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『世界のバグは、七瀬由奈(73K)が上書きする 〜数式10.23と13の絶対権限を奪われた高解像度ヒロインの逆襲劇〜』  作者: Eternity Beat


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第23話:ルミナリア・アーク・ドライブ

「正気かよナナ……! こんなバカでかいユニットを降下艇の背中に力ずくで取っ付けろって言うのか!?」


地下ハビタブルドームの重機工区。VALKANOR製耐圧EVAスーツの関節モーターを悲鳴混じりに唸らせながら、レインストが大声で叫んだ。


彼の眼前でクレーンに吊り下げられているのは、重厚な耐圧装甲で覆われた対の巨大翼型ポッドだ。降下艇本体の倍近い容積を持つその質量は、ドーム底部の人工重力下で圧倒的な存在感を放っている。


「大声を出さないでレイ。今のエンジンで35.0光年のTRAPPIST-1eや、その先の52.0光年へ向かったらどうなると思う? 途中で時空の位相が崩壊して、私たちは宇宙の塵になるわ。ましてや……その先にある1800光年の片道ワープなんて、夢のまた夢よ」


地下作業エリアのホログラムモニターの前。ナナの絶対的知性を宿す彼女は、冷徹な手つきで虚空の回路図を書き換えていた。


「だから作ってあげたのよ。世界の時空バグを強引に捻じ曲げて突破する、私だけの専用駆動系をね」


「専用駆動系って……これ、設計図のシグネチャが全部『73K_YUNA_CUSTOM』になってるじゃない! ナナ様、いつの間にこんなの設計してたの!?」


胸元にソルティ・カザフ(チョコ派)の包装を忍ばせたアミィが、13Kの記録端末に同期されたデータを見て目を丸くした。


ナナはふふん、と誇らしげに顎を上げた。


「正式名称は『ルミナリア・アーク・ドライブ(Luminaria Arc Drive)』。将来、全サピエンスを率いて1800光年先のケプラー452bへ出航するための、実戦プロトタイプよ」


ナナが指先でホログラムをフリックすると、ユニットの3大構造が立体的に展開された。


「核となるのは真空の相転移を起こして無制限のエネルギーを叩き出す【アマテラス・相転移臨界炉(アマテラス・リアクター)】。そして負のエネルギーを生成して時空の泡を切り出す【負質量位相生成器(エキゾチック・ディストーター)】。最後に、船体外装に架装マウントしてその波形を整流する左右の翼……【73K式・時空歪曲ナセル(ナナ・ナセル)】よ」


「……最後のアレ、絶対自分の名前から適当につけたろ」


「何か言ったかしら、レイ?」


「な、なんでもありません! 作業を続けます!」


レイは慌ててVALKANORのバイザーを下ろし、フレーム固定用のプラズマ溶接機を構えた。


「おいアミィ! 『ナナ・ナセル』の右舷マウント部の出力ライン、アースが甘いぞ! 13Kのログで最適な接合圧力を割り出してくれ!」


「了解! レインスト、溶接圧力を4.2メガパスカに調整して! リアクターからの逆流電流を抑え込むよ!」


「よし、叩き込む!」


バチバチと青白いプラズマ火花が地下坑道に飛び散る。始祖を同一とする「家族」としての絆か、二人の連携は恐ろしいほど滑らかだった。レイの手動溶接と歩実のリアルタイムデータ補正により、無骨な『ルミナリア・アーク・ドライブ』が降下艇のフレームへと力強く締結されていく。


(……フン。相変わらず息だけはぴったりなんだから)


二人の息の合った作業を横目で見ながら、ナナは小さく胸の奥で息をつき、すぐさま意識を制御モニターへと戻した。


「架装完了まであと30秒。……来るわよ」


『警告:アマテラス・リアクター内部の真空期待値が急上昇。相転移限界点に達します』


突如、ドーム全体が重厚な地鳴りのような振動に包まれた。

『ルミナリア・アーク・ドライブ』の心臓部が青白く発光し、周囲の空間がまるで熱気のように歪み始める。


「くそっ! 相転移の圧力がかかりすぎて熱交換器が追いつかない! ナナ、臨界暴走するぞ!」


溶接火花を浴びながら憐が叫ぶ。


「落ち着きなさい! 0.01秒の誤差も許さない……これが73Kのオーバーライト(上書き)よ!」


ナナの瞳が鮮烈な青に染まる ——絶対的知性が、暴走しかけたリアクターの数理アルゴリズムを力づくで書き換えた。


瞬間、過熱していた『ナナ・ナセル』の放熱翼から、アマテラス粒子の美しい残光がブワッと吹き出し、荒れ狂っていた磁場が一瞬で凪いだ。


『相転移臨界炉、定常運転へ移行。エキゾチック・ディストーター、位相同調率99.8%』


「……ふう。冷や汗をかかせないでよ」


ナナは端末から手を離すと、髪を軽くかき上げた。


「す、すげえ……完全に抑え込みやがった」


「さすがナナ様! 『ルミナリア・アーク・ドライブ』、完璧に動いてるよ!」


プラズマの残光が収まった地下ドームの中央に、新たな翼を得た降下艇が鎮座していた。不格好だった艇体は、左右に展開された『ナナ・ナセル』によって、まるで遥かなる宙(そら)を目指す巨大な鳥のようなシルエットへと変貌を遂げていた。


「よし、これで35.0光年先への超光年跳躍の足が整ったわ」


ナナは腕の原子時計に目を落とし、不敵に口元を綻ばせた。


「地球時間で言えば、そろそろ夜勤の終わりね。ソルティ・カザフでも飲んで、次の旅路に備えなさい。……私たちの開拓は、まだ始まったばかりなんだから」

(第24話に続く)

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