第33話 出発
※ナイフはあまり大きいものは持っていません。のこぎりや斧を持っていくので、そこまで大きいものはいらないのかなという感じです。そうして細かい作業用には定番のオピネルではなく、肥後守を愛用しています。
基本的にキャンプは暇だ。暇を楽しむのがキャンプだといってもいい。テントの設営時や撤収時、食事時などは色々と忙しいが、それ以外の時間は特にすることも無い。
そこで普段なら絶対にやらないことをする。食べ物なら燻製を作ったり天日干しを作ったりするのだ。海や川があれば釣りもいい。他にはそこら中で入手できる木を使って、薪づくりやブッシュクラフトと言うのもある。
ブッシュクラフトとはナイフや鉈を使って、木を材料に家具や道具など様々なものを作る事を言う。既にここまででも箸に始まって椅子も作った。このあたりがキャンプ定番のアクティビティだ。
異世界とはいっても結界内は魔物も出ないし、そこは俺の前にいた世界でキャンプをしているのと何ら変わりない。そのままずっとのんびりしていてもいいのだが、以前と違うのは定職を持っていないので、定期的な収入がどこからも入らないという事だ。完全自給自足を目指すほどの根性もない。
お金が無ければ買い出しができないのだが、この世界での俺は冒険者でもなければ完全な無職だ。オベリスクの魔王候補やナーガの竜というのも職業とはちょっと違うような気はする。いや、魔王は統治者という事で政治家という職業なのかもしれない。
だから冒険者ではないにしろ、ダンジョン内で金に換える価値のあるものが採れると知れば、多少命の危険があっても挑んでみるというのは、とても正しい事のように思えた。いや、はっきり言って楽しそうだなと思った。あまり評判の良くなかったパンを中心とした朝食を終えた俺は、早速ダンジョン行きの準備を整える。
LEDランタンはあまり使わないようにしていたので、バッテリー残量はまだ結構残っていた。しかしダンジョン内ではこれが頼りになりそうな気もするので、持参していたモバイルバッテリーも太陽光パネルで充電しておく。
モバイルバッテリーの方も結構容量は残っていたので、すぐに充電は終わった。オベリスクとナーガは太陽光パネルとモバイルバッテリーについて聞いてきたが、これは流石に説明が難しかった。魔力を太陽からのエネルギーに置き換えて考えて、魔石みたいなものだと言ったらなんとなく理解してくれたようだ。
魔物に出会ったら完全に逃げの一手のつもりではあるが、一応クロスボウの矢は装填しておくことにした。昨日の買い出しで鉄の矢じりを買ったので、それを矢の先端につける。結構矢じりは高かったので、これは温存するに越したことは無い。
道具屋で買った収納袋は、中でクロスボウが暴発しないか若干心配だったが、安全装置のようなものを補強してから入れ込んだ。先日は出番がなかったが、斧を棒に巻き付けた武器も持っていく事にした。
いそいそと準備をしている横でナーガが聞いてきた。
「私は何をすればいいんですかね?」
確かに魔物除けと道案内でナーガにも同行してもらおうとは思っていたが、どうも彼女はダンジョンの中にもついてくる気満々らしい。
「ナーガもダンジョンの中まで入ってくるつもりなの?」
「ダンジョンの中なんて滅多に入ることはないですからね。折角だからお供しますよ」
「ナーガが来たってダンジョン内は狭くて、竜の姿にも戻れないんだから戦力外だろ?」
オベリスクがそう言った。
「この体でも魔法ぐらいは使えますよ。物理的な戦闘力だってケンローや今のオベリスク様よりは上だと思います」
そう言って彼女は収納魔法でしまってあった武器をいくつか取り出した。
「ナーガは武器も持ってるんだ」
「……あんまりこういうのもなんですが、長いこと生きていますと色々と絡んでくる方もいらっしゃって、武器なども落とされていったりするんですよ……」
何か含みのある言い方だった。単に落す事はないだろうと思いつつ、なんとなく察してそれ以上の事は聞かないようにした。あれ? もしかしてその武器を売ったらお金には困らないんじゃないかと一瞬思ったが、それはナーガにたかるような話なので口にするのはやめておいた。
「ならそれを売れば買い出しには困らぬではないか」
オベリスクは遠慮が無かった。
「え、せっかく楽しそうな事になりそうなのに、それでは面白くないですよね。大体高価な魔石はこの程度の武器を売ったくらいでは、町では手に入らない……ような気がします」
そこについては自信がなさそうだった。
「まぁいい、確かに楽しそうだ。余はちゃんと魔物が出たら戦うつもりだから、二人は少し離れていてくれよ。特にケンローは邪魔しないでくれよな」
ひどい言われようだと思ったが、確かにその通りだったので返す言葉が無かった。午前中には準備が整いそうだったので、俺はお昼用に朝は評判の良くなかったパンに焼いた鶏肉とレタス的な野菜を挟んで、マヨネーズをかけてお弁当を作った。マヨネーズの力を借りれば大抵のものはおいしくなる。
ぺちゃんこ水筒にも水を入れて、お弁当と一緒に収納袋に入れる。それなりな荷物になったが、確かにこの魔道具は便利だなと思った。
昼前にはダンジョンに向けて出発した。海に向かった時のように川沿いではないので、俺には右も左も分からない。目印になるようなものもなければ、ここで他の二人とはぐれたら、テント場まで帰り着ける自信はない。一体この二人はどうやって地理や方向を把握しているのか不思議になった。
「ナーガやオベリスクはどうやって自分の場所や方向を掴んでいるんだい?」
二人とも何を言ってるんだという顔をする。
「ケンローは同じ質問をウサギや鹿にもするのか?」
オベリスクが言った。よくわからないがよくわかる答えだった。
「さ、もうすぐ結界の外に出るぞ」
そう、俺には結界の境界線ですら分からないのだ。




