ギルド褒賞3
「お、いろんな道があるな。」
王立研究所からの帰り道、3日後に(おそらく)研究所見学ができるということでなつきはウキウキである。行きはメインストリートを通ってきたので帰りは裏道を開拓しようと適当にスイスイ進んで行く。別に迷ってもなんとかなるだろう。後ろのアルバの制止は聞こえていなかった。
「なつき様!いい加減にしてください!」
「あ、アルバくん?」
初めて聞いたアルバの怒鳴り声に、ビクビクしながら振り向く。振り回したのは悪かったが、ここまで怒るのはなぜだろう。
「はあ、王都は煌びやかなところもありますが、そうではないところもあるのです。あまりよく知らない裏道を考えなしに歩くのはおやめください。」
あれ、もしかしてアルバ君、ため息ついた?だんだん馬鹿にされているような・・・・距離が縮まって嬉しいような悲しいような。それにしてもその口ぶりから察することがあった。
「王都きたことあるの?」
「俺は、王都のスラム出身なんです。ですから、貧しい者が、狙うような人もわかって下ります。なつき様のような、何も知らない外から来た女性など格好の餌食です。とにかく、自覚を持ってください!」
「・・・・はい。」
アルバの思わぬバックグラウンドを知った。貴族に逆らい犯罪奴隷ということまでは知っていたが、それまでどこにいて、どんな暮らしをしてきたかなんて知らなかった。
裏道をアルバの先導で歩き出す。
「もしかして、王都にあんまり居たくない?」
奴隷として働いていたマイナルのように嫌な思い出があるのではないか。自分の勝手でここまで連れてはきたが、気が進まなかったのではないだろうか。
「・・・・・・俺は自分の意思でここにきたのです。それに、何か心配事があるようですが関係ありませんよ。スラムにいた頃は、貧しくて辛いこともありましたが、家族がいましたから。血の繋がりはありませんでしたけどね。」
穏やかな様子でかつての家族の話を続けるアルバ。彼がこんなに話すのは珍しい。いつも話すのはなつきばかりであったから、不思議な気持ちだった。
子供時代の彼の優しい思い出を穏やかな気持ちで楽しんでいると、ふと話が止んだ。まだ途中であったのにどうしたのだろうか。
すると突然先導していたはずのアルバがなつきの背後に回り、鈍い音が響いた。
慌てて後ろを見ると、破落戸が腹を抑えてうずくまっている。
「!?」
「逃げますよ。」
「へ?きゃあっ!!」
もしかして襲われたのかと思い至ったところで、アルバがなつきを担ぎ上げた。お姫様抱っこのような可愛らしいものではなく、俵の様に担がれている。なつきの顔はアルバとは反対方向に向けられていて、破落戸が一人ではなく、複数いて、追いかけてくるのが見えた。
これは魔法を使うべきなのか。いや、自分の魔法では過剰防衛になりそう。そもそも正当防衛という概念はあるのか。とりあえず大人しく破落戸さんたちと睨めっこしながらアルバに運ばれていよう。なんだか我楽多を投げてきているが、防御ならいいだろう。 "ノエル" で透明の防御壁を繰り出す。いわゆるバリアーだ。
「くそっ!」
アルバの俊足でも裏通りが庭の様な破落戸たちにとっては問題なかった様だ。現に挟み撃ちにされていた。アルバが王都にいたというのも10年ほど前の様で、このブランクは痛かった。
「にいちゃんやるな・・・大人しく金とその女だけ置いてけば見逃してやるぜ。」
「1万フェント、あるんだろ。」
どうやらギルド褒賞で賞金を得たことを知った様だ。確かにあの中でなら最も狙いやすそうだという自覚はある。
風の魔法で吹き飛ばすことができるかもしれない、その隙にまたアルバに運んでもらおうと思案し、"シルキー"を呼び出そうとしたときだった。
「おい、何をしている。」
頭上から、綺麗な男性の声が響いた。聞き覚えがある。しかし、なぜ上。
見上げると、白金色の髪に菖蒲色の瞳、そして大剣を携えたエルフが屋根の上からこちらを見下ろしていた。
「エルランドさん?なんでそんなところに・・・」
アルバに担がれながら、上を向くのはしんどかったが、突っ込まずにはいられなかった。
「ありゃ、エルランドだ!」
「こいつら知り合いかよお!?ずらかるぞ!!逃げろ!」
あんなにギラギラした目をしていた破落戸たちはエルランドを確認すると散り散りになった。
さすが高名な冒険者というわけだ。
「大丈夫か?なぜ魔法を使わなかったんだ?」
安全を確認したアルバに地面に降ろされる。エルランドも、屋根から降り、二人のそばにやってきた。
「人相手にどこまで使っていいのかわからなくて・・・・正当防衛ってOKですか?」
エルランドがものすごい呆れた表情をする。やはり正当防衛は認められるらしい。よかった。
「お前、相変わらずなんだな・・・・アルバの方は大分見違えたが・・・・・・」
なつきとアルバを見比べては、ため息をつくエルランドであった。
確かにアルバは最後にエルランドに会った時と比べて体つきが逞しくなった。もう一端の冒険者にしか見えない。
「そういえば、ギルド褒賞をもらったんだろ?祝いに飯でも奢ろう。」
あれ、あなたもですよね。なんて思ったが、ここは好意に甘えようということで、その日はエルランドに大人しくついていった。




