ガラクタ市
「トロイ王子か・・・正直あまり良い噂は聞かないな。まあその様子だと大丈夫だろう。何かあったらアーサーの名を出すと良い。」
「そんな!アーサーさんにそこまで迷惑はかけられないよ・・・」
帰宅した後、たまたま帰るタイミングが一緒であったエルランドに研究所での出来事を話した。
「ところでその様子だと研究所はもういいのか?」
「うー、なんかわがままなんだけど思ってたのと違うっていうか・・・・・」
そう、その問題にも直面しなければいけない。かねてより計画していたが、理想と現実は違うようだ。
「魔法陣は好きだからそれに関わる仕事だといいんだけどなあ。」
「ならやはり魔具師が向いてるんじゃないか?嫌なわけじゃないんだろ?」
道具に魔法陣を描き、魔法を付与する仕事、魔具師。以前、ガーボッドに師事した時もあれ、結構向いてるかも、なんて思った職業だ。
「・・・・おっきな問題があって、魔法陣はいいんだけど、元となる道具を作る技術は私にはないからさ・・・・・・」
「なるほどな。」
本来魔具師は、道具を一から作り、さらに魔法陣を付与する。ここまでで1セットだ。
「で、道具だけセンスある人に作ってもらって、魔法陣は私が描く、みたいな風にしようかと考えてるんだけど、そんな人どうやって探せばいいのかな・・・・・・・」
所謂、分業だ。特別珍しいことではないが、魔具師は(ガーボッドのような)偏屈なものが多いので、だれかに依頼するということは少ないらしい。
「普通の道具屋に・・・あ、ガラクタ市ってのがあって、そこで手作りの道具を売るやつもいるぞ。そこで気に入ったやつをスカウトするのもアリなんじゃないか?まあ最終手段は商業ギルドで斡旋してもらうことだな。」
「そっか、色々あるんだね。ありがとう、エル。」
「ああ。」
やっぱり経験豊富なエルは頼りになるな。こういうことを気軽に聞ける距離に居れるっていうのは幸いかもしれない。
エルランドにとってはこの距離が嬉しいのか辛いのか微妙だなんてことは梅雨知らず、一人アーサーに感謝するなつきであった。
そんなわけで、後日なつきはガラクタ市に足を運んでいた。ガラクタ市が開催されている場所は王都の下町に位置する場所で、他と比べるとやや治安が悪い。そのため今日はアルバに付き添いを頼んだ。正確には無理矢理にでもついていくというアルバたっての希望だが・・・・・
「わ、こんなにお店があるんだね〜。」
前世で言うところのフリーマーケットのような雰囲気だ。シートを敷いて様々な人が思い思いに物を売っている。売り上げの1割をガラクタ市を斡旋している者に支払いさえすればいいようで、子供から大人まで商人ギルドを介さずに店を持てる自由な市場だ。しかしその自由さゆえにトラブルも耐えないらしい。
「せっかくだし普通にお買い物もして見たいな。いい?」
「構いませんよ。別に急ぐことでもないのでしょう?」
確かに仕事のパートナー探しは急を要することではない。今の所お金は冒険者の依頼で賄えているので、今すぐ職を見つけなくても良い。それに急いで腕の悪い者や問題がある者に任せたりしたくはない。
「わ、これ可愛い!あなたが作ったの?」
他のものよりも控えめに店を開いている少女に尋ねてみる。あまり人通りも多くない市場の隅の方でちょこんと座り、頭巾を被って俯いているので顔はよく見えない。
こくりと頷く少女はどうやら恥ずかしがり屋のようだ。お店には女の子らしいアクセサリーや小物、ぬいぐるみなどが置かれていて、他の店とは売り物の雰囲気が違う。
「姉ちゃん、その店はやめとけ。」
「へ?」
せっかくだから何か買ってあげようと品物を眺めていると不意に背後から声がかけられた。少女と年は同じくらいであろうか。10歳くらいの少年である。少女もだが、この少年も服装からするとかなり貧しいのではないだろうか。
「どうしてそんなこと言うの?」
その発言の意図を探る。小さな子が一生懸命商売をしている可愛らしいお店に文句はつけないで欲しい。仲が悪い友達だろうか。少女の肩がふるえているのがわかる。
「呪われるからだ!そいつは蟲族だぞ!」
「・・むしぞく・・・?」
虫ってこと?もしかして人種差別的な何かなのかな?アルバも困ったような顔をしている。
「・・・・ねえ、これ呪いとかって本当にかかってたりする?」
体を震わせる少女に優しく尋ねる。
「そ、そんなことしませんわ!」
ガバッと顔を上げた少女の目には涙が溜まっていた。しかしそれよりもなつきは驚いてしまった。彼女の瞳が、複眼で白目がなかったからだ。そうか、こういった虫の特徴を持つ種族なのかと察した。
なつきとしてはただ初めて見たから驚いただけなのだが、少女にしてみれば違ったらしい。なつきが少女を忌避したと思ったのか、彼女は慌てて俯いた。
ああ、怖がらせてしまった。
「そうだよね。変なこと聞いてごめんね?」
目の前で小さくなる少女を見つめる。この子の瞳にはどのような世界が見えているのだろうか。きっと、ただ作りたいものを作って売っているだけだ。それなのに呪いだと叫ぶようなこの世界はこの子に何を与えることができるのだろう。
たまらず少女の頭を撫でる。ビクッと肩を揺らしたがおとなしくしていた。私はただの偽善者だろうか。それでも無視するよりずっといい。
「呪われてるのは君だよ。」
少女に向き合いながら、声は少年に向ける。
「な、何言ってんだ。」
「呪われてるのは君の心だよ。そしてそんな心が世界を呪っていくの。」
「・・・くそ、頭おかしいんじゃねえのか。やってらんねえよ。てめーも呪われちまえ!」
理解した様子もなく少年はどこかへ行ってしまった。
「あ、あの、あ・・ありがとうございます・・・・」
恐る恐る顔を上げる少女と目を合わせる。うん。綺麗な目だ。
「アルバ、私好き勝手やっていいかな?」
「・・・・俺はあなたのやりたいことに意見なんてしませんよ。お好きなようにするのがいいと思います。」
もうわかっている、という様子でアルバは答えた。
「名前は?」
「え・・・エミリー。」
エミリーちゃんか。可愛い名前だ。
「私はなつき。ねえ、エミリー、私と一緒に仕事してみない?」
このガラクタ市での出会いが後に、伝説と言われる魔具師コンビの誕生になるとは、まだ誰も予期していなかった。
【補足説明ー読みとばし可ー】
見た目で年齢はわからないと言う設定でしたが、子供に関しては別です。18歳くらいまではみな同様に成長して、そこからは個人の魔力によって成長・老化の仕方は変わります。




