エルランド=ハルスという男
「お仕事だったんですか?」
「ああ。間に合わせる気もなかった。授章式はうるさくて好きじゃない。」
「私もサボれるならサボりたかったなあ。」
「エルランド様だから許されているんですよ。なつき様はダメです。」
エルランドに連れられ、王都の酒場にきていた。あまり客は多くなく、有名なエルランドが落ち着いて食べれる数少ない場所なのだろう。味はもちろん美味しい。そして、今日は禁酒。理由は言わずもがな。
「ゴブリンの巣を壊滅させたそうだな。俺もあそこで武器を作ってもらったよ。まさかゴブリンどもがオリハルコンの採掘場に巣を作るなんてな。」
「おりはるこん?」
「・・・・これも知らないのか。」
もはやエルランドの中ではかなりの世間知らず認定をされているようだ。実際そうなのだが。
「オリハルコンは硬度と魔力伝導率において最高の鉱物だ。上位の冒険者の武器はほとんどそれだな。」
「へえ。それすごいんだねえ。」
そういってアルバの腰にある短剣に目を向けると、エルランドが珍しくギョッとした。
「お前、よく買えたな。それ、かなりしたろ・・・。」
「ゴブリン討伐のお礼にくれたんですよ。」
「あれはお礼じゃないですよ。あっちができるわけないって思っているうちに取引したくせに・・・・・」
ドワーフの集落での取引に始まり、どうやらアルバが常々不満に思っていたらしいことをエルランドに吐露し続けている。よく見るとその手にあるグラスに入っているのはお酒か?
自分も何か飲んでやると思って、マスターにこっそり酒を頼む。
「この人本当に危機感がなくて・・・お酒も弱いから目も離せなくて・・・ドワーフの酒場でもずっと狙われてるのに気づいてないし、ギルドに行くたび周りの冒険者が声をかけようとしているし・・・・・」
「相変わらず苦労してるみたいだな。おい、こいつ飲み始めたぞ。」
「もう・・・後始末するの俺なんですからね。ほどほどにしてくださいね。」
なぜこの二人は本人のすぐ横で悪口を言っているのか。いや、影で言えばいいってわけでもないけど。アルバ君は酔っているの?
「せっかく付与までしてあげたのに・・・アルバ、ひどい・・・・・・」
「付与?そんなんもできるのか。アルバ、見せてくれ。」
言われた通りにアルバはエルランドに自分の短剣を渡す。それを手にした瞬間にエルランドの顔つきが変わった。
「おま、、一体何を付与したんだコレ・・・・・」
「軽量化と強度アップと魔獣への攻撃力アップと・・・・」
次々と付与したものをあげて行くなつきにエルランドが呆気にとられる。
「・・・・金はやるから、俺の剣に何か付与してみないか?」
「へ?いいですけどお金なんていらないですよ。プロでもないし。」
酔う前にやらせてしまおうと思ったのか、エルランドは背にした大剣をなつきに差し出した。
「コレ、もう付与がかかってますね。陣の上に書き足しますよ。」
「・・・・・ああ。」
「魔力伝導率をもう少し上げて、硬度も上げられますね。あ、劣化防止もできるな。」
懐から魔具用のペンを取り出す。実は以前、魔具師のガーボッドから譲り受けたものだ。このインクなら物体ならば何にでも魔法陣を描くことができる。魔力を最大限込め、加えることのできる付与を書き足して行く。
「・・・・・見事なものだな。店主、このことは口外しないようにな。」
なぜ箝口令を店主に敷いたのか理解していないのはなつき一人だけであった。
「はい、こんなもんでどうですか。」
「素晴らしいな。お前、コレだけで食っていけるぞ。魔具師の方向いているんじゃないか?」
「魔具師かあ・・・確かにガーボッドさんところで遊んだのは楽しかったけど、うーん、冒険者よりは少なくても向いているとは思ったかな。まあ研究所見学してから決めます。時間はあるし。」
「あのへんくつ爺さんと遊んだ・・・・?」
実際エルランドは驚愕していた。魔法陣の書き換えは、最初の魔法陣を書いたものを大きく上回る魔力と多大な知識が必要になる。そしてエルランドの大剣に描かれていた魔法陣は、先王直属の宮廷魔導師だった者によるものだ。その座につくのは、国内随一の魔力を持つものばかりだ。つまり、エルランドの武器の魔法陣を書き換えたということは、それ以上の魔力と知識をなつきが持っているということであった。
(危うい力だ・・・・。正しく使う力は持っているが、周りがどうするか、だな。利用されないといいんだけどな・・・・・。)
「なつき様、もうダメです。」
「あー、私のモヒートーーー!返して!」
アルバはおそらく第六感に長けている。破落戸に終われる前、エルランドはすでに二人を発見していたのだ。屋根の上から。人に会うのが嫌というただそれだけの理由で裏通りの屋根を渡っていたのだが、まさかそこで会えるとは思っていなかったコンビだった。ギルド褒賞をなつきが受賞したという知らせは耳に入っていたから王都に居れば会えるとは思っていたがまさかこんな場面だとは。破落戸が近づいているのを目視で確認した自分とは違い、アルバはそれを感じ取ったのだろう。魔物のように魔力垂れ流し、というわけではないので、あの距離で気づけるのはいい能力だ。この二人が遅れをとるとは思えないし、しばらく眺めてるか、と高みの見物をしていたのだった。
なつきを背負いながらもかなりの速度で裏路地を行き来するアルバには感心だった。一方のなつきは実力半分以下の防御壁を出すだけ。なんで反撃しないんだあいつは。
アルバはおそらく一度目をつけられると面倒だから逃げているのだろうが、あいつは絶対そこまで考えていない。なつきのことをそれほど知っているわけではないが、それはなぜだか確信が持てた。
「なあ、」
「「はい?」」
二人の酔っ払いにエルランドは驚愕の一言を告げた。
「明日、一緒に依頼を受けないか?」




