開業!3
待ちに待ったオープン当日、表の看板をCLOSEからOPENへと変えようと扉をあけて外に出ると、そこにはすでに数人の客が列を作っていた。
「わ!いらっしゃいませ!魔具店サナギ、ただいまより開店です!」
商業ギルドに頼んだ宣伝効果なのだろうか。ひっきりなしにとまではいかないが、かなりの集客なのではないか。商品を購入する客も多い。
「かわいい!冒険者用のグローブってゴツいのばっかりでかわいいの探してたの!」
「え、これの魔力伝導率すごくない?買うわ!」
日用品よりも、冒険者用の魔具の売れ行きがかなりいい。これはなかなかの滑り出しだ。ターゲットを絞ったのがよかったのかもしれない。そういえば前世でも女性目線で物を考えると売れる、みたいなのを聞いたことがあったかもな。
オープン初日はなかなかの出来で終わった。この調子が続いていけば、繁盛店といってもいいのではないか。
今日は物珍しさできた客がほとんどだろうが、掴みはよかった気がする。
「思ったより売れるものなのね。嬉しいわ!」
「そうね。やっぱりエミリーのセンスがいいんだよ。」
「私の力だけじゃこんなに売れないわ。なつきの付与がきっとすごく上手なのね!」
お互いを褒め称え、今日の成功を祝う。しかし、二人には気になることがあった。
「十分に用意したつもりだったけど、このペースに商品が追いつくかな・・・?」
「そうね。一日中作業はしていたんだけど、追いついてはいない、かな。なつきが魔法陣を描く作業も残っているしね。」
従業員を増やすのが手っ取り早いが、人件費はできるだけ抑えたい。
前世には機械が普及していたから大量生産なんてのもできたが、流石にそれを一から、しかも商品だって何種類もあるのだ。何種類もの機械を作るような知識は流石に持ち合わせていない。
「複製の魔法陣って可能なのかな・・・・・」
「複製?ごめんなさいね、私魔法陣はあまりわからないの。」
ボソッといった言葉に反応したエミリーが肩を落とす。
いや、エミリーに落ち度は全くない。複製、物をコピーするような魔法陣の存在は私も知らない。
「私の知識が足りないだけ?」
「とりあえず図書館に行ってみたらどう?あそこなら知りたいことの大体は調べられるわよ。」
「図書館?」
エミリーによると、王都には王立図書館があるらしく、貸し借りはできないがその場で読む分には無料でできるとのことだ。
「じゃあそこで色々調べてみよう。まだ空いている?」
「えっと、8時まで確か空いているはずよ。」
ちらりと時計を見ると今は7時前。よし、軽く探すくらいならできるだろう。
エミリーに図書館の場所を訪ねてから別れを告げる。風の魔法を使って、通常よりも早いペースで走って図書館の方向まで向かう。
「ふう・・・。ここ?」
円形の建物からはデコボコと出窓があり、見慣れない形になっている。敷地の入り口には「ハツェルホルティ王立図書館」と明記されており、目的地だとわかる。
身分証を提示して館内に入ると、閉館間近だからなのか人はまばらだった。
「すごい・・・・」
壁一面にずらりと並べられた本は圧巻の一言だ。天井は高いのだが、上までびっしりと本がある。
さてここから目当ての本を探すのは大変だ。
10分ほどウロウロして、ようやく魔法陣の棚を発見した。と、思って絶望した。
知識量を必要とする魔法陣だ。その蔵書量も半端じゃない。
「・・・嘘でしょ・・・・・・」
閉館まで残り40分。本を探してさらにそこからお目当てのページを見つけなければならない。
風魔法、、火魔法、、、空間魔法、、、、、返信魔法、、回復魔法、、、、
待って、複製って何魔法???どこのコーナーにあるの!?
「はあ、、見つからないよ・・・・」
盛大にため息をつくと、近くに人の気配がした。
「探すの手伝おうか?なんの魔法陣?」
「え?いいの・・・!?」
そこにいたのは赤みのかかった黒髪に真っ赤な瞳の少年。見た目年齢はなつきと変わらなそうだ。
誰かに似ている気がしたが思い出せない。綺麗な顔をしているがニコニコと張り付いたような笑顔を浮かべている。うーん、腹黒そう。
しかし、今はタイムリミットが迫っている。少しでもヒントは得たいので遠慮なく探すのを手伝ってもらおう。
「複製というか、コピーの魔法陣を作ろうと思っていてね、そういう魔法陣ってもう誰か作ってたりするのかなって?」
「うーん、複製かあ。聞いたことないね。何に使うんだい?嫌じゃなければ教えてくれないか?」
「魔具屋を開いていてね、量産できればいいな、って。」
なるほど、と少年は本の羅列を眺めながら熟考してくれる。腹黒そうなんて思って失礼だったかな。
「僕の記憶じゃ、ここに関係しそうな本はないなあ・・・自分で考えるしかないんじゃない?」
「そっか・・・・って、え?もしかしてこの本全部読んだの?」
彼の発言から察するにそういうことだろう。本人も頷いた。なんということだ。
「もしかして、あなた魔法陣オタク・・・?」
「へ?・・・ははは、君面白いこというね。まあ、そうなのかなぁ。周りには変人って言われるけど。」
こ、これは・・・!
もしかすると、彼は同類というやつなのではないか??
「わ、私もよく変人って言われるの!」
龍の峰にいた頃、魔法陣に食いつく私をドラゴンたちは変な子供だといつも言っていた。全く、失礼だ。
「僕ら似た者同士なのかな?僕はレオ。君は?」
「なつきよ。よろしくね、レオ!」
勝手にシンパシーを感じて、右手を差し出すと彼もそれに応えた。
「魔具屋ってどこでやっているんだい?」
「3丁目のサナギってお店よ。」
「サナギ?初めて聞いたな・・・・・」
「あ、今日オープンしたばかりなの。」
レオは納得したようだ。目当ての本はないとわかったし、閉館時間も近づいているから、今日は帰ろう。レオというガリ勉友達をゲットしたのは思わぬ収穫だったかもしれない。
「じゃあ、私は帰るわね。お店、きてね!」
「うん。またね、なつき。」
フリフリと手を振って笑顔でなつきを見送るレオ。そして彼女の姿が見えなくなると、その顔からスッと笑顔が消えた。
「・・・あれが、なつき、ね・・・・・・・」
彼の小さな呟きは誰に届くでもなく、空気に溶け込んで消えて行った。




