躍進
閑話:主人公はアルバです。
「アルバ、行くぞ。」
「はい!」
近頃、俺の恩人であるなつきは商いに忙しい。俺は手伝うことができないため、その間、自身を鍛えることにした。
幸運なことに超実力派冒険者であるエルランドに師事する事を許されたのだ。こうして依頼に誘われることも多くなった。
彼はS級で、共にいると自身のランクより上の依頼を受けることができ、ギルドへの貢献度が飛躍的に上がった。
「今日はガルーダの討伐だな。知ってるか?」
首を横に振ると、エルランドは丁寧に魔物の説明をする。ガルーダとは鳥の魔物で、鋭い嘴とその素早さが厄介らしい。
「お前とどっちが早いかな・・・。俺は手は出さない。自分で対処してみろ。」
「は、はい!」
エルランドは手を出さないと言ったら本当に出さない。たとえどんなにアルバが窮地に追い込まれようとも。
それをここ最近で、身をもって体感しているため緊張が走る。もちろん、無理そうなことなら端から彼はそんなことは言わない。アルバにもギリギリ可能な依頼を受け、冒険者としてのレベルアップを促しているのだ。おかげで、アルバはD級だが実力だけならC級かB級の下位群と変わらなくなっていた。
王都から程近い岩場にたどり着いた。ここでガルーダの目撃情報が出ているらしい。かなり好戦的な魔物で、目撃情報が出るとすぐに近くの町や集落から依頼が出る。しかし、並みの冒険者ではなかなか手を出すことが憚られる魔物で、B級以上の冒険者か、C級以上のパーティーが引き受けることがほとんどだ。
「目撃証言はこの辺りだな。探知魔法で探してみろ。」
「わかりました。」
探知魔法は誰にでも使うことができる初歩の直接魔法だが、その精度は魔法の実力に比例する。アルバは魔法はそれほど得意ではなく、直接魔法が人並みに使える程度だ。以前に何度かなつきが使用している場面を見たことがあるが、彼女はあっという間に魔物を見つけてしまう。ちなみに探知魔法は魔力を持つものを探すことしかできないため、失せ物には使えない。人探しや魔物を避けたい時、逆にこうして魔物を狩りたい時に非常に有用だ。
足元に生えている植物の葉をプチっとちぎり、魔力を送り込む。魔力の質に応じて、そこら一帯の植物と風が見ている景色を共有してくれる。達人ならばどこにどんな魔物や人がいるかを判別することができるらしい。なつきに関しては、目当ての場所まで植物が風に乗って案内する始末だ。一方アルバは、どの辺りに魔力を持つものがいるが漠然と分かるだけであった。
「・・・・ここから、北東に・・1キロほど進んだところでしょうか・・・・ほかよりも大きめの魔力があります。」
「上出来だ。では向かうか。」
「はい。」
探知魔法で得られる情報は生まれ持った資質に左右されてしまう。しかし、その情報を読み取ることは経験でいくらかはカバーできる。故にアルバはその精度を高めようと鍛錬中なのであった。
ガルーダがいると思しき場所まで向かう。極限まで気配を抑え、魔力も潜める。これも全てエルランドに教わった、上級冒険者には必須のスキルであった。
「いたな・・・・。俺はここで待機する。あとは好きにしろ。」
「・・・わかりました・・・・」
そこにはお目当のガルーダが一体いた。気配を隠しながら、持ち前の素早さで一気に距離を詰めたが、既の所で気づかれてしまった。
「ガアアァアアア!!!」
激しく雄叫び上げる魔物出会ったが臆さない。一定の距離を取り隙のない構えを取る。しかしーーー
「!?」
消えた!?いや・・・・
「っ!!!」
「ギャアア!!!!」
目に追うのがやっとの速さで、鳴き声をあげながらガルーダはアルバに襲いかかった。
鋭い爪を振り上げられ、オリハルコンの短剣で受け止める。しかし全ては受け切れずに、肩から出血する。
「・・・くそっ・・・・!!」
どくどくと血が流れる。どうやら少し深めの傷を受けてしまった。素早いとは聞いていたが、銀狼である自分よりも素早い魔物は初めてであった。
集中しろ!目では追えるんだ。対応できるはずなんだ!
感覚を研ぎ澄ませ、ガルーダの動きを捉えようと集中するアルバ。そしてついに、
「ギャアアアアアーーア!!!!!」
「・・・・よし!」
ガルーダの喉元に刃を突き立てた。急所に傷を負ったガルーダは後ろに引いてのたうち回った。
留めを刺すべく一気に距離を縮め、一撃を加えた。大きく目を見開いたのちに、ガルーダは絶命した。
「・・・・まあ合格だ。傷を見せろ。」
影からエルランドが姿を現した。傷を受けた箇所を見せると、顔色一つ変えずに治癒魔法を施さ、血が止まり痛みが和らいだ。
「あとはなつきに頼んでくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
どうやらエルランドはそれほど治癒魔法が得意ではないらしい。至高の冒険者も万能ではない。
「ガルーダの羽はよく売れるから採取しておくといい。」
ガルーダの骸を見てエルランドは言った。魔石にダメージを与えなければ魔物の体は消滅しない。欲しい素材があった場合にはそれを取ってから、魔石を採取する。
ガルーダの羽をむしり取りなつきにもらった道具入れにそれらを入れて行く。正直いい気分はしない。ある程度とったところで、エルランドが火魔法でガルーダを焼くとみるみる体が消滅して行き、最後に魔石が残った。
魔石も道具入れに入れ、依頼は完遂した。
その日の夕方、未だになれない自身の住処であるホールデイン邸に女性の悲鳴がこだました。
「きゃあああ!!!なんでこんなに怪我してるの!?」
「す、すみません・・・」
「エル!もう少し優しくできないの!?毎回傷負わせて・・・・。今日は結構ひどい傷だし!」
「すまん。」
全く悪びれる様子のないエルランドを怒るのはアルバのかけがえのない恩人であり主人であるなつき。
「"ノエル"」
精霊の名を唱えると、みるみる傷は癒えていき、跡形もなくなった。
「すごい・・・・。全然痛くないです。ありがとうございます。」
「もう!アルバも気をつけてよね!」
プンプン怒る彼女は全く怖くないが、謝っておかないと機嫌が悪くなるだろうから素直に謝る。
顔をあわせるたびに温かい気持ちになる。感謝という言葉でだけでは言い切れない大恩がある。
この人を守れるような男になる。この目標さえあれば、エルランドの辛いしごきにも耐えることができる。
そしてこの三日後、アルバはC級へと上がることになったのであった。




