エルランド=ハルスという男3
S級冒険者エルランドという盾があったからなのか、道中まったく問題なく一行はホールデイン領にたどり着いた。
ホールデイン領は豊かな農村地で、生産ギルドの活動が活発なようだ。生産ギルドとは第1次産業に関する依頼の受注などを請け負うギルドである。
「ありがとうエル、なつき、アルバ。今日は私の邸で休んで行くといい。」
アーサーの邸はかなりの豪邸で、気後れしてしまった。しかし馬車からも察することはできたが、どうやらアーサーは派手なものは好まないらしく、高級品でも落ち着いたものを好むようだった。目に毒、というほどの邸ではなくそこは安心した。
3人それぞれに部屋を与えてくれるようで、エルランドは慣れているのだろうか普段と変わらない。まあ親族だというのだから当たり前なのか。
「なつき様はどうぞこちらへ。」
「へ?」
見た目40歳ほどのややふくよかな女性に呼ばれる。彼女は屋敷の使用人のようで、部屋に案内してくれるらしい。
案内された先は、今までの宿屋とは(当然だが)比べ物にならないほど広い部屋とベッド、御手洗に浴室まで備わっている。
おそるべし、公爵。
「ルネと申します。あと1時間ほどで夕食の準備が済むようなのでそのときにお呼びに参ります。」
「あ、はい。わかりました。ありがとうございます。」
パタン、と扉が閉まり、広い部屋に一人きりになる。
ここ最近は常にアルバとともにいたから不思議な気持ちだ。というかそれ以前も周りにはドラゴンたちがいたから一人になるのは前世ぶりなのではないだろうか。
「さみしいって柄ではないけど・・・暇だな。」
ふと部屋を見渡すと、窓辺の植木鉢の付近に何匹か精霊が飛んでいた。ホールデイン領は自然豊かで、精霊に好かれる土地であった。どこにでも精霊はいるものだが、確かに領内は普段よりも多く精霊を目にすることができた。
「花の精霊?」
『そうよ。このお花が寂しがっているから遊んであげてるの。』
精霊の1匹に尋ねるとそんなことを言う。部屋に植木鉢はこの一つだけ。花からしたら寂しいものなのか。流石に私は植物と言葉はかわせないから、ただこの精霊の話を信じるほかない。
『お花の魔法使える?』
『お手伝いするから、お友達を紹介してあげて?』
「あはは、いいよ。この鉢も大きめだしね。お友達がいても狭くはないでしょう。"メイ"、お花を咲かせて。」
樹木の属性を持つメイの名を唱えると、鉢の土からニョキニョキと小さな芽が出て、あっという間に成長し、そして花を咲かせた。元に生えていたものと同じ種類のものだ。
「どう?喜んでる?」
『うん!ありがとうって言ってるよ!』
花の言葉を代弁する精霊が可愛くて小さな頭を撫でるとくすぐったそうにしている。
すると突然、後ろから声がかかった。
「お前、そんな樹木魔法も使えるのか。」
「!!! エルランドさん!!」
いつ部屋に入ったのだろうか。というか勝手に入ったのかこの人は。
なんて思ったのが顔に出ていたらしく、声をかけても出なかった、とエルランドは弁明した。
「アーサーとは仲良くなれたようだな。」
「ええ、優しい人ですね。アーサーさん。」
アーサーさん、となつきが呼んだことに一瞬顔をしかめるエルランドであったが、なつきはそれに気づかなかった。
「・・・まあいい。お前、いくつなんだ?そんなに何体もの精霊と契約を結ぶには時間がかかっただろう。」
え、もしかしてこれは年齢を聞かれている!?
精霊魔法は契約が至難の技で、ましてや高位の精霊ともなると、一つの契約を結ぶのに年単位で時間がかかるらしい。
しかしそれは普通の話で、龍の花嫁であるなつきは完全なる例外。18歳(と言う設定)でこれだけの精霊魔法ともなると、流石に無理がある。
「えーと、あはは、もう忘れちゃったなー。自分の歳なんてー。」
「・・・・・そうか。」
魔力で寿命が決まるこの世界では、年齢を気にすることはあまりない。だから不自然ではない答えのはず、だ。
「そういえば、エルランドさんはアーサーさんの従兄弟なんですね。貴族だったなんて知りませんでした。」
「ん?いや、俺とアーサーは確かに従兄弟だが、俺は貴族ではない。アーサーの母親が先のホールデイン公爵と結婚したんだ。」
「あ、そうなんですね。」
「俺もお前も身分は等しいんだ。ギルドのランクは身分というより資格に近いからな。だから敬語を使う必要もないんだぞ?アーサーからも聞いたが、確かにお前は敬語が使えないようだ。俺も似たようなもんだがな。」
どうやら私は敬語が使えない非常識女として認識されているようだ。何だろう、この悲しい気持ちは。
「どうせ私は無礼な女ですよ・・・」
「おい、拗ねるな。」
「敬語使わなくていいなら、エルって呼んでいい?」
本人の了承を得たのだから、遠慮なく砕けた話し方をする。気品はあるが、どこか粗暴な雰囲気を漂わせるエルランドにはこの方が話しやすいかもしれない。
「好きに呼べばいい。」
「ほんと?よかった!エルランド、って長いなっていつも思ってたの!」
「お前、それ本人の前で言うか・・・・・・」
「あ・・・!」
ばつが悪そうに視線を彷徨わせるなつきであったが、エルランドはそれに怒った様子は見られなかった。
自分はどうやらこの美丈夫を誤解していたらしい。整いすぎている外見と、その実績から勝手に冷酷な男をイメージしていたが、実際は私とアルバをこうやって目にかけてくれるし、細やかな気配りもできる。多分、不器用なのかもしれない。ぶっきら棒な口調とは裏腹に、いつも彼は優しかった気がする。
コンコン
「なつき様、お食事のご用意ができましたよ・・・ってあら、エルランド様もご一緒でしたか。」
控えめなノックと共に現れたルネに呼ばれ、二人はダイニングへと向かった。そこにはすでにアルバとアーサーがいて席について待っていた。
「わあ!すごい!美味しそう!!」
「私の領地で取れた食材ばかりだよ。楽しんでおくれ。」
その日食べた食事は優しい味がして、とても美味しかった。素材の味をよくわかっている、といったところだろうか。こちらの世界では、メイの手料理の次に好きかもしれない。メイの料理に関してはおふくろの味のようなもので、これに勝るものはないだろう。
「ところでなつきとアルバは王都に住むつもりなのかい?」
食事を楽しんでいると、アーサーが尋ねた。
「まだ決めてはいないんですけど、王都で魔法の研究をするならそうしようかなって感じです。」
「俺は、しばらくはなつき様に付いて行こうと思っております・・・」
「なるほどね。じゃあしばらくは王都にとどまるのかな?」
アーサーの問いに頷く二人。なぜか嬉しそうにするアーサーと、何かを察したのが目を見開くエルランド。
「王都に私の屋敷があってね、エルはそこに住んでいるんだ。」
「アーサー、まさかお前・・・」
「私が自領にいるときはエル以外は使わないから勿体ないとは思っていたんだ。だから、君達二人もそこを拠点にするといい。」
「はい???」
これはつまりあれだ。
アーサーさんは、アルバと私にエルと同居しろと言っているのか・・・・・???




