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第17話 日本酒

 そうこうしているうちになんちゃって鹿鍋が出来上がった。シエラカップによそってスプーンと一緒にオベリスクに渡す。俺の分もカップに入れる。


「それをこの器に入れてしまってはビールが飲めなくなるではないか」


 鍋の入ったシェラカップを見ながらオベリスクが嘆く。


「ビールはあと三缶しかないからね。今日はこいつを飲もう」


 そう言って俺はクーラーボックスから小さな日本酒の瓶を取り出した。小さめの二合瓶なので三百mlだ。がぶがぶ飲んだら直ぐに無くなってしまうので、わざわざおちょこも持ってきていた。


 もちろん一つだけなのでそれはオベリスクに渡す。自分用には調味料などを計量するための、ごく小さな金属製のカップを用意した。


「なんかすごくちっちゃいな」


 オベリスクはぶつぶつ文句をいいながらもお猪口を受け取った。俺はその中にキンキンに冷えた日本酒を注ぐ。鍋にはもちろん熱燗もいいのだが、風呂で汗を流したあとだし、冷もうまい。


「鍋料理を食べながら、こいつをちびちび飲むのがいいんだよ」


 オベリスクは一旦お猪口はテーブルに置くと、スプーンで鍋を一口食べる。


「おお、なんだこのしょっぱいとか甘いとかではない、その奥にある味は……なんとも形容がしがたいが、言われてみれば焼き魚にも同じ味わいがあった。いや、なにがし醤油とかの調味料にも共通していたな」


「それはね、だしと言ってうまみ成分なんだよ。しかしオベリスクはそれがわかるんだね。同じ人間でもその味は感じにくい人もいるんだよ」


「どれどれ」


 そう言ってオベリスクはスプーンをシェラカップの中に置くと、先ほどのお猪口で日本酒を一口飲む。


「……なるほど。これはまたビールと違った味わいだな。余がいつもたしなんでいたブドウの酒に近い。甘味は控えめだがなんというか深みがある。それでいてすっきりしている。これは一体何からできた酒なんだ?」


「それはね、日本酒と言って米という穀物から作っているんだよ」


「なるほど、これはそのうま味とやらに物凄く合うのだな」


 そうしてオベリスクはまた鹿鍋を一口食べては、日本酒を飲む。


「しかしいくらなんでも、これは量が少なすぎないか? 二口飲んだだけでなくなってしまったぞ」


「これもこの一本だけしかないからね。大体その八歳の体で酒をそんなに飲んでも大丈夫なのか?」


「キノコの毒程度にやられてしまう人間であればそういう心配もあるんだろうな。安心せい、酒を飲んでどうにかなった魔族なんぞ聞いたことが無いわ。しかしあれだな、魔王の試練なんかはどうでも良かったが、やはり森にこもって暮らし続けるのには無理があるな。とりあえず試しにまずは海に行ってみよう。明日から植物系の魔物を探すのがいいだろう」


「それは俺も思ったよ。ここで暮らすこと自体は全然いいけども、定期的な買い出しは必要だ。オベリスクの収納魔法さえあれば数か月分を買い置きすることもできそうだからね。まぁ確かにまずは海に行くところからだな」


「川魚も良かったが、海魚もきっとうまいんだろうな。海に行けば貝もいるしな」


「食べ物なんて食べれればいいって言ってたのに、随分な変わりようだね」


「人……余は魔族だが。その欲望は限りないのだ。しかしその欲望こそが活力を生み出すのだな。たった二日だが主と過ごしてそれがよく分かった。この文化は魔族の間にも広めたほうが良さそうだ。争いも事も無くなって、魔族も最近すっかり腑抜けていたからな」


 腑抜けた魔族が食事という文化で活力を取り戻せるのかはやや疑問だが、確かに衣食住は人間であっても生活の基本であり文化の根源ではある。それを研ぎ澄ます行為がキャンプなのかもしれない。


 鍋をしている飯盒はそれほど大きくないので、食べ進めながら具材は随時追加していく。途中オベリスクが俺の使っている箸について聞いてきた。


「ずっと気になっていたのだが、主が使っているその二本の棒は、ものを食べるための道具なんだよな? なぜフォークやスプーンを使わないのだ? それでは汁が飲めないだろう?」


「これは箸と言って、俺が生活していたところではみんなが使っている道具なんだよ。これが一番使い慣れているんだ」


「どれ余にも貸してみろ」


「ああ、割りばしなら予備で持ってきているから、それを出してあげるよ」


 そう言って俺は予備で持ってきていた割りばしを割ってオベリスクに渡した。割りばしは箸の予備というよりは、何かと使い勝手がいいのでキャンプ時には持参するようにしている。汚物や虫をつまむこともできるし、焚火の火種にもなれば使ったあとも火にくべてしまえばゴミにもならない。


 案の定オベリスクはその使い方に四苦八苦している。俺は一からその使い方をレクチャーする。こうしていると本当に八歳の子供に箸の使い方を教えているようだ。しばらくすると、ぎこちなさは残るものの、なんとか物がつまめるぐらいには上達した。


 俺が愛用しているステンレスの折り畳み式の箸よりも割りばしのほうが使い勝手は格段にいい。オベリスクも気に入ったようで、そこからはスプーンは汁を飲むときにだけ使って、具材は箸でつまんで食べていた。

※最近はシェラカップはどこの百均でも売ってますね。私がお勧めなのはダイソーの持ち手が折り畳める奴ですね。あの機構で100円は反則だと思います。普通のヤツも200円とかで売ってますが、500円くらい出すとかなり質感のいいものもあります。恐るべし百均。

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