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『世界のバグは、七瀬由奈(73K)が上書きする 〜数式10.23と13の絶対権限を奪われた高解像度ヒロインの逆襲劇〜』  作者: Eternity Beat


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第35話:戦火のプロトコル

作業ベイの空気が、イオンの焦げた匂いで張り詰めていた。


「おいナナ、本気で言ってんのか!?」


レインストが工具を床に叩きつける。

金属音が甲高く反響した。

アーク・クラス号の床板を揺らすほどの剣幕。

だが、メインコンソールの前に立つ私は、視線すら動かさなかった。


「本気よ。アーク・クラス号の開拓用モジュール、削岩ドリルもサンプル採取アームも全量パージするわ」


私は冷徹に、宙に浮かぶホログラムを払った。

そこに展開されたのは、船体の外殻に無骨な装甲板を溶接し、アマテラス・リアクターの出力を偏向シールドと高出力ビーム砲へ直結した、およそ調査船とは呼べない設計図だった。


「これより本艦を【迎撃戦闘仕様(バトルシップ)】へ換装する」


「冗談じゃねえぞ! こいつは開拓船だ! 星を見つけて、サピエンスを育てるための船だぞ! ドンパチやる軍艦に改造するなんて――」


「惑星調査のフェイズは、千三百年前に終わったのよ!」


私の叫びが、レインストの怒声を切り裂いた。

心臓が早鐘を打っている。

喉の奥が熱い。

叫びたくて叫んでいるんじゃない。

分かっている。この船がどれだけ泥臭い手技で組み上げられた、私たちの希望の塊かなんて。


「ホノカたちのデータを見たでしょう!? 今の銀河を支配しているのは、私の理論を盗んで星間戦争に明け暮れている悪徳軍閥よ。丸腰の開拓船で突っ込んで、あいつらに『私たちは平和的な調査隊です』って頭を下げる気? そんなの、ただの怠慢で無駄死によ!」


「ナナさま……でも……!」


アミィが胸元で手をぎゅっと握りしめ、青ざめた顔で私を見つめていた。


「スペースガンなんて……私、撃てないよ。誰も傷つけたくない……」


「撃たなくていいわよ!」


私は作業台に歩み寄り、無機質な黒い拳銃――分子崩壊パルスを発振する小型のスペースガンを三丁、荒々しく並べた。


「引き金を引かないで済むなら、それに越したことはないわ。でもね、アミィ。この時代は、最低限戦える牙を持たない奴から順に、家畜みたいに首輪をつけられるの! ……あんたたちを、あんな出来損ないどものオモチャにされてたまるもんですか!」


語気の強さとは裏腹に、私の指先は微かに震えていた。

怖い。

失うのが、怖いのだ。

千三百年眠り続けて、ようやくまた巡り合えた熱を。

この泥臭い現場のアンカーたちを、理不尽な暴力で奪われることだけは――私の全演算領域が、絶対に拒絶している。


「……はぁ。まったく」


深い、ため息が落ちた。

レインストが頭をガシガシと掻きながら、床に落ちていたトルクレンチを拾い上げる。


「相変わらず、言い出したらテコでも動かねえ。……現場監督にそこまで覚悟見せられちゃ、作業員(オレ)がヘタレるわけにはいかねえよな」


「レインスト……」


「おい新世代! レオン、ホノカ! 突っ立ってないで手を動かせ! 外装甲の固定ボルトを締め直すぞ!」


「は、はいっ!」

レオンが慌てて工具箱を抱えて走り出す。


ホノカは呆れたように肩をすくめ、スペースガンを一丁乱暴にホルスターへ収めた。


「旧世代の始祖様がドン引きするほど好戦的で安心したわ。……アミィ先輩、安全装置(セーフティ)の外し方、教えてあげるから貸しなさい」


「う、うん……ありがとう、ホノカちゃん……」


ぎこちなく銃を受け取るアミィ。

腹は決まった。

私はジャンパーの襟元を正し、メインシートへ飛び乗った。


「換装作業、急ぎなさい! 仕上がりを試す絶好の獲物が、向こうから飛び込んできたわよ!」


コンソールにけたたましいアラートが走る。


『――索敵網に未確認機影を感知。軍閥所属・高速無人偵察ドローン二機、本艦へ急速接近中』


「チッ、もう嗅ぎつけられたか!」


「ちょうどいいわ。アーク・クラス号の主砲、アマテラス直結偏向ビームの初弾テストを行うわよ! レインスト、照準同調!」


「応ッ! 持ってけ、ドロ棒共がァ!」


レインストが操舵桿のファイアトリガーを力任せに押し込む。

改装された船首のビームナセルから、圧縮された白光の奔流が虚空を切り裂いた。


狙い違わず――暗黒を疾走していた無人偵察機が、光に呑まれた瞬間に分子レベルで破砕され、音もなく火球となって霧散した。


「一撃……! 出力、減衰なし!」


アミィが驚愕の声を上げる。

だが、息をつく暇はなかった。

デブリの影から、偵察機の背後に潜んでいた巨大な影が滑り出してくる。


『――警告。敵・有人軽巡洋艦が光学迷彩を解除。主砲発射態勢に入ります!』


「有人船……! 軍閥の哨戒艦だ!」

レオンが叫ぶ。


「ナナさま、どうするの!? 撃沈するの!?」


「しないわよ!」


私はキーボードの上で指を乱舞させた。

七十三Kの演算が、敵艦のフレーム構造を網膜上にワイヤーフレームで展開する。


「撃沈したら中のサピエンスが死ぬでしょうが! ……私が狙うのは、あいつらの心臓(機関部)だけよ!」


指先がエンターキーを叩き抜く。


「主砲、出力三十パーセントに絞り込み! エキゾチック粒子による局所磁気嵐パルス――撃ち方、始め!」


船体から放たれた青白い稲妻のような波動が、敵軽巡洋艦の装甲をすり抜け、船尾のメインリアクターへと直接突き刺さった。


ドスン、と空間が震える。

爆発は起きない。

ただ、敵艦のすべてのスラスターの光がふっと消え、推進力を失って虚空へと漂流し始めた。


「機関部の完全停止(フリーズ)を確認……! 敵艦、無力化されました!」


アミィの報告に、私は深く息を吸い込んだ。

そして、全周波数へ向けた広域通信アンテナのスイッチを、迷わず最大出力で押し込む。


「全惑星帯の軍閥ども、耳の穴かっぽじって聞きなさい!」


マイクを握りしめ、私は銀河の闇へ向けて言い放った。


「私はナナ・セレスティア。あなたたちが神話の女神として崇め、その名を騙って星を汚している、七十三Kの設計者(マスター)よ」


冷え切った宇宙に、私の声が電波となって染み渡っていく。


「あなたたちの持っている兵器も、航路も、支配システムも……全部、私の理論の粗大ゴミよ。これより、悪徳軍閥が牛耳るすべての惑星統治プロトコルを、私が根こそぎ【無効化(パージ)】してあげるわ!」


通信を一方的に叩き切る。

ブリッジの全員が、息を呑んで私を見ていた。


「……ふぅ。言ってやったわ」


私がツンと顎をそらして席に座り直すと、レインストが呆れたように、でも最高に嬉しそうに笑った。


「へっ、とんでもねえ宣戦布告だ。……もう後戻りはできねえぞ、お嬢様」


「最初から戻る気なんてないわよ。……レインスト、次の跳躍座標を入力しなさい」


暗黒の宇宙の先へ、私たちは舵を切る。

奪われた世界を取り戻すための、長い長い跳躍へ向けて――。

(第36話に続く)

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