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第35話 体質

 そう思った次の瞬間、信じられないことが起きていた。俺の持った斧付の棒は円弧を描き、同時に三匹のゴブリンを切断していた。体がとても軽く、斧も自由自在に動かせる気がした。俺は次々に襲い掛かるゴブリンを撃破していく。気が付けばゴブリンは全滅していた。

 オベリスクとナーガは自分の持ち分を倒し終わったのだろう。ゴブリンの死体の山を前に立ち尽くす俺の事をジーっと見ている。


「ずるいぞナーガ、お主ケンローに強化魔法をかけただろう!!」

「ずるくはないですよ。私が手助けできないのはオベリクス様だけです。ケンローがご自分で身を守れるように身体強化の魔法を軽くかけただけです」

「軽くってレベルじゃないだろう。やりすぎだ」

「いえ、本当です。相手はたかだかゴブリンですから……元々ケンローには剣の才覚があったのではないですか?」

 ナーガの言葉を受けてオベリスクは俺の事をジロジロとみている。

「ホントかなー。そんな話は初めて聞いたぞ」

 それはそうだろう。確かに剣道の経験はあるが、俺もそんな話は初めて聞いた。


「あ、ケンロー、左腕ちょっと切られてるぞ」

 オベリスクに言われて初めて気が付いた。戦の最中にゴブリンにやられたのだろう。それなりの切り傷だが先ほどから夢中で動いていて、痛さを感じる間もなかった。

「私が回復魔法をかけましょう」

 ナーガが言った。オベリスクは何かを思いついたような顔をする。

「いや、ここは余に任せろ。余が使える回復魔法の中でも最弱のやつをかけてやる」

「そこは最強の間違いじゃないのか? それはどれくらいの効力なんだ?」

「裸のときに背中を掌でぱーんて叩かれると赤くなるだろう? あの赤さがひくのがちょっと早くなるぐらいだ」

「それは確かに弱そうだな……」


 さすがは最弱魔法だ。オベリスクは無詠唱で、俺の傷部分を人差し指でそっとつついた。すると見る見るうちに傷は塞がっていった。それを見て魔法を使った当の本人のオベリスクが驚いている。

「なるほど……あの植物型の魔物の時からおかしいと思ったんだよ。いくら人族でもあんなチンケな毒魔法をあの距離でくらって意識を失うとか……」

「え、どういうこと?」


 俺の疑問にオベリスクが答える。

「ケンローはものすごく魔法の影響を受けやすい体質って事なんだろうな。もしかしたらそれが主の固有スキルなのかもしれんな」

「それっていい事なの?」

「どうなんだろうな、毒魔法に弱いって事は他の状態異常魔法にも弱いってことだからな。でも逆に強化魔法や回復魔法は強烈に効くって事だ。もしかしたら今なら昆虫ぐらいしか蘇生できない余の蘇生魔法でも効くかもしれんぞ」

「だから殺さないでくれよ」


 そこから先は順調だった。深いところまでは潜らず、魔石が五個集まったところで入口へと引き返すことにした。しかしもうすぐで外に出るというところでオークと鉢合わせしてしまった。ビビる俺をしり目に、オベリスクとナーガはなにやらひそひそと話をしている。


「余のこの体でも初級の強化魔法ぐらいなら使える。ここはケンローが一人で戦ってみろ」

 オベリスクがそういうと、ナーガは自分の剣を俺に差しだしてきた。俺はそれを握る。ずっしりと重い。オベリスクは呪文を唱える。


「アラブル!!」


 オベリスクの言葉と共に急に剣はその重さを失った。剣だけでない。先ほどと同じく何か体もとても軽くなったように感じた。一歩踏み出したつもりが。瞬時にオークの前まで移動する。そのままの勢いで俺はオークへと斬りかかった。何か向こうも対応しようとしているようにも見えるが完全にスローモーションだ。俺が横に振った剣は、鎧ごとオークの体を上と下の真っ二つに切り裂いた。

気付けば俺の足元には二つの肉塊になったオークの体が転がっている。


「凄いな、ここまでとは思わなかったぞ」

 オベリスクが駆け寄ってくる。

「その今かけた初級の強化魔法ってどれくらいのものなんだ?」

 俺は聞いてみる。

「そうだな、重い荷物を持ってもぎっくり腰にはなりにくいぐらいだな」


「それは確かに弱いな……」


※重いものを持ってもぎっくり腰にならないぐらいの魔法は、実際にあったら結構な人気になると思います。徒歩キャンプの場合、荷物は軽く20kgは超えてくるので私も使いたいです。

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