昇級祝い
魔具の街アグニマス、ひっそりと裏通りに佇むその店は繁盛しているようには見えないが、かのS級冒険者エルランドが認める凄腕の魔具師ガーボッドの魔具店だった。
チリーンとなったのは、来客を告げるベルではなく、手紙が投函されたことを告げるものであった。
なんとなく厄介なものである気がして気が進まなかったが、仕方なく開封した。差出人はなつきであった。以前、自分の店に出入りしては、魔具の作り方についてしつこく聞いてきた女だった。間違いなくワケありだ。普通なら知るはずもない魔法陣の描き方を知っていたのだから。一体誰に習ったんだか。
そんな女からの手紙だ。どんな厄介ごとかと思えばそれは呑気なものだった。
要約すると、王都に店を開いた事と相棒の獣人がC級冒険者になったのを祝うからお前も来い、というものだった。
面倒くさい事この上ないと思い、断ろうとしたが、暦を見て王都に向かうことを決めた。
「・・・もうそんな時期か・・・・・・」
アグニマスを出るのは久しぶりだった。1頭建ての馬車に乗り、御者に行き先を告げた。
* * * * *
「やあなつき、繁盛しているみたいだね。」
「わ!久しぶり!」
口コミによって女性たちの間で流行になりつつある魔具店サナギにやってきたのは店主の友人、レオであった。
「・・・僕の見立ても間違いじゃなかったようだ。」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもないよ。」
ボソッと何かを呟いた気がしたが、気のせいらしい。
「ところでなつき、今夜は空いてる?話があるんだけど、エミリーも誘って食事でもしない?」
「あーー、今日はごめん。予定があるんだ。」
「そうなの?なら別の日にしよう。」
レオが店の外で会おうと誘いを持ちかけたのは初めてだった。彼は最近、エミリーとも仲良くしてくれていて、店に立ち寄るときには必ず作業場にも挨拶をして帰って行く。
「あ、でもね、今日は私の友達の冒険者ランクが上がってね、そのパーティーをするの。それでもよかったらくる?」
「パーティー?えーと、誰が来るんだい?」
「エミリーと、アルバっていう私のお友達と、冒険者のエルランド。知ってる?あと、びっくりしないで欲しいんだけどホールデインの公爵様に、魔具師のガーボッドさんっていうおじさん。」
「・・・・ホールデイン公に、ガーボッド・・・?」
彼の反応が意外なもので驚いた。ホールデイン公爵のアーサーさんはおそらく有名だが、ガーボッドも名が知れているのだろうか?確かにエルが贔屓にするような店の店主だし高名な魔具師なのかも知れない。エルよりもその二人の方が有名人なのだろうか。
「うーん、知らない人ばかりだし遠慮しておく。また誘いにくるよ。」
「はーい。またね。」
店を後にするレオを見送り、閉店の準備に取り掛かる。今日はパーティーのために早じまいだ。
従業員のエミリーと準備を終わらせ、ホールデイン邸へ帰る。実はアーサーさんは昨日から王都に滞在していて、しばらくこちらで仕事だという。故に、現在の屋敷には使用人がたくさんいて、居候のなつきやアルバまでも世話をしてもらっているというなんともありがたい状況なのである。
ホールデイン領から持ってきた食材を一流のシェフが料理して、パーティーの準備をしているだろう。少し気が引けながらも、かなり楽しみにしている。
エミリーと屋敷にたどり着くと、メイドのルネさんが迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。あなたがエミリー様でございますね?ささ、こちらへ。みなさまお待ちしておりますよ。」
私以上にこの状況になれないであろうエミリーは顔が引きつっていた。
「エミリー、私もいるし、アーサーさんはマナーを気にする人じゃないから大丈夫だよ。」
「そ、そう言われても・・・・・」
というか私もこの謎の貴族対応にはなれていないのだ。エミリーには前もってホールデイン公爵になぜか世話になっているという話はしてあるため、そこはもう驚かれていないが(もちろん話したときは飛び上がっていた・・・)いざ自分自身がこういったおもてなしを受けるとあまりにも未知のことすぎて、狼狽えるばかりであった。
エミリーのオロオロが伝染らないように無心でルネさんの後をついて行くと、広間には華やかな料理が並んでいた。
「遅いぞ。」
「ごめんごめん。あ!ガーボッドさん!お久しぶりです!」
そこにはすでに他のメンバーが揃っており、久しぶりの再会を喜ぶ。ガーボッドは相変わらずにこりともしなかったが、それがまた懐かしかった。
アーサーとガーボッドにエミリーを紹介し、アルバの昇級祝いと言う名の食事会が始まった。
「ガーボッドさん、明日、サナギにきて下さいよ!」
「・・・まあだろう。」
「そうだなつき、魔法陣なんだけど、うまく機能しているよ。ありがとう。」
アーサーが言うのは、先日不具合が見られた、守りの魔法陣を補強したことであろう。
「ガーボッドが来てくれたらエルがあんなに疲れることもなかったんだろうけど。」
「やることがあったんだ。」
エルはガーボッドを見ながら、恨めしそうにしていた。しかしなつきは今のアーサーの発言の意図が読めずにいた。
「ガーボッドさんなら簡単に直せたんですか?」
今の発言から察するとそういうことなのだろうかと思い、アーサーに尋ねると、その返答は思いもよらぬものだった。
「あれ、知り合いだと言うから知っているのだと思っていたよ。元はガーボッドが描いたんだよ。あの魔法陣。」
「へえ、あのすごい魔法陣をガーボッドさんが・・・・あれ、でも確かあれを描いた人って・・・」
記憶を手繰り寄せる。あれ、てことはもしかして、ガーボッドさんって・・・!?
たどり着いてしまった結論の真偽はエルランドの口から容易く紡がれた。
「この爺さんは先代の筆頭宮廷魔導師なんだよ。国の魔導師の親玉だったってわけだ。」
「ううぇええええ!?」
衝撃の事実に開いた口がふさがらない。ほら、エミリーも持っていたフォークを落としたじゃないか。ふとアルバを見ると普通通りだ。こいつ知っていたな。エルに教えてもらったのだろう。
と言うかそれってかなり偉い人ってわけでしょう??いや、でも納得だ。以前、国家機密の時の魔法陣を知っているのはなぜかと聞いたときに、それとなく濁されたがこう言うことだったのだ、国家機密を知ることのできる人間だったと言うわけだ。
「うるさいぞ。ったく、俺はギルドゲームの準備で忙しいんだ。変に吹聴して騒ぎを起こすなよ。」
傍迷惑だと顔をしかめて料理を口に運ぶガーボッド。ガーボッドの正体をあまり言いふらすなと言うことだ。
彼の言いたいことはわかったが、今の発言の中に聞きなれない言葉があった。
「ギルドゲームって?」
この発言に、今度は皆の口がふさがらなくなるのであった。




