開業!2
数日が経過し、エミリーとなつきは着々と準備を進めていた。
今日はいよいよ改装が完了すると言うことで商品を持って、店に赴く。
「わあ!」
「か、可愛い・・・!」
メインのターゲットとなるのは女性なので、可愛らしい感じになるようにお願いはしておいたが、さすがプロ。ファンシーな小人の家みたいな感じで、とエミリーがオーダーしたのは聞いていたが、予想以上のようだ。ちなみに外観に関してはエミリーの方がこういったセンスはいいと思っていたため、なつきはノータッチだ。内装も可愛らしい雰囲気になっている。
「エミリー、こっちにきて!」
「え、ええ・・・」
この建物、2階建てになっていて、1階はお店、物置場、作業場となっている。2階に関しては、こっそり大工たちにお願いしていたことがある。
「ジャジャーン!従業員用の住居にして見ました!」
「・・・・・・!!!!」
2階は3つの部屋が並び廊下に共用のキッチンとトイレ・浴室がある。改装前から従業員用の居住スペースだったようだが、それを少し綺麗にしてもらった。
「も、物置にするのだと・・・てっきり・・・・・」
「空間捻じ曲げちゃえば、物置なんてたいしたスペースいらないからね。だからこのうちの一室はエミリーのもの!残りは繁盛して従業員が増えたとき用のよ!」
ニコッと笑顔を向けると、エミリーの涙から大量に涙が溢れ出したものだから衝撃を受けた。喜んでくれると思ったが、余計なお世話だったのだろうか・・・
「あ、わ、私・・嬉しくて・・・!なつきには・・感謝しても仕切れないわ・・・・!」
よかった。嬉し涙のようだ。
「ふふふ。その代わり沢山働いてもらうわよー!まずはエミリーのお引っ越しからね!」
「ええ!本当に、ありがとう!私、頑張るわ!」
その日、午前中はエミリーがスラムから持ってきた私物を並べた。本当はスラム街まで荷物を取りに行くのを手伝おうとしていたのだが、流石に危ないとエミリーに止められたため、渋々荷物整理だけを手伝った。少しの衣服と作業道具だけだったのであっという間に終わった。
昼食を食べた後は、いよいよ店内に商品を配置して行く。こちらはかなり時間がかかった。配置と、値札を取り付けたり、花を並べてみたり、ポップを書いてみたりと、計3日かかった。
「よし!じゃあ気合い入れて描くわねー!」
屋根に登り、筆を持つ。
「これエミリーがやらなくていいのね?私そんなにセンスないわよ?」
「大丈夫よ!なつきが描くのが一番いいわ!」
「・・・よし・・・!じゃあ、行くわよーー!!」
ベチャ、と大きな筆を板に当てる。そして流れるように「サナギ」の文字を書いて行く。看板を書いているのだ。そしてこれが終われば・・・・
「・・・・よし!完成!!」
これにて開業準備が全て整ったのだ。後は利益をあげるだけだ・・・!
「宣伝は商業ギルドに依頼してあるから、後は明日のオープンを待つだけね・・・・・」
「そ、そうね。」
商業ギルドにお金さえ支払えば、広告をばらまいてくれるというシステムがあり、キャンペーンをやる際や開業前の店はよく使うらしい。便利である。
「接客は任せていいのよね・・・?」
「うん。とりあえずはね!」
人前に出るのが嫌なのだろう、エミリーは裏方に徹したいと言っていた。無理強いすることでもないし、もし人手が必要になったら新たに誰か雇えば良いだけだ。しばらくはなつきが売り場を担うことにした。
明日、客は来るのだろうかと楽しみが半分、不安が半分といった気持ちで夕食を作る。今日はホールデイン邸ではなく、サナギの2階のキッチンだ。エミリーと夕食をとろうと思っている。後からアルバとエルランドも様子を見にきてくれるらしい。
「わ、私も一緒で大丈夫かなあ・・・」
「心配しなくて大丈夫よ。アルバは前会ったわね。エルも根は優しい人だから!」
差別されるんじゃないかと不安なのだろう。心配そうな面持ちでテーブルに皿を並べるエミリー。
するとカラカラと1階の店舗の呼び鈴が音を立てた。二人がやってきたようだ。
コツコツと階段を上る音がし、現れた二人を見て驚いた。
「な、なんかボロボロね。」
「そんなことはない。」
「・・・・・・」
ボロボロの衣服を身につけたアルバに、汚れひとつついていないエルランドの衣服。依頼と称した、しごきを終えたのだろう。最近アルバはエルランドに師事しているようで、こうして二人で帰ることが多くなった。
「そいつがエミリーか?」
「!は、はい・・・。エミリーと申します。よろしくお願いしますわ・・・」
ビクッと肩を震わせたのち、丁寧に頭を下げ自己紹介をするエミリー。
「エルランド=ハルスだ。」
特に何かを気にした様子もなく、淡々と自己紹介をしたエルランドにエミリーはみるからにホッとしたようだった。その光景を見て、この場をセッティングしたなつきも安堵した。
「カレーですか?」
「ええ。みんなで食べるにはもってこいでしょう?」
匂いで察したアルバが尋ねる。カレーを嫌いなものはいないだろうという迷信を信じた結果だ。
カレーをよそった皿をエミリーに運んでもらって、夕食にありつく。
「お店見たでしょ?どうかな?」
女性向けに作られた店ではあるが、男性の意見も聞きたい。1階の店舗を見て彼らはどう思ったのだろうか。
「可愛らしいと思いましたよ。あまりこう言ったお店は見られませんし、需要はあるのではないでしょうか?女性にプレゼントするのにもいいと思いますし。」
「正直俺はあまり入ろうとは思わないな。小っ恥ずかしい。」
対局の意見を述べる二人だが、なるほど、参考になる。女性へのプレゼント需要というのはすっかり抜けていた。その辺りもこれから考えていかねば。
「女性の冒険者向けの道具入れとか、付与付きのアクセサリーとかもあるから、暇があったら宣伝してちょうだい。」
「・・・なんで俺がそんなことを・・・・・・」
「あら、S級冒険者の力を今発揮しなくていつ発揮するのよ?」
「お前・・・・」
エルランドとなつきの他愛ないやり取りを聞いて、エミリーがあることに気づいたようだった。
「エルランド様って、もしかして、漆黒の貴公子様ですか??」
「ぐふっ・・・!!!」
エミリーの口から発せられた恥ずかしい言葉に思わず吹き出してしまった。冷ややかな目で見つめるエルランドと、すぐさまおしぼりを手渡すアルバ。アルバにとりあえず礼を言い口元を拭く。
「・・・そう呼ぶ輩もいるみたいだな・・・・」
「貴公子!?漆黒の貴公子!?」
「うるさい。」
エルランドはかなりこの呼ばれ方がかなり嫌らしい。不機嫌を隠すこともなく黙々とカレーを食べすすめている。
「まあ確かにイケメンおばけだしね。黒い服多いし。」
「・・・・お前、影で俺のことそう呼んでるのか・・・?」
「あ。」
しまった、弁明しなければ、なんて思ったがすぐさまアルバの横槍が入った。
「よくそう呼んでいらっしゃいますよ。」
「アルバ!なんで言っちゃうの!?」
その日はしばらくエルランドは不機嫌だった。翌日、その鬱憤がアルバへのしごきへと変化し、なぜ自分は余計なことを言ってしまったのかとアルバは後悔することになる。
そしていよいよ魔具屋サナギはオープンを迎える。




