第10話:創世の火花、電磁の引き金(ドッグファイト決着)
アステロイド・ベルトに、旧時代の燃料と最新のプラズマが織りなす、いびつな蒼い推進火花が飛び散る。
「敵駆逐艦、依然として追従! ロックオン・レーザー、再充填まであと十五秒!」
アミィがシートに背中を押し付けられながらも、叫び声を上げた。
魔改造された装甲は敵の先制攻撃を耐え抜いたが、所詮は寄せ集めのブリキ缶だ。ルナ・セクターの正規軍すら手こずる過激派の純軍用駆逐艦と、正面から撃ち合って勝てる兵装など、このアーク・クラスには存在しない。
「レインスト、直進は自殺行為よ。敵の火線はすでに私の脳内で格子状に展開されているわ。……でも、左舷十キロにある鉄成分の多い小惑星(M型小惑星)を利用すれば——」
ナナがレインストの肩を掴む手に、さらに爪を立てた。
超演算の負荷により、彼女の視界はかすれかけている。それでも、レインストの背中越しに感じるぬくもりだけが、彼女の意識を現実に繋ぎ止めていた。
「鉄の小惑星だと? そいつをどうする、お嬢様」
「この船に積まれた『地球元素カプセル』から、超伝導特性を持つ極小元素を、この小惑星帯の浮遊デブリに直接ハッキング・散布するのよ。そこへ、あなたが魔改造した船底の予備推進ノズルから、高電圧のプラズマを直接叩き込む」
「……ハッ。なるほどな、そいつはイカれた物理実験だ」
レインストはナナの意図を一瞬で理解し、獰猛に笑った。
地球上のあらゆる物質、元素の情報をカプセル化(圧縮)した『地球元素カプセル』。その中身の一部を宇宙空間に「ハッキング・展開」し、周囲の小惑星ごと、巨大な『即席の超電磁誘導レール(レールガン)』へと作り変えてしまうというのだ。
「理論は完璧よ、レインスト。あとは——」
「お前の理論を、俺が力技で現実に叩き込んでやる! アミィ、カプセルの元素放出バルブの権限をナナに一括同期! 同時に、エンジン出力を全セクターから船底ノズルにバイパスしろ!」
「了解っ! 全電力を船底へバイパス! バルブ解放、同期完了です!」
アミィの驚異的なオペレーション速度が、二人の無理心中めいた作戦を完璧に下支えする。
次の瞬間、ナナが叫んだ。
「カプセル、微細元素パージ! 一・三秒先の未来座標へ向けて——展開!」
アーク・クラスの排気口から、目に見えないほど極小の超伝導元素が、小惑星デブリの群れへと霧のように放出された。
タイムラグを完全にアジャストされたその霧は、正確に敵駆逐艦とアーク・クラスの間の小惑星を包み込む。
「レインスト、今よ! プラズマ、最大出力で放電!」
「オラァッ! 化石ロケットの根性、見せてみろ!」
レインストが、コンソール上の手作りの物理レバーを思い切り引き下げた。
次の瞬間、アーク・クラスの底面ノズルから、蓄積されたすべての高電圧プラズマが、暗黒の宇宙空間に向けて一気に放電された。
バチィィィィィィィィン!!!
小惑星帯の静寂を、あり得ないはずの青白い「雷撃」が切り裂いた。
超伝導元素を媒介にして、数万の岩石が巨大な『電磁コイル』と化し、その中心にいた敵駆逐艦へ向けて、凄まじいローレンツ力が牙を剥いた。
「な、何が起きて——」
敵駆逐艦の通信から、狼狽したパイロットの音声が一瞬だけブリッジに漏れ聞こえる。
直後、敵艦は自らの推進力と電磁誘導の力によって強引に公転軌道をねじ曲げられ、隣接する巨大な氷の小惑星へと真っ逆さまに激突した。
サイレントの爆発。
音の無い宇宙で、敵の駆逐艦は美しい光の粒子となってアステロイド・ベルトに散っていった。
「敵駆逐艦の熱源反応……消失。完全な大破を確認しました」
アミィが、コンソールの光を顔に浴びながら、信じられないものを見るように呟いた。
旧時代の遺物と、最新の元素カプセル、そして二人の異常なまでのシンクロが生み出した、あまりにも鮮やかで暴力的な勝利。
「はあ、はあ……。見た、かしら……。私の、計算の、通り……よ……」
ナナはそう弱々しく呟くと、張り詰めていた糸が切れたように、レインストの背中へと倒れ込んだ。
「おい、お嬢様!?」
レインストが慌てて振り返り、その華奢な体を片腕で抱きとめる。
ナナは完全に意識を失い、穏やかな寝息を立てていた。その顔には、先ほどまでの冷徹な監査官の面影はなく、ただレインストのぬくもりに安堵する、無防備な少女の表情だけがあった。
「本当、無茶苦茶な二人ね」
アミィが呆れたように、だがどこか誇らしげにクスリと笑う。
「レインスト、ナナ様を早く個室へ。船の監視は、私が引き受けるわ」
「ああ、頼んだ、アミィ」
レインストは、自分よりもはるかに小さな創世の女神を横抱きに抱え上げ、ブリッジを後にした。
アーク・クラスは、アステロイド・ベルトの混沌を抜け、いよいよ新天地ケプラー452bへと至る、本当の超空間跳躍への準備に入ろうとしていた。(第11話に続く)




