複製の魔法陣5
「じゃ、じゃあ行くわね・・・・」
ゴクリと二人で生唾を飲み込む。昨晩思いついた魔法陣を描き終えてから就寝し、現在、サナギ開店15分前。エミリーと二人、できあがった二つの魔法陣を凝視する。
魔法陣は1つである必要はない。
連結の陣があることを前回のホールデイン領で思い出した。魔法陣は必ずしも一つでなければいけないわけではない。
一方の魔法陣には物体の読み取りを、もう一方には構成・組み換えの魔法陣を描いた。つまり片方の陣の上にオリジナルの道具を置き、もう一方に原材料さえおいてしまえば誰でも簡単に複製ができる仕組み、のはずだ。
魔力を流す陣ではないので、両方の陣に手を触れて念じるだけで良い。すると、原材料をおいた方の陣が強く魔力を放つ。
「やった!成功!?」
シュウシュウと音を立てて現れたそれは、読み取りの陣においたものと同じ、エミリーお手製のお人形だった。
「やったあああ!!エミリー見て!!」
「見てるわよ!これで時間がかからなくて済むわね!!!」
エミリーと手を合わせ、喜びを分かち合う。しかし、ふと違和感に気づいた。
「あれ、、オリジナルの方は動いているけど、、コピーの方は、普通の人形に見え・・・」
「あ、あら、そうね?」
魔具店の商品のためオリジナルの方はエミリーが作成した人形になつきの魔法陣が描かれているため、ひょこひょこ動く仕様になっている。しかしどうやらコピーの方には魔法陣がコピーできていない。
「と、いうことは私の労力は変わらずってこと・・・?」
「・・・・・な、なぜかしら・・・」
エミリーはオリジナルさえ作ればあとは量産できるとわかった。が、しかしなつきの方は一つ一つに魔法陣を描き入れなければならないということか。あれは、結構集中力を必要とする疲れる作業なのだが・・・仕方ない。エミリーが新作に労力を割く分だと思おう。
喜ぶべきか否か・・・まあ複製の魔法陣は完成したのだから喜んでいいのだろう。実際エミリーは嬉しそうだ。
軒先の看板をOPENに変え、客が来るのをのんびりと待つ。少しすると、ちらほらと女性客が現れ始めた。これは、先週よりもペースが早くないか・・・?
「ほんとだ!かわいい雑貨がたくさん!」
「しかもこれ魔具なんでしょ?今までこんなにかわいいのなかったから嬉しい!」
「噂通りね!」
話から察するに、先週のオープン1周目で噂が広まってくれたらしい。ありがたい限りだ。これからの魔法陣描き込みという重労働さえなければ。
「ありがとうございましたー!・・・・ふぅ。」
客を送り出し、このすきに昼食でも食べようとエミリーの元へ向かう。
なつきは店頭にいなければならないため、エミリーが毎日軽食を用意してくれる。まあ、お客さんに対応をしないときは会計の椅子に座りのんびりお茶を飲んでいるのだが。自営業様様だ。やることはやっているのだから誰も文句は言わない、はず。
15分ほどで昼食を食べ終え、店頭で客を待つ。昼時はあまり客は来ないが、この日は珍しくカランコロンと呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃいま・・・レオ!」
「やあ。元気そうだね。」
実はこの日、来て欲しいなと待ち望んでいたのだ。理由はもちろん、完成させた魔法陣を見せるため。
「見てー!連結の魔法陣を組んだの!」
「もう完成させたの?普通の研究者でも1ヶ月は優にかかるから・・・・早いねえ。」
目をパチクリさせて驚くレオに得意顔で魔法陣を細かいところまで解説していく。
「でね、朝に試して見たんだけど、魔法陣だけコピーできないの。」
「魔法陣が?うーん・・・複雑なものだから難しいってことなのかな?」
とりあえず目の前でやってみて、とレオがいうので、可愛らしい道具入れと、その材料を作業場から持って来る。エミリーには許可済みだ。
二つの魔法陣にそれぞれの品を置き、魔法陣を発動させる。
「・・・・・・・ほら、ね?片方は魔具だけど、片方は普通の道具入れ。」
二つの道具入れを開けて中を覗かせる。一方は外側からは考えられないほどの広い空間が広がっているが、もう一方は外側から見た通りの空間しか広がっていない。
「あー、なるほどね。」
「な、なんかわかった?」
レオが、呆れたように口を開いた。
「うっかりしすぎだよ。原材料に魔法陣を描くインクも足さないと描けないだろう。無から有を生み出す魔法陣ではないのだから。」
「それだ・・・・・」
わかってしまえば至極簡単なことだった。純粋に、魔法陣を描くための原材料が足りなかっただけなのだ。
「エミリー!私わかったよ!こっち来てー!」
嬉しさのあまりエミリーを呼び出す。
「・・・どうした・・の・・・・」
店の奥へと続く扉からひょこっと顔を出したエミリーは、レオをみるや否や顔を青くしてまた姿を隠した。
「お、お客様がいるときに呼ばないでよ!」
「え・・あ、、ご、ごめん。嬉しくて、つい。」
しまった。エミリーのことをどうして気遣ってやれなかったんだ。恐る恐るレオの顔を見てみると、キョトンとしていた。
「もしかして、今の子がこの可愛らしい道具を作っているの?」
「え、ええ。エミリーといって、私の大切な相方よ。」
おそらく彼女が蟲族だということをレオは察しただろう。彼に、エミリーを傷つけるような真似はするなと暗に示す。レオはそれを察したようで、その上でニコニコと微笑んだ。
「隠れたままでいいから聞いておくれ。」
「?」
扉の後ろに隠れているエミリーが反応した気配がした。そのままレオの話に耳を傾けている。
「先日、君の作ったブレスレットを姉にプレゼントしたんだ。すごく喜んでくれたよ。ありがとうね。」
「・・・!し、仕事ですから・・・!!!」
パタパタと奥の作業場に戻っていく足音が聞こえた。レオがいい人で助かったが、一応謝りにいかねば。
「レオ、ちょっと待っててくれる?私エミリーに謝らないと・・・・・無神経なことしちゃった・・・」
「魔法陣が完成したらみんな喜ぶよ。まあ、君がそう思うなら謝っておいたら?
まあ、僕は帰ろうかな。魔法陣の話をしに来ただけだから。」
「そう?ごめんね。ありがとう!」
「うん。またね。」
レオが出て行ったのを確認し、作業場へと向かう。
「エミリー?入るよ?」
作業場の扉を開けると、エミリーはご機嫌のようだった。
「あ、なつき!今度から気をつけてね。お客様が優しかったからよかったけど・・・・・」
「うん。ごめんね。・・・あ、彼が前に会って見たいって言ってた人だよ。今度もし気が向いたら、会ってあげて?」
「・・・・・・わ、わかったわ・・・」
不安半分嬉しさ半分といったところだろうか。
「わ、私ね、初めて、お礼を言われたわ・・・!だから、嬉しいから、なつきのうっかりのことは許してあげる!」
ほおを軽く膨らませて怒ったようにしているが、実際はそうでもないようだ。大人っぽいと勝手に決めつけていたが、子供らしいところもあるんだな。これは、レオに感謝しておこう。
この後、ご機嫌のエミリーに、なぜ魔法陣だけコピーされなかったのか伝えると、呆れたようにジト目で睨まれるのであった。




