複製の魔法陣
「いらっしゃいませー!」
今日も昨日と同じか、もしかすると少し多いくらいの客入りだ。あくまで魔具店なので、一人で売り場を回すには問題ないのだが、やはりこれではいずれ在庫切れの恐れが出てくる・・・・
何としても複製の魔法陣を完成させなければ!
客が途切れた隙に、色々と魔法陣を描いてみる。
うーん、それもこれも、論理が破綻している・・・・・・
いや、複製っていうのがそもそも間違っているのかも。
材料だけ用意して、あとは組み立てる魔法陣とか・・・・・・?
だめだ、これだと、私が組み立て方を熟知する必要があるし、エミリーは組み立て方は知ってるけど魔法陣は詳しくないようだし・・・
カランコロン、
来客を告げるベルが鳴ったので、考えるのをやめ「いらっしゃいませ」と客の方を向いた。
するとそこにいたのは、昨夜知り合ったばかりの友人ではないか。
「レオ!本当に来てくれたんだ!」
「やあなつき。可愛らしいお店だね。ターゲットは女性なのかな?いい手だね。」
「ありがとう。一応見ていって!可愛すぎるかもしれないけど・・・・」
そう勧めると、特に嫌がった様子もなくのんびりと店内を見て回るレオ。たまに手にとったりと、好意的な印象を受ける。
「これって全部なつきが作ってるの?」
「ううん。私は魔法陣を描き込むだけ。作ってるのは別の子なの。」
「へー。会ってみたいな。」
「え?あー・・・ちょっと聞いてみるね?」
エミリーはどう思うだろうか。会うだけなら構わないのだろうか。
隣の作業場に顔をひょっこり出したなつきに気づいたエミリーはどうしたのかと尋ねた。
「お客さんがね、エミリーに会いたいっていってるんだけど、どうかな・・・?」
「え・・・お客さんが・・・・・・」
よみがえるのはガラクタ市での悪い思い出ばかりだ。自分の顔をみると客は途端に離れていってしまう。
「で、できれば会いたくない・・・」
「そ、そっか。じゃあ、忙しいって伝えておくね!」
やっぱりまだ人に会うのは怖いのだろうと思い、作業中で彼女は忙しいということをレオに伝えた。
「そっか。残念だな。そういえば、魔法陣の方はどう?」
「んー、色々考えたんだけど、どれも無理だと思う。」
そういって今日空いた時間に書き溜めた魔法陣の案をレオに見せる。
「・・・・・これ、全部なつきが考えたんだよね・・・・・?」
「へ?うん、そうだよ。」
それらを真剣に眺めるレオに、もしかしてとんでもない魔法陣が紛れていたのかと焦る。
以前はガーボッドに、機密の魔法陣をどこで知ったのかと尋ねられたりもしたから、その二の舞は避けたい。言い訳はできなくもないが・・・・
でも多分そこまで珍しいものは組み込まれていないはずだ。組み合わせ自体はオリジナルだが、構成要素自体は普通のはず。
「ど、どうかした・・・・?」
「いや・・・なつきが思っていたよりずっと魔法陣に通じてたもんだから驚いて・・・・・」
そ、そういうことか。予想より馬鹿じゃなくて驚いているということか。とりあえず一安心だ。
「僕も考えてはみたんだけどね、この感じだとなつきが自分で考えた方がいいものができそうだ。」
「そう?何かあったら教えて欲しいんだけど・・・」
「ん、了解した。それにしても誰に習ったんだい?よっぽど良い師に教えられたんだね。」
「・・・・おばあちゃんが、物知りで・・・・・・・」
「おばあちゃん?・・・・ふうん。」
なんだか怪しまれている気がするが、まあ良いだろう。それ以上は答えられない。
私を育ててくれたのは、何年生きているのかもわからないドラゴンなんです、というわけにはいかないだろう。
「まあ、また来るよ。あ、せっかくだから・・・これ買おうかな。」
そういってレオが手にしたのはシンプルなブレスレットだった。
「ありがとう。プレゼント用?包む?」
「んー、じゃあお願いするよ。」
彼女にでもあげるのかな、と考えつつ丁寧にラッピング用の袋に詰める。うん。なかなかの出来。
「えーと、20フェントになります。」
「あれ?付与付きなのに安いね?」
なんせ材料はタダでゲットしてるからね、とは言わないでおく。最近ではアルバやエルも使わないからと小さな魔石をくれるのだ。
支払いを済ませたレオは店を出て行く。
「ありがとう。また来てね。」
「うん。またね。」
レオがいなくなってからも、ちょこちょこお客さん(全て女性)は入って来て、この日もなかなかの売り上げだった。
「考えたんだけど、私がもっと作業すれば良いだけだと思うの。昨日と今日は開店時間しか働いていないし、そのほかの時間も作業すれば間に合うと思うんだけど、どうかしら?」
「・・・・・それは・・・・・・・・」
その分、給料を払えば良いのだろう。新たに一人雇うより人件費はかからない。それに本人から進んでの提案だ。
しかしなつきにはどうしても引っかかることがあった。
「いや・・・やっぱりダメ。休むのも仕事のうちだよ。」
自身が何で死んだかを忘れちゃいない。
働きすぎ、というのは死に繋がることがあるというのを身を以て知っているのだ。自分の店でそんな惨劇を繰り返したくはない。
「絶対に複製の魔法陣を完成させるから、待ってて。もし回らなそうだったら、休業日をもう一日増やそう?」
「そう?まあ、なつきがそういうんだったら・・・でも、あなたも無理しないでちょうだいね?」
「うん、ありがとね、エミリー。」
思いがけない労いの言葉に心が温かくなった。なんて優しい子なんだろう。
何としても魔法陣の研究を進めよう!というか今気づいたけど、研究所なんていかなくても魔法陣の研究ってできるのでは・・・・・・
いや、設備の違いとかあるのかな・・・・。
とにかく、また色々試してみよう、と意気込んで帰宅する。
なんだか良い匂いがした。これは・・グラタンかな?
「あ、お帰りなさいませ。」
「ただいまー。エルは?」
夕食の準備を進めるアルバがそこにいた。しかしエルの姿が見えない。
最近は食事は3人で取ることが多かったので、珍しいと思った。
「アーサー様から連絡を受けたようで、先ほどホールデイン領へ発ちました。なんでも、急ぎの用なんだとか。」
「ふうん、大変ね。」
まああの人にしてみたら大したことはないんだろう。特に心配することもなくアルバの作った夕食をいただく。
「アルバは料理も上手だねー。美味しいよ。」
「あ、ありがとうございます。」
・・・・尻尾が揺れている。こういうところ可愛いな・・・。
思わず手を伸ばし、魅惑のモフモフに触れる。
「・・・あの・・・・・」
「あ、ごめん。つい。」
夕食後も、寝るまで色々と考えてみたが、最善と言えるものは思いつかなかった。
あと少しな気はするが、まだ道のりは長そうだ。




