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過労死したら異世界転生  作者: とし
新たな挑戦
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王立研究所


ホールデイン領から王都へと再び戻った一行は、王都にある主人不在のホールデイン邸にたどり着いた。


これまた大きなお屋敷である。本当にここに住んでいいのか。実際王都の宿は他の街のと比べるとややお高めであり、もしここに住むなら家を借りるか購入するかしなければならない。渡りに船とはこういうことだが、ちょっと広めの川を渡るだけなのに豪華客船が釣れてしまったような気持ちだ。


「西側の奥の部屋を使え。アルバもその辺りから好きな部屋を選ぶといい。」


エルとは道中でこれからどうするか話し合った。

使用人は置いていないため、身の回りのことは自分ですること。エルは留守にすることが多いから基本的にはお互いのことはノータッチで過ごすこと。この二つである。

もちろん何かあったときは頼っていいとのことだ。ありがたい。


屋敷も広いしお互いにいるかいないかもわからないだろう。なつきからすると同じアパートに住んでいるくらいの感覚だ。だから悩みながらも、アーサーの提案を快諾したのだ。


簡易キッチンに浴室とトイレ付きの適当な部屋を選び、少ない荷物を下ろす。


「アルバはどこにしたの?」

「向かいの部屋にしました。」

「そっか。なんか、一気にお金持ちになった気分。」


実際大金はギルド褒賞で受け取っているのだが、それでもあのふかふかベッド1つ買えるかは微妙なところではないだろうか。


「俺もなんだか申し訳なくて・・・・・。働いて余裕が出たら自分の家を買うか借りるかしようと思います。」

「私もそうするよ。さすがにずっとは悪いもんね。」


いつになるかはわからないが、そう遠くない将来であることを祈る。この超贅沢な環境に慣れてしまう前に。


「明日私は研究所に行くけど、アルバは?」

「俺はギルドで依頼を見てきます。そろそろ強めの魔獣にも挑戦して見たいですし。」

「そっか。じゃあ明日に備えてお互いゆっくり休もう!」


部屋を出て行くアルバを見送り、風呂に入る。極楽だ。

明日の研究所見学を心待ちにしながら、その日は夢を見ることすらなくぐっすり眠ることができた。






すっきりとした朝を迎え、上機嫌で身支度を済ませ、いよいよ王立研究所へ向かう。アルバには研究所まで送ってもらった。帰り道は大通り以外を決して通ってはいけないとかなり念を押されて。


「なつき様ですね。見学の許可が下りています。ただいま案内役が参りますので少々お待ちください。」


研究所の前の小さな小屋で受付を済ませるとすぐに案内をしてくれるらしい職員が現れた。リジーと名乗る女性だ。


「なつきさんは研究者志望なんですか?」

「そうなんです。研究が好きで、ここの研究所は有名だと聞いたから見てみたくて。」


様々な施設を案内しながら、仕事内容や職場環境について教えてくれるリジーになつきは大変好感を持てた。教えられる範囲で今進めている実験のことについても細かく説明してくれた。

しかし、問題が一つあった。


(こ、これ電子レンジの魔法陣だ・・・・・)


こちらの世界で得た知識と前世で得た知識による発想力を兼ね備えたなつきには目新しい研究事項がなかったのだ。電子レンジの魔法陣は、火と熱の陣を組み合わせるとそれっぽいものに仕上がる。レンジがなくて不便という理由で一度作ったことがあり、ドラゴンたちには重宝されているはずだ。こういった発想力は前世があるからこそである。こちらの世界には、レンジのようなものを作ろうとすら考えないのだから。


「あの、ここが国で最先端の研究所なんですよね?」

「そうですよ。私はここで働けることを誇りに思っています!」


ものすごいドヤ顔をするリジーに申し訳なく思うも、ここにくる前のような高揚感は綺麗さっぱり消え失せていた。私のやりたいことはここではできないかもしれない・・・・



「お、お待ちください!」



思案していると、突然研究所内が騒がしくなった。



「うるさいぞ。ろくな成果もあげていないくせに金ばかりかかるからわざわざ視察に来たんだ。俺の仕事を増やすんじゃない。」


貴族だろうか。発言から察するに財務を担っているようだ。それにしても嫌味ったらしい奴だ。

たまたまだろうが自分と同じ黒髪黒目で、少し嫌な気持ちになる。


「半期以内に大きな成果を上げなければ予算は減額だ。いいな。」


うわあ、暴君・・・


なんてことを考えながら争っている方面を眺めていると、男は視線に気づいたようでこちらに向かってきた。隣にいたリジーは顔が引きつっている。おそらくかなり高位の貴族なのだろう。


「・・・・お前も研究員か?」

「いえ、見学に来ただけです。」


なんだか面倒臭そうな人だから、当たり障りない態度で対応しよう。というかなんでこっちに来たんだ。


「研究者志望なのか?」

「・・・・・考え中です。」


正直にそう答えると、男はなつきを吟味するようにジロジロと見る。


「あの、何か?」



「女、研究員なんて暗い仕事してないで、俺の愛人なんてどうだ?一生遊べるぞ?」






プツンと何かが切れた音がした。



「はああああ!!?まずね、研究員は暗い仕事じゃないから!地味かもしれないけど、生活をしっかり支えるために必要なことなの!貴族なのにそんなのもわかんないわけ!?二度と魔法陣使うんじゃないわよ!てかあんたの愛人?なにそれ?美味しいの?ぜっっっったい無理!!!恋人でも無理なのに愛人ってどういうこと!?舐めてんの!?」


息継ぎすることなくまくし立てたことに加え、怒りが頂点に達したため、ハアハアと息切れする。当たり障りない態度で、と思っていたが我慢ならん。


目の前の男は目を点にしている。言い過ぎか?いや、妥当な言い分だ。


「・・・・・・と、トロイ殿下・・・・?」


後ろでリジーがボソッと呟く。なるほど、このクソ男はトロイという名なのか。ん、あれ、待って。今爆弾発言しなかった?


「でんか?」


でんかってまさか・・・殿下!?つまり王族!?


「クク・・・知らなかったようだな。いい度胸だ。女。」


目の前の男は怪しげに微笑んだ。それはまるで捕食者の獲物を見る目だ。


「ハツェルホルティ王国第2王位継承者、トロイ=グリード=ピオニーだ。名を名乗れ。」


てことはこの人王子様!?

こんな凶悪なツラした王子がいてたまるか。いや、確かに顔は整っているけれども、根性が腐ってる気しかしない。


「・・・な、なつきよ・・・」


ええい!なるようになれ!いざとなったら龍の峰に逃げ帰ってしまえばいい!

どんな沙汰が来るかとヒヤヒヤしながらその口元を凝視すると、意外なことに両端を釣り上げたのだった。


「ふ、まあ良い。今回に限り不問にしてやる。次はないと思え。」



そう一言残し、踵を返すトロイ。


(これは許してくれたのか。いや、悪いのあっちだし!!)


その後は逃げるようにして研究所を後にしたのだった。

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