いざアグニマスへ3
「エルランドさんが?」
翌朝、アルバからエルランドの提案について聞いた。
腕の良い冒険者の進める魔具店、興味はある。
なつきもアルバもエルランドを、悪い人だとは思わなかったので、その提案を飲もうということになった。
「ところでアルバ、寝てないでしょう。」
なつきが咎めるようにそういうと、アルバはビクりとし、目を合わせようとしなかった。
「もう、心配しすぎよ。」
「そんなことはないだろう。自覚はないのか?」
突然会話に入ってきたのはエルランドその人だった。
「ただでさえ女の冒険者は少なく、多くの輩は女に飢えているんだ。そこにあんたみたいな美女が放り込まれてみろ。どうなるかはわかるだろう。」
コクコクとアルバはそれに頷いた。
「・・・・・・・ビジョ・・・?」
びじょ・・・美女?
聞きなれない響きを心の中で反芻した。
確かに前の世界にいた時より綺麗な顔に生まれたかも知れない。
しかしずっとドラゴンと過ごし、元から美醜などよりも他のことにしか興味がなかったという性分も相まって、聞きなれない言葉を飲み込むのに時間がかかった。
前世でもそんな言葉とは無縁だった気がする。
いや、言っていた奴もいた?
恋人ができた時期などもあり、彼らがもしかしたら言っていたかも知れないが、なにぶん今から10年以上前のことで、当時は研究一筋。とりあえず付き合ってみよう、なんて思っても、ほとんど恋人を相手にしないなつきに愛想をつかすものばかりだった。
「お前も大変だな。」
「・・・ええ。」
エルランドはアルバにボソッと呟くのだった。
野営地を出ること数時間、一行は無事にアグニマスへとたどり着いた。
検問を受け、なつき、アルバそしてエルランドは街へ入って行く。
「うわ、、魔女の街って感じ・・・・」
マイナルは辺境の街ということで、何処と無く厳つい雰囲気が漂っており、兵士も多く見えたが、それとは打って変わった様子だ。マイナルは石造りの建物が多かったが、アグニマスは木造の温かみのある建物が多く見られる。
メインストリートはほとんどが魔具店のようで、軒先には不思議な道具がたくさんおいてあった。
「王都の魔具店も優秀だがな、アグニマスも良質で、かつ値段も手頃だ。こちらの方で依頼があった場合、よく立ち寄るんだ。」
「へえ・・・・、王都によく行くんですか?」
「本当は気楽に好きなところを歩きたいんだが、なかなかそうは行かなくてな。王都に家があるから機会があれば寄るといい。」
「はあ、S級って大変なんですね・・・
ランクを上げて、王都の王立研究所へ、なんて思っていたがあまり上げすぎても問題がありそうだ・・・・
「B級くらいがいいのかな・・・・・」
つい思っていたことを口に出してしまったようだ。
アルバとエルランドは驚いてなつきを見た。
「なつき様・・・・、エルランド様に失礼では・・・・」
「いや、構わないさ。お前くらいの魔法があれば、順当にB級までは行くだろう。」
ハハ、と苦笑するなつきにエルランドは続ける。
「しかしギルドもいずれ怪しむぞ。お前の経歴を。」
「そ、それは・・・・」
あからさまに狼狽えるなつきを確認すると、エルランドは小さく微笑んだ。
「今はいい。気が向いたら教えてくれ。俺や、そいつにもな。」
エルランドはアルバを示した。
アルバとは数日の付き合いだが、自分を大変敬愛しているということは伝わっている。
このまま隠し通すのはいずれ耐えられなくなりそうだ。
エルランドの言葉にコクリと頷いた。今はそれが精一杯である。
「着いたぞ。ガーボッド魔法道具店だ。」
大通りの一つ脇の道、人通りもまばらなその道はほとんどが民家であったがその中に、ひっそりと佇む魔具店。
他の店とは違い、外に宣伝用の魔具を置いていなく、看板も入り口のドアに申し訳程度にあるだけだ。
ドアを開けると、予想していたより店内は綺麗で、多くの魔具が売られていた。
「・・・・生きてたのか。エルランド。」
奥から客の気配を感じて現れたのは、いかにも頑固親父といった雰囲気の老人だった。
「久しぶりだってのに、そんなんだから女房に逃げられるんだ。」
「るせえ。・・・おめえの連れか?珍しいな。」
口論はほどほどにして、なつきとアルバに気づく店主。
「あ、なつきです。こっちはアルバ。両方とも新米の冒険者です。」
「アルバと申します。」
「ガーボッドだ。新米の冒険者を連れてくるとは・・・エルランド、ついに女ができたのか?」
店主、ガーボッドを冷ややかな目で見つめるエルランド。
「あ、いいえ、乗合馬車で一緒になって、ついでに色々とお世話になっているんです。」
「E級でワイバーンをぶっ潰す女だ。面白いだろ。」
「ワイバーンを!?あいつはB級でも難しい奴だぞ。・・・まあランクはギルドへの貢献度だから、必ずしも実力は表さないってことか・・・・・」
「アグニマスは魔具店が多いがピンキリだから気をつけな。この爺さんは偏屈だが腕はまあまあだ。」
「うるせえ。生意気な。」
また口論が始まるのでは、とそわそわするなつきであったが杞憂に終わった。
「爺さん、こいつらは上客になるぜ。」
エルランドの言葉に真っ先に反応したのはアルバだった。
「こいつら?」
「アルバ、お前銀狼の獣人だろ?飯を食って訓練すれば大分マシになる。励むんだな。」
「は、はい・・・!」
ーーー尻尾が揺れている。
銀狼がどうだとかはわからないが、喜んでいるときは犬にしか見えないな、となつきは思ったのだった。




