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第14話 ジビエ

 テントを組んだ後は、まずは椅子から組み立てる。ソロキャンプに椅子なんか、荷物になるからいらないという人もいるが、俺は椅子が好きなのだ。だからいつも真っ先にこいつを組み立てるし、撤収時にも椅子は最後まで分解せずに残しておく。それもあって椅子はばらして畳んだ後、ザックの外付けにしているのだ。


 椅子を組み立てたところで座って一休みする。しかし地面に座ったオベリスクがじっと俺の事を見てくる。それはそうだろう。大の男が椅子に座って、見た目は幼い女の子を地面に座らせておくなどということは、俺も心情的にできない。


 残念だがここは椅子を譲ろうとしかけたところで、


「いいぞ、そのまま座っておけ」


 そうオベリスクには言われた。そうして彼女はあろうことか俺の上に腰かけたのだ。


「これで二人で座れるだろう? なーに共に一夜を過ごした中ではないか」


 そう言ってオベリスクは俺の顔のほうを見上げてにやにやと笑っている。何か子供を膝の上にのせてくつろいでいるような不思議な気分だった。もちろん元の世界には子どもなんかいなかった。いや子供だけではない。嫁もいなければ恋人もいなかった。


「それで。今日はこれからどうする? 海に行く方法はおいおいまた考えるとして、調味料のほうはまだしばらくはもつんだろう?」


「節約して使えば4、5日は大丈夫だと思うよ。ビールも一日一缶ずつなら同じくらいもつ」


「おお、あのシュワシュワだな。魔族の飲む発泡酒といえばブドウを発酵させたものだが、人間たちは穀物から作っていたりするらしい。人の街に行けば飲めるかもしれないが、ここでは無くなったらそれで終わりなのか? ケンローは人間なのに作れないのか?」


「え!? ここでも人の街に行けばビールがあるの? ……残念ながら俺には作れないよ。そうか森を出れば飲めるのか……」


 やはり長期的には、この森から出る算段が必要になる事は確実な予感もした。理由がビールというのはどうなんだという気もするが、命を懸ける価値がビールにはある。


「あとあれだね、昨日は河原にくぼみを作っただけだったからお湯がすぐに抜けちゃったけど、ビニールシートを広げて敷いたらもう少しお湯が抜けるまでの時間が稼げるかもしれない。まぁ風呂に入るにはまだ早いから、とりあえず食材の確保に行こうか」


「うむ。魚もうまかったが今度は肉を焼いて食べたいな。主に会う前に森の中は色々と見て回ったがウサギやイノシシ、それにシカも見かけたぞ」


「オベリスクは昨日の朝、ひどくお腹を空かせていたよね。動物がいるならなんで食べていなかったんだい? 生で食べちゃうんだろ?」


「ああ、狩りに夢中で食べていなかっただけだ。おかげでかなりの量は貯めこんであるぞ」


「あれ、収納魔法は空っぽだって言ってたよね?」


「それは魔道具やアイテムの話だ。どれ何肉がいいかな……」


 そういいながらオベリスクは財布から小銭でも取り出すようなノリで、鹿の死骸を取り出した。それはまだ小鹿のようだが、オベリスクよりもはるかに大きい。


「いやいや、そんなものだされても俺は捌いたことないぞ」


「収納魔法から取り出したら、すぐ臭くなるからまずは血抜きしないとな」


 そう言って、オベリスクは小鹿の死骸を引きずりながら河原のほうへと降りて行った。俺もあわててそのあとを追う。そうして鹿の腹が見えるように河原に寝かせると昨日丸太を切ったように、胸のあたりを魔法で切り裂いた。


「ケンローは足のところを持ってちょっと逆さましてしておいてくれ」


 いわれるままにシカの後ろ足を持って上に掲げる。先ほどの切り口からは血がどくどくとあふれ出す。出てきた血は河原に落ちるとそのまま川のほうへと流れていき、川には習字の一筆書きのように赤い線が下流へと続いていった。


 血があらかた流れ切ったところで、オベリスクに指示される通りに鹿の体を川の水で洗い流した。再び河原にあげたところで、今度は腹を大きく切り裂いて、中から内臓を取り出す……これ以上の描写は気分が悪くなるのでやめておこう。


 気が付けば先ほどまでシカの形をしていたものは、いくつかの肉塊へと変貌していた。オベリスクは今から食べるであろう分量を切り分けて、後は収納魔法で片づけた。


「どうしたケンロー。顔色が悪いぞ? 内臓も切り分けたが腸だけは洗ってやらないと臭いからな、洗い物はケンローに任せた」


 まるで皿洗いのように言われた。とにかく腸をいい長さに切り分けて、中身を川の水でよく洗い流した。一体俺は異世界で何をやっているんだろうという思いが頭をよぎったが、同時に収納してもらった俺のクーラーボックスは、肉と一緒にされて血なまぐさくならないのだろうかと小さいことを考えていた。


 そうこうしているうちに昼時となった。オベリスクが切り分けてくれた肉はナイフで厚めにスライスした。昨日と同じく集めた枝で焚火をすると、今度は昨日と違って網に直接肉を敷くのではなく小さな鉄板を置く。15×20cm位しかない本当に小さな鉄板だ。


「おお、それは分かるぞ。鉄板だな。結構な厚さがあるが、リユックに入れて運ぶには重くないのか? あ、斧も背負って歩いているような変態には関係なかったか……」


 こちらの世界では荷物は全部手運びだと思うのだがひどい言われようだ。ただ前にいた世界のキャンパーでも、徒歩スタイルで重い鉄板を持ち歩いている人間は変態扱いされていたなとは思った。


 鉄板が十分熱くなったところで、油を少しだけ敷いて……そうシカ肉の投入である。この鉄板に肉を敷いた時の音がたまらないのだ。


『ジューッ!!』


 この素敵な音は牛肉でも豚肉でも変わらない。鹿肉を焼いたのは初めてだったが、それはやはり同じ音だった。問題はこの後の味付けだ。流石に焼いただけでは味的に物足りない。鹿肉には一体どんな調味料を合わせるのがいいのだろうか?


※座り心地のいい折り畳み式の椅子と言えばヘリノックスですね。但し本物は高いので、同様の機構のものが各メーカーから出ています。キャンパーの間ではパチノックスと呼ばれています。

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