いざアグニマスへ
「乗合馬車?」
道中必要になりそうなものを買い揃え、アグニマスへと向かうためにマイナルのすぐ外にある馬車乗り場に行くと、乗合馬車というものがあると教えられた。こちらの公共交通機関であり、運賃は個人で乗るものよりずっと安く済む。
なるほどそんなものがあるのか、それは便利だ。
そう思い、乗合馬車の方へ向かう。
「あれが馬車なの?」
「よく見られる形ですが・・・・見たことはないのですか?」
その乗合馬車と呼ばれるものはなつきのイメージしていたものとは大きく異なった。
まず引いているのが馬ではなかった。
いや、ほとんどよく知る馬なのだが、足が6本あったのだ。アルバがいうにはブールカという種類の馬らしい。
そして馬車にも関わらずキャリッジには車輪がなく魔法の力で浮いているため、ほとんど揺れることもなく乗り心地は良いんだとか。
馬車に乗り込むと先客がいた。黒いフード付きのコートを着ている長身の者がいた。顔はほとんど隠れているが背が高いので男性だろうか。種族は検討もつかない。まあなんというか、「怪しい」を体現したかのようだ。
少しして、馬車はアグニマスへ向けて出発した。
「・・・なつき様もローブか何かを購入すべきだったかもしれませんね。」
「え?アグニマスって寒いの?」
耳元で小さな声でそういったアルバに対して、つい普通のボリュームで返してしまった。
するとアルバは困ったような顔で周りに視線を移す。
自分たちの後に馬車に乗り込んできたいかにも冒険者です、といった者たちが数名いた。
しかし、彼らを見ると冒険者=ローブ(フード)というわけではないらしい。
惜しげも無く肩の筋肉を晒しているものもいる。
「気候の話ではないのですが・・・・・」
「?」
じゃあなんだとアルバの言葉を待っていると、違う方から声が飛んできた。
「乗合馬車を使うのは男ばかりだからな。そこの連れは心配してるんだろう。」
その声の主は先ほどの黒フードで、やはり男だったようだが、想像以上に綺麗な声だったので驚いてしまった。
「そんなことを心配していたの?」
「そ、そんなことではありません・・・!俺では、あなたを守れないので・・・・・」
アルバが反抗したのは初めてだったのではないだろうか。
そのことに驚きつつも、大切にしてくれるアルバに感謝する。
「ありがとう。でも大丈夫よ。私には魔法があるもの。」
笑顔でそう返してもアルバはまだ不満があるようだったが、今更引き返すわけにもいかないので渋々引いてくれたようだ。
アグニマスまでは約1日乗り続ければ着く。
途中、馬のために休憩をはさみ、野営するらしい。
数時間快適な馬車の旅を続け、もうそろそろ野営の時間、というところだった。
「!!?」
突然ガコンと大きく馬車が揺れた。
外が騒がしい。
乗客の一人が「様子を見てくる」といって外に出た。
「故障かしら?」
「・・・・なつき様、なんだか嫌な感じがするのです。」
「嫌な感じ?」
アルバに対して、不吉なことを言わないでくれと思ったが、外は以前として騒がしい。
「逃げろ!!!!ワイバーンだあぁああぁ!!!!!」
外から先ほど様子を見にいった男の大きな声が聞こえた。
「ワイバーン・・・・・?」
乗客たちは、一瞬の間の後、顔面蒼白になり一斉にキャリッジから出ようとした。
「動くな!」
制止の声をあげたのは黒フードの男だった。
「ワイバーンは魔力を感知する知能はない。姿は見せないほうが懸命だ。」
そういってキャリッジの最奥からつかつかと歩き、外へ出ようとする。
そして、なぜか彼はなつきの前でふとその足を止めた。
「女、来い。手伝って欲しいことがある。」
「私?いいけど・・・・」
「なつき様!?」
なつきが黒フードについていこうとするとアルバもその後に続こうとした。
が、しかしーーー
「お前はくるな。足手まといだ。」
「っ!!」
男の言葉にアルバは静止した。
「アルバ、大丈夫。すぐに戻るから。」
「申し訳、ございません・・・・・」
唇をかみしめて、己の無力を恨むアルバ。
馬車から出ようとするその後ろ姿を見送るしかできなかった。
馬車の外では御者や先に外に出ていた男が遠くを見て顔をしかめている。
そこに見えたのは空を舞う白い巨躯。ワイバーンと呼ばれるA級魔獣だ。
まだ若干の距離はあるが、こちらに人がいるのを確認し一直線に向かってきている。
「女、あれの動きを魔法で封じることはできるか?空を飛び続けられと厄介だからな。」
「大丈夫だと思います。」
「任せたぞ。」
ワイバーンとの距離はだいぶ縮まっていた。
あと数秒でこちらにたどり着くだろう。
・・・・・打ち落とせばいいのね・・・・・
「"ギルバート"!」
そうドラゴンの名を呼ぶと小さな暗雲が立ち込めた。
ーーーいけ!!!
なつきが手を振り下ろすと、ワイバーンめがけて一直線に稲妻が落ちた。
ワイバーンは真っ逆さまに墜落した。
「やるな・・・」
黒フードは小さく呟くと、横たわるワイバーンめがけて駆け出し、大剣を振り下ろした。
「うわぁ・・・!!」
どこからか取り出した大剣、そして、駆け出した勢いでフードの男性の顔が顕になった。
大きな音を立てて、ワイバーンは力尽きた。
その男、おそらくかなりの腕前なのだろう。
しかし、そんなことよりもなつきは彼の顔の方に目が言ってしまった。
耳は長く尖っており、彼がエルフ族であることを示していた。
そして何より、
(何この人!?彫刻みたいに美形なんだけど・・・・・!!!!!)




