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過労死したら異世界転生  作者: とし
いざ王都へ
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S級冒険者の苦難

エルランド視点です。


なつきとアルバには後ろ盾があった方がいい。

下手に名が知れ渡る前に手は打たなければならない。


なぜ無関係の自分がこんなことをしなければいけないのか、などとは思い至らなかった。


ただ、こいつらが欲深い権力者たちにいいようにされるようなことがあったら何と無く面白くない、それだけだ。


特になつきに関しては色々な意味で心配だ。事実アルバも苦労しているようである。



幸い自分には公爵のいとこがいた。人格にも問題はない。彼に護衛の件を話すと意図を察したのか快諾してくれた。余計なことまで勘ぐったのかにやけ出す始末だ。その顔をやめろ。


「ふふふ。そのなつきって子に懸想でもしているのかい?」

「バカ言え。そんなんじゃない。」

「ふーん。」


納得はしていない様子だ。この男は本当に食えない。能力は十分すぎるほどなんだが・・・・・

最近はどうやら、王家のどっかの派閥にも出入りしているらしいしな。全く、食えない。


とにかく約束をこぎつけ、依頼当日になった。


なつきが気になるのだろう、こいつは馬車に乗れという。

まあ本人たちがいいならいいんだが・・・・・


なつきだけ馬車に乗り込ませ、アルバと話をしながらホールデイン領へ向かう。


エルフは人間より聴力が優れている。馬車内で何を話しているのかもほとんど聞こえている。

アルバと話をする傍ら、なつきとアーサーの会話に耳を傾けている自分に気がついた。

・・・・・これは盗み聞きというのではないだろうか。いや、聞こえてしまうだけだ。他意はない。


「なつきは敬語が苦手」などと言ったことを抜かしては、名前で自分を呼ばさせているなんてことは気にしない。あいつ、絶対わざとだ。あいつの中では俺はなつきに惚れているということが確定しているのだろうか。確かに冒険者として気に入ってはいるが、そんなことはない。


道中モヤモヤしていたが、何事もなくホールデイン領にたどりついた。まあこのあたりで自分を知らないものはほとんどいないだろうから、わざわざこの馬車を襲う輩がいるとは思えなかったが・・・・・


屋敷の普段あてがわれている部屋に通される。


『エルだ』

『久しぶりー!』


この屋敷に住み着いている精霊たちが騒がしくなる。そう言えばここには久しく来ていないかもしれない。


『エル、お花咲かせてー』

「花?」


突然樹木のせいがそんなことを言うもんだから、何事かと尋ねると、ある部屋の植木に花を咲かせて欲しいそうだ。ここには花を種のないゼロの状態から咲かせられる程の樹木魔法を使えるものはいない。自分にもそれはできない。強力な樹木の精霊とは契約を結んでいない。しかし、自身の魔力を使う直接魔法なら得意だ。魔力で成長を促して種を採取するくらいならできるかもしれないと、精霊にその部屋へ案内させる。


『このお部屋だよ。』

「ここは・・・なつきの気配がするな。」


扉の内側からはなつきの魔力が感じられる。ここは彼女にあてがわれた部屋なのだろう。

軽くノックをして入るぞ、と一声かけて入室する。


「"メイ"、お花を咲かせて。」


彼女は窓辺に向かって精霊の名を唱えていた。と言うことは、俺はお役御免、か。

にしても樹木の高位精霊とも契約しているとは・・・・・。


声をかけると気づいていなかったようで、驚いていた。


やはり冒険者にはあまり向いていないな・・・・・。そもそも人間は戦闘に向いた種族ではない。


「アーサーとは仲良くなれたようだな。」


勝手にそんな言葉が口をついて出た。後ろ盾を得られてよかった、そう意味したかったのだが、そんな思いとは裏腹に少しトゲのある言い回しになって、自分自身が驚いた。


「ええ、優しい人ですね。アーサーさん。」


"アーサーさん"とその口から紡がれるのを聞くのは、確かに心地いいものではなかった。なぜこんな思いを抱かなければならないんだ。ああ、きっと新しく見つけたおもちゃを取り上げられた子供と同じだ。きっとそうだ。


自己完結させ、ふと疑問に思った彼女の年齢を聞いてみる。これだけ高位精霊と契約を結ぶにはかなりの年数がいるだろう。俺が見たのは、雷・光・樹木の魔法。ゴブリン退治の際には火魔法を使ったようだから、最低でも4種類の高位精霊と契約を交わしていると言うことだ。取得してそれを使いこなせるようになるまでも時間はかかるだろうから、こいつは世間知らずのくせに100年は生きてるんじゃないかと予測をつけ尋ねた。


「えーと、あはは、もう忘れちゃったなー。自分の歳なんてー。」


嘘だ、と直感した。女性に年齢を訪ねるのは失礼だという文化の国もあると聞く。ハツェルホルティやこの辺りの国の国民なら年齢など気にしないため気兼ねなく答えるはずだ。もしや彼女はかなり遠くの国の生まれなのかもしれない。

無理に尋ねるような質問でもないため、その場では適当に流した。


「そういえば、エルランドさんはアーサーさんの従兄弟なんですね。貴族だったなんて知りませんでした。」


いや、俺は貴族じゃないぞ。思わぬ誤解が生まれていたので、そこは否定しておく。


そんなことで距離を取られたら堪らない。


ん?・・・・・・結構執着してるのか?俺は。




ふと思い立ち、敬語を使わなくてもいいというと、存外簡単に馴染んできた。


「エルって呼んでいい?」

「・・・好きに呼べばいい。」


エル、と呼ぶのは家族以外にいなかった。自身の称号に気圧されて、皆遠くから、S級冒険者・エルランドと呼ぶだけであった。

もしかしたらこういう気安いところも気に入っているのかもしれない。


寄ってくる女といえば「S級冒険者のエルフ」という肩書きを目当てにした高飛車な者たちばかりで、そのせいかあまり女という種族を好んでいなかった。


なつきは肩書きをあまり気にしていない。話すときも目を合わせて、真摯な対応を心がけているように見える。

敬語が苦手というのも別に舐めているわけではなく、ただ単に慣れていないから、という感じである。





ああ、もう認めよう。アーサー、お前のいう通りだ。

まだ数回しか会っていない。知っていることもほとんどない。

それでもどうやら俺はこの女をいたく気に入ってしまったらしい。

彼女の紡ぐ「エル」という自分の名がこれほど心地よいものだとは思わなかった。






気持ちを自覚したからと言って今すぐどうこうするつもりはなかった。彼女にはやりたいことがあるようだからそれを邪魔したくはない。なんて考えながら食事をとっていた。




それなのに。アーサー、お前はいい加減にしてくれ。


なに俺と同居させようとしているんだ。確かに屋敷には部屋も余っているし、アルバもいるし普通の同居とは違うが、それでも会おうと思えば会える距離にあるということだ。

同居なんてしたら、俺は自分の気持ちを抑えられる自身はないぞ。




そんな思いとは裏腹に、なつきはそれをいい話だと思ったのか、その提案を快く受けてしまったのだった。

エルランドとアーサーは従兄弟兼親友のような関係です。エルランド本人よりも先にアーサーの方が気づいちゃうんですね。

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