マイナルの闇3
「・・・だ、誰・・・!?」
「あ、アルバ、でございます・・・やっぱり、おかしいでしょうか・・・・・」
「ち、違うよ!見違えたの!あなたそんなに綺麗な顔をしていたのね。」
思わぬ賛辞に、アルバはまだ居心地が悪そうではあったが、少し嬉しそうに頬を赤らめていた。
あのあと、アルバには風呂に入ってもらった。
これまでろくに体を洗ってこなかったため、躊躇ってはいたようだったが、清潔な方が自分にとっても周りにとってもいいことは自明であり、なつきは遠慮しないでゆっくり湯に浸かって疲れを癒すように言った。
その間なつきは、アルバの衣服を適当に見繕おうと街へ繰り出した。
服屋があるもんだと思っていたら、よほど都会ではない限り、既製の服はうっていないんだとか。
これではすぐに服を用意できないと慌てていると、中古品なら売っていると聞き、とりあえずはそれでいいかと思い、適当に大きめの男性用の衣服を購入した。あまり立派ではないが、これまで着ていたものよりはずっとマシである。下着類は新品で普通に変えるようだったので、自分の分も含め、いくつか購入した。
そして冒頭に至る。
もさもさだった髪は長さはあるが綺麗に整い後ろ手で結わえてある。髭も剃ったのだろう。加えて用意された服に袖を通して、現れたアルバは、先ほどとは全くの別人であった。見た目年齢は20歳前後だろう。
ちなみにこの世界では寿命は魔力の大小によって決まるため、見た目から年齢は測れない。故に年功序列のような文化はなく、成人以降の年齢を気にするものはあまりいない。
ーーーなんか普通に美男子じゃない・・・?
汚れていた髪と尻尾は今では銀色に輝き、金眼がよりその美しさを際立てていた。
「とりあえずこれで見た目は完璧ね。アルバは何か得意なことはある?冒険でも商業でも、何かのギルドに登録すればお金を稼げるし。どう?」
「・・・教育を受けていないので商業や手工業はできません。雇ってくれるところならあるかもしれませんが、奴隷上がりの私を引き受けてくれるところはそう多くはないと思われます・・・・。」
「そっか〜、あ、冒険者ギルドは?薬草採取とか、あまり稼げないかもだけど。でも魔物が出たら危ないか・・・・・・」
アルバのやせ細った体を見るかぎり魔物に勝てるイメージは湧かない。
「魔法は少しつかえるのですが、自分のためには使えないのです・・・・・」
「え、なにそれ?そういう宗教とかあるの?」
なつきが呑気に尋ねると、アルバはガバッと上の服を脱ぎ出し、なつきはギョッとした。
「!?」
「この、焼印のせいで・・・・・」
胸に押された、500円玉ほどの奴隷印。
なつきがアルバの傷を回復させたときは、衣服の上から魔法をかけたので、そのような焼印があることなど知らなかった。
「これは、奴隷が魔法を使って反抗しないように、主のため以外には魔法を使えないように制限するのです。この焼印がある限り・・・お、私は・・・・・・」
そう言って俯くアルバになつきは言葉を失った。
アルバはこの運命から逃げることができないのか。
どんなに見た目を見繕っても、彼は一生奴隷という立場からは抜け出せないのか。
「・・・・・ん?」
ーーーあの焼印ってもしかして?
少し距離があるため初めは気づかなかったが、その焼印というのは、
「魔法陣?」
魔法を行使する方法は大きく分けて3つある。
その一つが魔法陣によるものだ。
「ねえ、その魔法陣を書き換えればいいんじゃない?」
「なっ!?不可能でございます!魔法陣というのは難解で、教育を受けたものでさえ満足に使えないと聴きます。ましてや書き換えなど、、、知識だけではなく、元の魔法陣を作った者の倍以上の魔力を必要とします・・・・・!!!」
「あはは、知ってるよ。」
魔法陣に関してはメイにしっかり教えられている。
そして元々ガリ勉気質の私には、普通の魔法より難解な魔法陣の方に興味を引かれた。
「私に任せてみない?」
「・・・・・なつき様に救われた命でございます。どうぞお好きなようにしてくださいませ・・・」
魔法陣の書き換え作業が始まる。
傷の一種であるため回復魔法で治せそうにも見えるが、魔力がこもったこの傷を完全に治すことは不可能である。
そのため、「書き換え」を行う。
まずは元の魔法陣を理解する必要がある。
「ごめん、近づくね。」
「は、はい・・・・」
近くで見るために、上半身裸の男の胸元を凝視するなつき。
本人は至って真面目なのだが、今まで異性にここまで近寄られたことのないアルバはかなり緊張していた。
「結構複雑だけど、、理解はしたわ。書き換えの魔法陣も大丈夫。」
「ほ、ほんとですか・・・!?」
嬉しそうにするアルバであったが、なつきは「でも、」と続けた。
「上からさらに別な焼き跡をつけて、魔法陣をいじるの。かなり痛いと思うし、一瞬では終わらないから、辛いけど、我慢してね。」
コクリと頷くアルバ。
それを確認し、魔法を唱える。
「 “フレイア・・・”」
「!」
意識がある状態でなつきの魔法を初めてみたアルバは驚愕した。
しかし、今はそういう場合ではないので、来るであろう痛みに備えてグッと歯を食い縛る。
指先に集めた炎を最大限圧縮し、小さな焼印にも書き込めるようにする。
「行くよ。」
ジュッと嫌な音がした。
「っ!!!」
痛みをこらえるアルバ。
失敗はできないので、苦しむアルバを見て見ぬ振りをしながら魔力を込め、集中して魔法陣を書き足した。
「・・・・これで、よし・・・・・・・ “ノエル”」
回復魔法をかけ、火傷の痛みを取る。
アルバはさらに驚き、言葉を失っていた。
「魔法は使えそう?」
その言葉にハッとして、手先に魔力を集めて見る。
アルバの魔力はそこまで強いものではないが、それでも自分の意思で魔力を動かすことができた。
「夢の、夢のようです。」
「そう。」
嬉しそうにするアルバを見て、なつきもつい笑顔になった。
こうしてアルバを長年苦しめ続けた焼印はその効力を失ったのだった。




