第18話:氷環のヒートシンク、アマテラスの証明
「——ふん、ただボーッと補給を待つなんて非ロジカルよ」
メインモニターの側面に、静かに、そして美しく佇む青白い氷の惑星——『プロキシマ・ケンタウリc』。
その周回軌道上に静止したアーク・クラスのブリッジで、ナナの指先がキーボードを冷ややかに打鍵していた。
「せっかく4.246光年を跳んで未知の星系へ辿り着いたのよ? 可能な限りの物理データを収集して、サピエンスの環境適応アーカイブへマウントするのが筋というものだわ。……無人探査ポッド、射出!」
船底から放たれた高分解能探査機が、プロキシマcの極厚な大気層へ向かって滑空していく。
コンソールに次々と送られてくる物理数値を前に、ナナは心底嫌そうに眉をひそめてみせた。レインストの防寒ジャンパーの袖をぎゅっと握りしめ、ツンと顎を引く。
「……はあ、ダメねぇ、この惑星(プロキシマc)は! 表面温度マイナス二百十度オーバー、大気は凍結したメタンと窒素の氷の地獄よ。サーバーを置いた瞬間に熱力学的に凍結壊死するわ。新天地候補から完全除外(削除)ね!」
「ハッ、見た目はキレイな青い星だが、住むには寒すぎるってわけか! だが、これで迷いは消えたぜお嬢様! 俺たちの本命は、あのハビタブルゾーンで爆走してる『プロキシマb』ただ一つだ!」
レインストが豪快に笑いながら、コンソールのメンテナンススイッチを切り替える。
サブシートのアミィも晴れやかな笑顔で通信ログを打刻した。
「ふふ、プロキシマcの『居住不可領域』指定ログ、インデックス完了しました。……ですがナナ様、次はどちらの実験ですか?」
アミィの問いに、ナナは怪しく澄んだ青い瞳を輝かせた。
「決まっているでしょう。エネルギー側(アマテラス粒子)の実測データの確定よ。低解像度なサピエンスが『アマテラス粒子なんて高エネルギーすぎて制御できるわけがない』なんて浅い言いがかりを付けてくる前に、実測値で証明してあげるわ」
ナナがモニターのホログラムを指差し、プロキシマcの周囲を美しく彩る『巨大な氷と微小鉱物のリング(環)』を強調表示する。
「……ふん、プロキシマcの地表で直接実験を行わない理由? 決まっているでしょう。地表で直接アマテラス粒子の励起実験なんてやったら、高密度エネルギーの連鎖反応でプロキシマcが内側から崩壊して、惑星が一つ丸ごと砕けて消滅するわ」
ナナは得意気に鼻で鳴らし、冷酷に言い放つ。
「だからこそ、この『氷のリング(環)』をハックしたのよ! プロキシマcの周囲を覆う無数の氷微粒子群……ここを天然の超巨大な冷却用ヒートシンク(緩衝帯)として利用するの。万が一エネルギーが暴走しても、リングの氷が瞬時に昇華して安全に熱をパージしてくれるわ。これで惑星消滅のリスクはゼロよ!」
素粒子捕獲ポッドがリングの氷群へと射出され、青い光の格子が宇宙を彩る。
「観測値、出たわ! 二百四十四エクサ電子ボルト! プロキシマの狂暴な磁気圏と氷のリングのバウショックが干渉するこの領域は、アマテラス粒子の天然の受光プラットフォームになっているわ! 私たちのアーク・クラスの超伝導格子なら、このエネルギーを一切の損失なしで100%運動量に変換できるわ。……これでプロキシマbへの一発アジャストどころか、一八〇〇光年先のケプラーへ飛ぶための完全な『燃料(PATH)』が証明されたわね!」
「ハッ! 惑星を爆発させずに究極の燃料を手に入れて、失敗の理由も完全解析済みか! 最高にスマートな現場監督だぜお嬢様!」
レインストが豪快に笑い、操縦桿のジャイロ(姿勢制御角)を力強くアジャストする。
「ふふ、ジャイロメンテナンスおよび姿勢制御角の補正、コンマ〇〇〇一秒の狂いもなく完了です! ナナ様、レインスト!」
アミィが晴れやかな顔でバックアップログを確定させた。
「よし……全プロトコル完了よ! 次こそは完璧な『横(並走軌道)』へ……プロキシマbへリトライ(再跳躍)よ!!」
ナナは真っ赤な顔でレインストの胸板に顔を押し当て、その裾をぎゅっと掴んだ。二人の熱が、宇宙の暗黒を溶かしていく。彼女たちの創世へのPATHは、誰にも止められない。(第19話に続く)




