複製の魔法陣2
オープンから数日、明日は休業日、ということでやっと一息といったところだ。怒涛の一週間だった。
「明日はお休みだから、ゆっくり休むこと!」
「それは私じゃなくてなつきの方よ。ちゃんと寝てる?いつもより肌が荒れている気がするわ。」
「そ、そう?」
確かに、ここ最近は魔法陣を考えるためにちょっとばかし夜更かししていたが・・・
おそるべし、エミリーの観察眼。
「じゃあお疲れ様!またね!」
「バイバイ!」
エミリーと別れ、帰宅する。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。夕食できてますよ。」
「やった。ありがとー!」
アルバは本当にいい子だな、と思いながら夕食にありつく。うん、今日も美味しい。アルバはきっといいお嫁さんになる(?)。
お互い今日あったことを話しながら食事を楽しんでいると、ピピピピ、とどこからか音がなっている。
「なんの音?」
「エントランスの方からですね。みてきます。」
聴覚の優れたアルバが音のありかをすぐに突き止めたのか音が止んだ。すぐにアルバも戻ってくるが、手に何か持っている。
「ポストの音でした。転送の魔法で手紙が入ると音がなる仕組みのようです。」
「へえ、そんなのあるんだ。手紙はエル宛?」
「確認してくださいませ。」
文字の読めないアルバが、手紙を差し出す。封筒の宛名には「なつき」と書かれていた。差出人はエルだ。
「なんだろ。読むね。えーと・・・
『なつきへ。忙しいところすまない。ホールデイン領のアーサーの屋敷にある魔法陣の調子が悪いんだが、こっちへ来れないか?防犯に支障が出るようでできればすぐに直したいとのことなんだが、なにぶん昔の魔法陣のようで解読できるやつがいないみたいなんだ。店が休みの時にきてもらえると助かる。アルバも共に連れてくるといい。馬車代は後からアーサーが支払うから気にするな。 エルランド』
・・・・あー、なるほど。」
「明日はお休みでしたよね?行くなら今すぐ出た方がよろしいかと思いますけど・・・・、如何なさいますか?」
正直色々な魔法陣を試したりしてみたい、がしかし、いま思いつくのはあらかた試してしまった。気分転換も必要かもしれない。それに、アーサーさんにはかなりお世話になっているし・・・・
「じゃあ、すぐ出発しよう。急いでもらえば深夜には着くでしょう。」
「はい。」
至急ホールデイン領へと向かうべく馬車乗り場に向かう。深夜でも需要があるのか馬車乗り場は営業していた。流石に乗合馬車の方はこの時間の便はないらしい。一番手前の2頭立て馬車に当たりをつける。
「ホールデイン侯爵邸まで!風魔法で援護するので急ぎめでお願いしていいですか?」
御者に尋ねると了承してもらえたので、『シルキー』を唱えてスピードアップを促す。
この調子なら3時間ほどで着くのではないだろうか。
「風魔法って便利ですね。」
「そうね。火や水の魔法と違って他の場所に影響をあんまり与えないから使いやすいってのはあるかな。」
例えば、森で火魔法、とかだ。どうなるかは想像がつくだろう。山火事だ。
「何時間も出しっ放しで平気ですか?」
「あー、うん。これくらいなら問題ないよ。」
なんせドラゴンの・・・(以下略)
馬車に乗り込んでから数時間が経過し、日をまたぐ1時間ほど前にホールデイン邸に辿り着くことが出来た。
ホールデイン邸はまだ明かりのついている部屋が多くあった。使用人はまだほとんど起きているのであろう。門番に声をかけるとすぐに通され、さらに使用人のルネにも迎えられ、客間へと案内された。流石に時間も時間だからなのかアーサーに挨拶するのは明日でいいとのことだ。お互いにその方がいいだろう。
「じゃあ、なつき様、おやすみなさい。」
「うん。おやすみー。」
アルバは自分にあてがわれた部屋に戻っていった。途端に静かな空間が広がる。
「・・・・・綺麗・・・」
なんとなく寝れないでいたので、バルコニーに出て空を見上げる。
今日は星がよく見える。龍の峰にいる頃も綺麗な星空が毎日のように見えたが、ここの星空も綺麗だ。
「風邪引くぞ。」
「ひぃっ!!」
「・・・・なんだ、人を化け物みたいに・・・」
突然隣から声がかけられたのだ。驚くのも無理はない。
まさか隣のバルコニーからイケメンおばけに話しかけられるなんて想像もしていなかったのだから。
「お前いま失礼なこと考えてないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・気のせいですよ。」
「なんだその間は・・・・・いや、まあいい。まさか、こんなに早く来るなんて思わなかった。アーサーも喜ぶ。」
不意に微笑むエルに、不覚にもドキッとしてしまった。
彼がこんな風に笑うのは珍しい。
「・・・ずっと笑っていたらいいのに・・・」
「は?」
「そしたら、もっと話しかけやすくなるよ?」
「・・・・余計なお世話だ。」
またいつもの仏頂面に戻ってしまった。指摘しない方が良かったかもしれない。
「お前のアホヅラとは違うんだ。」
「な!?なにそれ・・・!!」
そういって隣のバルコニーから手を伸ばしたエルランドは、むにゅりとなつきの頬をつねった。
「ひゅねらなひで!!!(訳:つねらないで!!!)」
「ほら、アホヅラだ。」
また無意識にふんわりとエルランドは微笑んだ。先ほどよりも子供っぽい笑みだ。
あ、また笑ってる、なんてなつきが思っていることなど知らない。
エルランドはこれまた無意識に、怒っているなつきの頰から手を離し、そのまま彼女の髪を撫でる。
「あ、あの、エル?」
「!!」
顔を赤らめて、おどおどするなつきがいることに気づいた。
しまった、俺は何をしていた?
慌ててエルランドはなつきから手を離した。
ここが隣の部屋同士のバルコニーで良かったのかもしれない。
手は伸ばせても、直接隣に立つことはできない。
もし、より手が届くところにいたら、何をしでかしただろうと自分で自分が信じられない。
「・・・すまん。遊びすぎた・・・・」
「あ、そ、そうね。次からは気をつけてね!」
気まずい空気が一瞬流れ、これ以上話しをするのはちょっときついとお互いに判断したからなのか、おやすみと挨拶をしあって、自室に戻った。
寝よう寝よう寝よう。
エルは私の顔で遊んでいただけ!そう!ドキドキなんてしてない!びっくりしただけ!
全く失礼しちゃうな!もう!
「考えても仕方ない!寝よう!」
そうしてホールデイン邸のふかふかベッドに潜り込んだのだった。
今日は魔法陣のことは忘れよう。うん、それが一番いい。




