第21話 ポンチョ
気が付くと俺はテントの中で横になっていた。枕元にはオベリスクが座っている。
「おお、気が付いたか、良かった良かった」
「俺は倒れてしまったのか?」
「ああ、ケンローが毒に弱い人族だってことをすっかり忘れていたよ。しかし解毒魔法で何とかなるくらいでよかった」
「それで魔物のほうは?」
「ああ、何とか主が襲われる前に倒したよ。馬鹿だよな、地面から出て動きださなければ復活できたのに……一発で切断できなかった余の責任でもあるがな」
そう言ってオベリスクは少し悲しそうな顔をした。
「魔物っていうのは魔族と共生関係にあったりするのか?」
「昔魔族と人間が戦っているときには協力してもらうこともあった。中には知能の高い連中もいて、デミヒューマンとそんなに変わらない奴らもいる。理由がない限り殺したりはしたくない。それは主ら人間と動物の間でも同じだろう?」
「まぁ確かにそれはそうだね」
魔物の体が大きすぎて丸ごと収納は無理だということで、オベリスクは魔物の花びら状の部分を二つテント場まで持って帰ってきていた。
そうして中身の果肉を取り出すと花びらのような部分の表皮は、ちょうど頭からすっぽりと被れるような状態になった。先端に頭を通す穴を空ければポンチョの完成だ。
「で、どうする? すぐに出発するか?」
オベリスクはそう聞いてきた。
「たった一日二日の話だけど、ここを後にするのも忍びないよね。明るいうちに移動した方がいいだろうから、今日はここに泊まって明日の朝出発しよう。ちょっと準備したいものもあるからね」
それから俺は念のためにクロスボウをいくつもつくった。弓は引いた状態でオベリスクに収納してもらった。収納中は時間が止まったにも等しい状態のようなので、危険は無いだろう。
他にもいくつか木材を使って、戦闘になったときに使えそうなものを作った。そうしているうちにまた日は傾き始めていた。俺とオベリスクは出発前夜のお清めではないが入浴を済ませて、焚火の前にいた。
俺の折り畳み椅子に座っているのは相変わらずオベリスクだが、俺は先ほどの武器の制作のついでに、自分の椅子も切った木をロープで結んで一脚組んでいた。地面に座る用のウレタンマットを敷いた座面は思いのほか快適だ。
そうしてその晩は残った棒ラーメンの一束を使った。一旦ゆでて柔らかくして取り置きし、細かく切り刻んだ鹿肉と最後にクーラーボックスに残っていたキャベツを刻んで飯盒の中で炒めてから、少しだけ水気を足して麺を投入する。
本当は焼きそばのようにしたかったのだが、生憎ここには大きな鉄板も無ければフライパンも小さいものしかない。味付けは棒ラーメンに付属した粉末の豚骨スープと粉末醤油調味料だ。どちらかといえば汁なしそばのようになってしまったが、まぁいいだろう。せっかくなので最後に自然薯の余りも刻んで入れてしまった。
そうして湯上りで、焼きそば的なものを目の前にしてあれを飲まないわけにもいかない。缶ビールをまた一本開けた。残りはあと二本しかない。
そうして例のごとくオベリスクと乾杯する。シェラカップにはビールを入れてしまったので、食器はメスティンを本体と蓋に分けて使った。昨日の今日なのにオベリスクの箸遣いは堂にいったものになっていた。
「この箸ってやつは余も気に入ったぞ。これからはこれで食べることにする。しかし相変わらずこの麵というやつは恐ろしくうまいな。いや、麵もそうだが先ほど入れた粉が凄いのだろうな」
そう言って笑ったオベリスクだが、次の瞬間真顔に戻ってこう言った。
「明日結界から出れば、本当にどうなるかは分からない。余はこの肉体が死という状態になっても、転生するだけなので何ら問題はないが、ケンローはそういうわけにもいかないだろう。いざとなったら余がおとりになるので主は逃げろ。なーにここで待っててくれれば、また何年か後に訪ねてくるとしよう。それまでは地道に魚と自然薯で生きながらえるがいい」
「縁起でもないこと言うな~。死んだら死んだで、俺もまた元の世界に転生するかもしれないし、その時はその時だろ。だから死んでどこかに行くなんて寂しいことは言わないでくれ」
「まぁなるべくこの体で生き残れるようには頑張ってみるがな……覚悟はしておいてくれという事だ」
一瞬、そうまでしてこの安全な場所から出ていく必要があるのだろうかという疑問も頭をよぎったが、どうにもワクワクしている自分を自分の中に感じてもいた。
魔物という存在も、結局は昼間に見た植物型のやつ以外はまだ見てすらいない。好奇心というのは恐ろしいものだ。恐怖心を軽く超えてしまう。いや、ビールや調味料に対する欲望も付け足されて、そういう結果になっているのかもしれない。
※ポンチョはザックを背負いながら羽織れるので、雨具としては結構便利です。あと最近は100均で保温用のアルミポンチョが売ってますね。非常用にひとつ持ち歩いてます。




