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『世界のバグは、七瀬由奈(73K)が上書きする 〜数式10.23と13の絶対権限を奪われた高解像度ヒロインの逆襲劇〜』  作者: Eternity Beat


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第11話:熱のバイパス、甘やかな重力(戦闘後のボーナス)

戦闘を終えたアーク・クラスのプライベート区画は、ひっそりとしていた。

木星軌道を超え、船は土星のリングへと至る長い沈黙の巡航フェーズに入っている。


レインストは、個人個室のベッドに横たわるナナのそばにいた。

額に当てられた濡れタオルを、慣れない手つきで絞って取り替える。


「……ん、ぅ……」


ナナが微かにうめき、長い睫毛を震わせて目を開けた。

いつもの冷徹なエリートとしての威圧感はどこにもない。熱に浮かされたように頬を赤く染め、焦点の定まらない瞳でレインストを見上げている。


「気がついたか、お嬢様。無茶しやがって。一・三秒の光速ラグを脳内でアジャストした上に、電磁誘導の元素最適化なんて曲芸(ハック)やらかしたんだ。知恵熱で脳ミソが焼き切れてもおかしくなかったんだぞ」


「……レインスト……」


ナナは弱々しく手を伸ばし、枕元に置かれていた、例のぶかぶかな防寒ジャンパーの袖をぎゅっと握りしめた。


「敵は……地球棄却派の駆逐艦は、どうなったの……?」


「お前の計算通り、小惑星と衝突して消え去ったよ。アミィがセンサーを見張ってくれてる。ここらは静かなもんだ。だからお前は、余計な計算なんか止めて寝てろ」


「だめよ……。まだ、やることが……。船内の『地球元素カプセル』の保管状況を確認しないと……。あれは、人類の、未来……」


上体を起こそうとするナナの肩を、レインストが無骨な手で優しく、だがしっかりとベッドへ押し戻した。


「そいつは俺の仕事だ。お前は自分の体のバイパス制御(熱処理)だけ考えてろ」


「……っ、バカね。私の脳の熱は、物理的な冷却(バイパス)じゃ下がらないわ。超演算による脳細胞の活性限界——いわゆる、オーバーロードなのだから」


ナナはぷいと横を向いたが、その耳たぶまで真っ赤に染まっている。


「なら、どうすりゃ下がるんだよ。ルナ・セクターの高度な薬なんて、このブリキ缶には積んでねえぞ」


「……手を、握りなさい」


「あん?」


ナナは防寒ジャンパーの袖から、白く、細い、そして微かに震える指先を差し出した。


「お、お前の手のひらは……無駄に分厚くて、熱いから。……その物理的な接触による、電気的な安心感が……脳の自律神経を安定させ、演算バッファをクリアにする……という、理論的な、処方、よ……」


ツンと澄まそうとしているが、声は震え、その瞳はすがるようにレインストを見つめていた。

宇宙の絶対座標を暴き、新天地での創世を司る「女神」が、いまや一人の技術屋の手がなければ、熱を下げることすらできない。


「へっ……都合のいい理論だな、お嬢様」


レインストは苦笑し、その無骨な手で、ナナの小さく冷たい手を包み込んだ。

男の皮膚の硬さと、確かな熱。

それを受けた瞬間、ナナの顔からふっと緊張の糸が解け、深い安堵の吐息がこぼれた。


「……温かいわ……」


「そりゃどうも。現場の職人(エンジニア)は年中体動かしてっからな。熱だけは有り余ってんだよ」


「……ねえ、レインスト。さっき、カプセルから超伝導元素(ペロブスカイト)を宇宙空間に放出した時……私は、不思議な『感覚』を覚えたの」


ナナがレインストの手を握り返す。その力が、少しだけ強くなった。


「あの極小の元素たちに、私の脳波(PATH)が直接、噛み合ったような……。まるで、宇宙の物質そのものが、私の思考に合わせて組み変わっていくような、そんな奇妙な……」


レインストの眉がピクリと動いた。

ただの元素圧縮技術であるはずの『地球元素カプセル』。それが、ナナの超天才的な頭脳と、主観時間ゼロの跳躍(ゼロ・ディメンション・ワープ)を経てシンクロした時、何が起きるのか。

それは、この「創世の片道切符(ポスト・ジェネシス)」に隠された、もう一つの禁忌の片鱗だったが、今のレインストには知る由もなかった。


「ま、考えすぎだ。お前はただの、ボトルも開けられねえポンコツお嬢様なんだからよ。……ほら、目を閉じろ」


「……ポンコツって、言うな……。……でも、今日だけは……このまま、手を離さないで……」


ナナはそう呟くと、レインストの手を胸元に抱きかかえるようにして、静かに眠りに落ちていった。

その穏やかな顔を見つめながら、レインストは、この華奢な少女が背負う未来の重さを、改めてその掌に感じるのだった。(第12話に続く)

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