の中に、帰ってくるナーガの姿が見えた。背中に人影も見える。多分あれが噂のドワーフ、ヘジテだろう。
竜の姿で降り立ったナーガの上からヘジテが地上に降りてきた。その背中には大きなリュックを背負っている。彼は降りるとすぐにオベリスクの元へと駆け寄った。
「オベリスク様ご無沙汰しております。 なかなか戻ってこられないので、魔王城ではまた転生したのではないかと噂になっておりますぞ」
「はっはっはっ、悪い悪い、どうにもここでのキャンプ生活が快適でな。そうそう、ここにいるのが転移者のケンローだ」
そう言って紹介された俺にヘジテは握手を求めてきた。
「ナーガから聞きましたぞ。なんでも異世界からの転移者だとか……わしも随分と長く生きてきたが、噂に聞けども転移者にお会いするのは初めてです。それで早速ですがあのLEDランタンなるものの事ですが……」
そんなヘジテの言葉をオベリスクが遮る。
「そんな話はあとあと、遠い道のりで疲れたろう。まずは飯でも食って……いや、その前にひとっ風呂浴びたらいい」
「なんとここには風呂もありますのか?」
「ちょっと待ってろ、今沸かしてくるから。ナーガも手伝え」
そう言ってまたオベリスクはナーガも連れて風呂の方へと去っていった。残されたヘジテはテントや、干された魚、焚火台に先ほど作った椅子などをまじまじと眺めている。そうしてやっと俺の方を見るとこういった。
「あのようなオベリスク様の楽しそうなお顔は久々に拝見いたしましたぞ。これがキャンプというものなのですかな? 魔王城から抜け出すのは大変でしたが来てみてよかった」
「この度は無理をお願いして申し訳ありませんでした」
俺はそう言ってヘジテに頭を下げる。
「ナーガからおよその話は聞いております。なーにそんなに難しい話ではない。ここに来るまでの間に魔法陣の構成などは既に頭の中で出来上がっております。あとはどれくらいの出力にするかですな。少々お体を触らせていただきますぞ」
そう言ってヘジテは俺の体のあちこちを触り始めた。
「ほう、面白い。全く魔力を帯びていないというのは人族でも初めて見ましたぞ。まるで魔力などない世界から来たみたいだ。これは少しの魔法でもよく効くでしょうな。どれ装着場所はどこが一番制御しやすいですかな……」
そう言いながらまたヘジテは俺の体を触ってくる。そこに丁度オベリスクとナーガが戻ってきた。
「風呂の用意が……あ、ケンローはそっちだったのか。道理で二人でいても何もしてこないわけだ」
オベリスクが訳の分からないことを言う後ろで、ナーガは赤面してこちらを見ている。
一番風呂はヘジテだった。それは客人なのだから理解できるが、俺も一緒に入って来いとオベリスクがうるさかった。ヘジテとは同じ男同士なのでおかしい話ではないが、俺を送り出すオベリスクの妙な笑い方が気になった。これは今度ゆっくり話さないといけないかもしれない。
※最近直接モバイルバッテリーのUSBに刺せるLEDライトが売ってますが、あれ結構明るいし便利です。モバイルバッテリーは普段持ち歩くので、アウトドア以外でライトも常に携帯しておくと役に立ちます。




