第11話 秘策
明るいうちから飲み食いを始めたのだが、こうやっていると時間はどんどん過ぎていく。幸いにして魚も自然薯も大量にある。心もとないのはアルコールだ。
ビールはすぐに飲み終わってしまった。後は焼酎とウィスキーぐらいしか持ってきてはいない。それも飲み干してしまえばこの結界から出られない俺は、ひょっとするともう二度とアルコールにはありつけないかもしれないのだ。
「オベリスク、森を抜けて人なり魔族なりが住んでいる所に行けば、酒は手に入るのかな?」
「それはそうだろう。物凄い辺境の地であっても、人なり魔族なりが生活している所であれば酒はどこにでもある」
「ずっと気になっていたんだけど、普通人間と魔族は戦ったりしているもんなんじゃないのかな?」
「まぁそんな時代もあったがな。今の所はうまく共存しているぞ。最もそれを面白く思っていない連中もいるがな」
「共存しているというのは意外だけど、とにかく魔族でも人間でも何かしらの居る所へ行くには、この森から出ないと駄目なんだよな。なんとか塩を海で入手したにしても、酒が飲めないというのはきついな」
「主もなかなかの酒好きだな。主の世界の道具を使って酒は造れないのか? 錬金術にはそう言った技もある様だぞ」
「流石にそれは無理だな、……塩の話もあるし、なんとか森を抜ける方法を考えないといけない。いや、生活するにはここで十分満足だけども、やはり何かと補給は必要だよ」
「……うむ。それでちょっと考えてみたんだが、方法が無い事もないかもしれない」
「ん? 何か手があるのか?」
「余は今のところ、重量物をどうこうできるほどの浮遊魔法も移動魔法も使えないので、自分の足で動く他ないわけだが、動いても結界の外にいる魔物に襲われなければいいわけだ。ケンローには分からないだろうが、魔物と動物には明確な違いがある」
「あ、それは俺も気になっていたよ。オークやゴブリンはともかくとして、熊となにがしベアーみたいなのはどう違うのかなと……」
「おお、よく知っておるな。熊によく似たオウルベアというやつもいる。それでその違いだが、まぁ単純に言って魔力を帯びているかどうかだ。そうして魔物同士は縄張り争いなどが無い限りは、食物連鎖という点ではお互いに争わない。魔物は活動エネルギーを魔力で得ているので、お互いを食べる必要が無いのだ」
「その魔力はどうやって得るんだ?」
「それは空気中というか、世界中のどこにでもある。こうやって結界を作りでもしない限りはな」
「ああ、それで魔力の無い結界の中には魔物は入って来ないのか……でもオベリスクは俺と同じように魚を食べたよね?」
「魔族と魔物は違う。獣人族や鬼族などの亜人もそうだが、デミ・ヒューマンと呼ばれる存在は魔力以外のエネルギー源、すなわち食事も必要になる。そのかわりこうやって大気中に魔力が無い所でも魔法が使えるんだがな」
「なるほど、なんとなくわかって来たぞ。魔物が同士討ちをしない理屈を使うわけだな」
「そうだケンローも魔物だと認識してもらえれば、余計な事をしない限り襲われることもない」
「そういう魔法があるのかい?」
そう聞いた俺にオベリスクは首を横に振った。
「残念ながらそんな便利な……というか訳の分からない魔法は無い。ただ、方法が無いわけではない。結界内にいる魔物を利用すればいい」
「でも結界内には魔物はいないんだろう?」
「確かに動けるものは結界の外へと出て行ってしまっていない。しかし、植物に似た魔物には自分で動けないものも多いのだ。そこで結界が張られる前から既にここに生息していて、今も生きているものが見つかればその表皮などを纏って偽装できるかもしれない」
「なるほど、確かに理屈としては分かったよ。あんまり長距離だと流石にやばそうだけど、とりあえず近場で試してみるといいかもいしれない。海ってここからどれくらい離れてるのかな? 今日行った川の太さからすると結構遠いような気はするけどね」
「川沿いに進めば結構な速さで動けるから、丸一日もあれば海には出られるかもしれんな。川の水もあれば魚も採れて食料にも困らないだろう。何よりそれなら道に迷う事もない。まぁとりあえずはそのテントやらを川の近くへ移動させるのだろう? 今日は色々あったから余はもう寝るとするぞ」
そう言ってオベリスクは椅子から立つと地面に寝そべろうとした。
「何やってるんだよ。女の子を地面で寝かせられるわけがないだろう? まだまだ夜は冷えるだろう……魔族の習慣や体力はよく知らないけども……寝るならテントの中に入りなよ」
「ん? そんな薄布の中に入ったところで外とそう変わるもんでもないだろう。しかしまぁ面白そうだな」
そう言うとオベリスクはテント入り口から首を突っ込んで中を見る。そうしてまた俺の方を見た。
「外側の膜は雨避けなのはわかるが、この内側の網みたいなものはなんなのだ?」
「それはインナーテントと言って、虫よけの網で出来ているんだよ。そうして布が二重になる事で結露……夜露を防ぐんだ」
「おお、そうなのか? 寒いのは別にどうという事もないが、虫が来ないというのはいいな。夜露が降りないというのも快適そうだ。ん? しかし余がこの中で寝たら主はどこで寝るのだ?」
「そのテントは二人用だから、荷物を寄せれば俺も中で寝られるよ。とにかく一旦中に入ろう」
俺はそう言ってからオベリスクと一緒にテントの中に入って、小型のLEDランタンのスイッチを入れた。
「なんだそれは?! ライトニング魔法みたいだな? 油の明かりにしては明るすぎる」
「ああ、電気ってやつだから、昼にオベリスクに魚を採ってもらった雷魔法の親戚みたいな技術だな」
驚くオベリスクに俺は適当に説明して、少し散らかっていたキャンプ道具を足元の方に寄せた。オベリスクは身長が低いので、荷物を中に入れたままでも余裕で二人で寝れそうだ。
※最近はすっかりランタンもLED化しました。もちろん雰囲気重視でオイルランタンやガスランタンもいいんですが、便利なんですよね。不便を楽しみ行ってるんだろうと言われそうですね。
ランタンは使わずに、焚火とヘッドライトだけってパターンも多いです。




