第32話 ダンジョン
当面、食料や調味料の心配はないし酒も十分在庫ができた。しかし次に買い出しに行くときには再びお金も必要となる。
キャンプをしている限り出費はないが当然収入もない。何かしら換金できそうなものを入手しておく必要がある。こういう時異世界転生ものであればギルドに入ってクエストをこなすか、ダンジョンで稼ぐというのが定番だ。
しかし俺には冒険者になるだけの力が無いのだからどちらも無理そうだ。朝食のパンを食べながら俺はそんなことを考えていた。
「ケンロー、これは前に食べた食パンとやらの方がうまかったぞ」
パンは完成品を買うのではなく、小麦粉から手作りしてみた。材料は水と塩と小麦粉だけだ。イースト菌もふくらし粉もない。そもそも俺自身一度メスティンで焼いたことがあるくらいで、コツや理屈もよくわかっていないので上手くできるはずもなかった。
「パンはよくわからないんだよね。今度は町で完成品を買ってくるよ」
昨日町で買い出しをして、ナーガに魔法で収納してもらったものは、オベリスクの魔法収納の方に入れ替えてもらってある。俺が道具屋で買った収納袋は、単に容量が大きいだけで、中に入れたものの腐食を止めたり、温度を一定に保ったりの性能は無い様だった。昨晩試しに入れておいた氷は、今朝起きてみると溶けていた。
「俺にも二人が使うような収納魔法が使えたら、ナーガに手間かけさせなくていいのにな。そういう魔道具もあるのかな?」
「さあな、魔道具には魔法陣でも刻んであるんだろうが、エネルギー源にする魔力を集めて変換するのには魔石を使っているのだろう。ここは結界の中だからどのみち魔石中の魔力を使い切ったら、その収納袋もただの袋になってしまうぞ。それ自体に大きな魔力を秘めているような魔石は町なんかでは手に入らないだろう」
「町なんかではって事は、どこかに行けば手に入れられるって事なのか?」
俺のその疑問にはナーガが答えた。
「そこはダンジョンでしょうね」
「あ、やっぱりダンジョンがあるんだ。そこに行けば宝箱とかがあるのかな?」
「宝箱? 誰がそんなものを置いていくんですか?」
ナーガが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「誰がってそりゃー……誰だ? 魔王とかかな?」
そう答えた後、俺はオベリスクの方を見る。
「なんで余がそんな事をしなければならないのだ。そんなもの置いたことないぞ」
「じゃあ冒険者は何しにダンジョンに入るんだよ」
「それは先ほどの魔石だったり、戦闘による経験値の取得や修行、あとはダンジョンにしかいない魔物の素材入手の為とかでしょうね」
「魔物の素材?」
「主も一昨日カーバンクルを見たであろう。額に宝石がはまっておったと思うがあれは死んでも残るのだ。魔物は死んだらすぐに肉体が風化するが、それでも爪や角など残る部分がある。主らとて死んでも骨が残るであろう?」
「なるほど、それを何かしらの材料や宝飾品に使うのか。まぁ象牙や珊瑚とかもそうだからね。それで魔石が採れるダンジョンはこの近くにあったりするのかな?」
「魔石が豊富なダンジョンというと……そうですね、結構近くにないこともないですよ。もちろん結界の外ですけどね」
「……魔石ってのは高く売れるのかな?」
「この辺りは人間からしてもかなりの僻地ですから、採れる魔石は貴重でしょうね。ダンジョン内は魔力が満ちていて、荒らされていないダンジョンにある魔石は、魔力をたっぷりとため込んでいるはずです」
「それ、何とか俺でも採りにいけないのかな?」
「結界の外でも、地上で私が一緒にいる限りは魔物は襲ってこないと思いますが、ダンジョン内のモンスターは外とは違う理屈で活動してますからね。行ったらすぐ死んでしまうと思います。私とオベリスク様が一緒でも守り切るのは難しいでしょうね」
「余は蘇生魔法は使えないぞ」
「それは昨日も聞いたから……」
やはりダンジョンは難しいかと肩を落としたところでオベリスクがこう言った。
「しかしダンジョンでも深く潜らなければ、例のポンチョで偽装して入れないこともないんじゃないか? 余も少しはこの体でも経験値を積んでおきたいので、たまには結界の外に出るのもいいかもしれん」
「経験値を積めば体力も上がって、魔力が上がるとか?」
「うむ、その通りだ。まぁ身体的な限界もあるが、ある程度は強化できる。もしかしたら蘇生魔法も使えるようになるかもしれないぞ」
「いや、だから俺のことは殺さないでくれよ」
「変な奴だな。蘇生されるなら死んでも問題ないだろう? 死ぬのが怖いのか?」
「今まで、死んだ事なんてないからな」
ナーガは俺とオベリスクのやり取りを笑いながら聞いていた。
※メスティンでパンを焼く派の方々も結構いらっしゃるようですね。私はそこには手を出していないので、どうすればおいしくできるのかはちょっと書けません^^;。普段の食生活でもパンより御飯派です。




