ゴブリン・クライシス
アグニマスの西門から出てまっすぐに歩くこと数時間、現れる魔獣を倒しながら、ドワーフの集落に向かっていた。
「あ、またゴブリンだ。」
「行きます!」
アルバが剣を一振りするとゴブリンは倒され、小指の爪ほどの魔石だけが残る。
「なつき様、俺、この武器だけで十分な気がしてならないのですが・・・」
「そう?でも元は一番安かった剣だからねぇ。いい武器に魔法陣を描いた方がもっといいものになるよ。」
アグニマスを発つ直前、とりあえず間に合わせの武器ということで、標準的な剣を購入した。
高額な魔法付与がなされている武器は変えないが、安物に魔法陣で付与を施すことができるとガーボッドに教わったので、なつきはそれを試してみたのだ。
100フェントもしない武器としてはかなりお買い得なものに、強化と軽量化の魔法陣を付与しただけで、性能だけで言えばかなりのものが出来上がった。
しかしなつきの言う通り、元々の武器としての性能がもっと良いものであれば、付与効果も跳ね上がる。どうせならアルバにとって最高の武器を購入すべきだとなつきは考えている。
もちろん金銭面の問題により買えるかどうかは別である。
「それにしてもゴブリンってこんなにいるもんなのね。」
「近くに巣があるのだと思います。」
「巣?魔獣って繁殖するの?」
魔獣は妖精の魔力が暴走した姿であるという知識はあったが、巣と言う概念が意味するのは繁殖する力を持つと言うことだろうかと疑問に思った。
アルバの驚いている表情を見る感じでは、この質問は常識なのだろう、となつきは尋ねたことを後悔した。
「精霊も魔獣も永遠の命を持つわけではないので、繁殖もできます。しかし、魔獣は討伐されるためなのか、精霊よりもずっと繁殖力は高いのです。反対に精霊は長寿であることがほとんどなので、繁殖力は弱いのです。」
「なるほど。」
そんな調子でゴブリンを倒しながら二人は着々と西へ向かった。
アルバが我流でありながら、元々の体幹がしっかりしていたのか、剣の扱いは上達していったように見えた。
「なつき様、あれではありませんか?」
日も傾き、着かなかったら野営だろうかと思案していたところだったが、集落が見えてきて一安心だ。
あれがドワーフの集落だろう。
今までの街のような外壁はなく、検問もない。ただドワーフが住んでいる、まさに集落であった。
それでも魔除けの呪文は集落を囲むようにしっかりと施されているようで、その上、上質な武器の産地とだけあってそこかしこに武器屋があった。
「とりあえず宿を取ろうか。」
集落に宿は一つあるだけらしく、武器を買うだけなのでひとまず一泊頼む。
宿屋の従業員に、夕飯のオススメはあるかと聞くと、ドワーフ秘伝の酒を飲める酒場があると言うことでアルバを連れてそこへ向かった。
こちらの世界は全世界共通で17が成人。なつきの体年齢は18であるので飲酒は問題ない。
が、しかしまだこの体で酒を嗜んだことはなく、強いのか弱いのかは不明だった。
アルバに経験はあるかと聞くと、彼も奴隷時代が長かったため、娯楽のための飲食はしたことがないと言う。
「じゃあ二人でチャレンジだ!」
「口に合うと良いのですが・・・」
勧められた酒場に入ると、たくさんのドワーフが酒を楽しんでいた。
「お客さん、何にしますか?」
来やすい感じで尋ねて来たドワーフの店員に、いくつかの食べ物とドワーフ秘伝の酒というものを頼んでみる。
「何これ?美味しい。ボア肉だっけ?」
「店員さんはそうおっしゃっていましたよ。俺も食べ応えがあって、これ好きです。」
「ドワーフのお酒も飲みやすいね。気をつけないと。」
食事を大いに楽しんでいると近くの席にいたドワーフ達が話しかけて来た。
「お前さんら武器目当ての冒険者か?」
「はい。あ、私は魔術師で、こっちのアルバが何か武器を欲しいってことで来てみたんです。」
「そいつは災難だったな。」
気の毒そうにそのドワーフは言ったので、何事かと尋ねた。
「武器の材料を取る鉱山がよ、ゴブリン達の巣になったんだ。ギルドに頼んで冒険者を送ってもらっても、あいつら一体何匹いるんだか。キリがねえのさ。」
彼によると、強力な武器に必要なとある鉱石がそのゴブリン達の巣になってしまった場所でしか採掘できず、ゴブリン自体は強くないのだが、数が増えて増えてとても採掘どころではないという。
加えてギルドに頼むにしてもお金が必要になる。
何度冒険者が倒してくれても湧いてくるもので、集落の皆の蓄えがそこをつきそうで困窮しているという。
「え、じゃあ武器は売っていないんですか?」
「売ってるもんは別な鉱山からの材料で作ってるからな、品質がかなり下がっていてもいいなら・・・」
アルバと二人で顔を見合わせる。はて、どうしたものか。
「ゴブリンの巣をどうにかできるのが一番いいんだけど・・・うーん、どうしたものか。」
「方法はあるんだがな、できる奴がなあ・・・・」
ドワーフはどうしようもないと言った様子で唸るのだった。
「ギルドにはよう、それができる奴を派遣してくれって俺らは頼んだんだ。だけどそれはAかS級の魔導師じゃねえと無理だから、俺らじゃ払えねえ額の金が必要になるってことでよ。」
ーーーAかSの魔導師?もしかして私になんとかできるかも???
「ねえおじさん、その方法ってどうすればいいんですか?」
「あ?鉱山に超火力の火魔法を長時間ぶっ放せばいいのさ。鉱山全体に行き渡るまでな。まあそれが難しいってことは分かってんだが・・・・・」
それを聞いてなつきの瞳が輝き出したのをアルバは見逃さなかった。
「なつき様、まさかあなた・・・・そんな芸当ができるとおっしゃるのでは・・・・・・」
一緒に過ごすうちにアルバはなつきの魔力が桁違いということは察していた。
おそらく何体もの高位の精霊と契約していると予測は立てている。
そして、彼女が火魔法を使う場面も、奴隷印の書き換えを行う際に目撃していた。
「嬢ちゃん、そんな大層な魔術師だったのか?」
「D級だけど魔法は得意です。やらせてくれませんか?」
「やる分には構わねえけど、D級じゃ難しいんじゃねえか?」
ドワーフは疑わしげな目をなつきに向けた。当然ではある。
「その代わり、お願いがあるんです。」
その発言をするとアルバは何を言い出すのだろうかとハラハラした表情でなつきを見つめる。
ドワーフは次の言葉を待った。
「ゴブリンの巣をどうにかできたら、最高の武器をアルバに託して欲しいんです。超特価で!!!!」




