第30話 買い出し
店を出て町中に出る。人が多いとはいえ目立っているのは確かなので、俺はとりあえずは洋服屋に入ることにした。
服は露店でも売っているし、多分そちらの方が安いのだろうが、その場で着替えるには、ちゃんと建物の中に店を構えているところがいい。流行りや常識といったものは、ここに来るまでに見かけた人々の恰好ぐらいしか情報がないので、店の人間に適当に見繕ってもらう。
俺はお会計を済ませた後、奥の方で着替えると、脱いだ服は売るのではなく持参した折り畳み式のリュックに突っ込んだ。ナーガは最初このままでいいと言っていたが、店員に最近の流行は……みたいなことを言われて結局着替えを買うことにした。
脱いだ服は見えないところで魔法で収納したようだ。後で聞いた話では人間の姿になるときは収納魔法を解除してあらかじめ持っている衣類を着用しているんだそうだ。
今はいないがオベリスク用の服も何着か買った。そうして下着類は、店の外で露店で買いそろえた。オベリスクの分は完全に適当だ。しかしそこまで買ったところで俺のリュックの中身はパンパンになってしまった。仕方がないので建物の陰で人目を忍びながらナーガに魔法で収納してもらった。
そこまでの段階で、オークの装備を売ったお金は半分くらいになっていた。衣食住の衣が終わったので次は食ということで、それらしいお店が集まっているところへと移動する。
しかしその移動時に見かけた道具屋が、店頭で魔道具の収納袋というものを売っていた。なんでも見た目の数十倍は収納できるという事である。収納魔法に比べればだいぶしょぼい性能ではあるが、それでも買い出し時には都合がいい。ナーガに収納してもらうにはいちいち物陰に隠れないといけないからだ。
食料品が売っている露店は一か所に集まっていた。まずは米と小麦粉を探してみる。小麦粉は当たり前のように売られていたが、米はない。つまりは米を原材料とする醸造酒……そう日本酒は無いという事である。そうしてそれは醤油や味噌が無いことも予感させた。
酒は日本酒の代わりにワインを買った。しかしここで喜ばしい発見があった。小麦があるのでビールはあるとして、どうやって持って帰るのかを悩んでいたが答えは簡単だった。樽で売っているのだ。これがあればオベリスクに氷を出してもらっていつでもキンキンに冷えた状態で飲むことができる。本当は炭酸もマシマシで加えたいところだが、それはさすがに売っていなかった。当たり前だ。
他にも酒はウィスキーのようなものもあったので、正体は不明だがそれも買った。更には卵やトマト、大量の野菜を含め様々な食材を買い込んだ。野菜は安い、段々とこの世界の相場というものも見えてきた。
「ケンローもうそれぐらいでいいだろう。買い出しなんてこれからいくらでも来れるんだから」
そう言ってナーガは笑っている。
「ああ、そうだよね。うれしくってついつい買いすぎちゃうねこれは。今日戻ったらナーガもぜひまた泊って行ってくれよ。とっておきのやつを御馳走するからさ」
「それはありがたい話ですね。しかし武器や防具、ポーションや毒消しなど、冒険者の装備は買わなくてもいいんですか? 普通はまずそこから買うもんですよね? 人族の事はよくは知りませんが……」
「どうせ当分結界から出る気はないから、それはオベリスクが森を出るって決めた時でいいんじゃないかな。しかし装備をそろえたら俺でも森の外に出られると思う?」
俺のその問いにはナーガは黙ってしまった。
「……うーん、それはちょっと無理じゃないですかね。ケンローは自分が剣を持ってキングオークに勝つ姿をイメージできますか?」
今度はそう聞かれて俺の方が黙ってしまった。
一通り買い出しが終わったところで昼時になったので、俺とナーガは目についた食堂らしきところに入ってみた。空いている席に着くと、すぐに獣人らしきウェイターが注文をとりにきた。
「お客さん見ない顔だね。旅の人かい? ここいらは鶏肉料理が名物なんだよ。是非食べてみるといい」
そういわれて周りを見回すとみな同じようなプレートに入った鶏肉らしき料理を頼んでいたので、『あれと同じものを』作戦で二人前を頼んだ。
出てきた料理はチキンステーキだった。上にかかっているのは照り焼きソースだ。俺は絶句する。
「ケンロー、どうかしましたか?」
「このステーキにかかっているソースはね。照り焼きソースっていうんだよ。砂糖はいいとしてこのソースを作るには醤油という調味料が必要なんだ。そうして醤油があるという事は、どこかに味噌が売っている可能性もある」
「ああ、醤油というと例の粉末調味料に使われていた奴ですね。味噌というのはわかりませんが、ケンローがそんなに興奮するのなら、それはものすごい食材なんでしょうね」
そうしてチキンの方も間違いなくそれは鶏の肉だった。多分現地調達でも鳥類は捕獲できるだろう。しかし空を飛べなくなるまで改良された鶏の肉は食用としてはジビエには出せないうまさがある。
「ナーガ、肉は現地到達が基本だと思っていたけど、鶏と豚と牛の基本三種類は買って帰ろうよ。オベリスクにも食べさせてあげたいんだ。肉に関しては収納袋は信用できないから、悪いんだけど後で魔法で収納してくれないか?」
ナーガはその言葉に笑いながら、親指を上にあげてOKのサインを出した。
※液体の醤油はめんどくさいので、粉末であるホリニシなどが重宝されるわけですが、それでも液体醤油の破壊力は絶大です。焼き魚だけでなく、焼トウモロコシなんかも想像してみてください。あ、そう言えばダイソーのパック入りとうもろこしもいいですね。




