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5.【第一世界】アンリアル・ログイン

 右の頬に冷たくザラザラとした石の感触を感じる。

 瞼は重く、微かに開いた視界。

 しばらくして、自分が倒れ込んだことを思い出した。

 もうろうとする頭と思い通りに動かない手足を必死になんとか地面に付け、四つん這いになった。


(気持ち悪い……耳鳴りがする……どうなったんだっけ....たしか、みんなが突然消えて....)


 ぼやけた視界が次第に晴れていき、さっきまでの気持ち悪さが嘘のように頭がハッキリとしてきた。

 地面に付いた両手と石畳の模様が視界に映る、視力が良くなったんじゃないかと疑うくらいに鮮明に、かつ視野が広くなったかのように感じた。


 顔を上げ辺りを見渡すと、さっきまでオープニングセレモニーを開催されていた広場が目に入る。

 他のプレイヤーも目を覚まし始めていた、静まり返っていた広場がまたゆっくりと話し声が増えていく。

 俺はその光景に違和感を感じていた。


(なんだこの違和感は... ん? 空が曇っている?)


 さっきまで晴れいていた空が目覚めると同時に少し曇りがかっていた。


(...長い時間眠っていたのかもしれない、でも、なぜかスッキリした気持ちだ...風が少し冷たいからか?)


 まるで早朝の空気をめいっぱい吸っているかのように、肺に入る冷たい風。

 少し湿気を帯びた風と薄暗い街がなんとも言えない雰囲気を漂わせていた。


「……今の、なんだ?」


 誰かの呟きに重なるように、周囲から戸惑いの声が漏れ始める。

 だが、それはすぐに別の種類のざわめきへと変わった。

 広場の中央にある噴水。その縁に人が集まり始める。


「おい……これ……」

「嘘だろ……?」


 水面を覗き込んだまま、誰もが言葉を失っている。


 「どうして……私の顔が!」

 

 状況を察した俺はその場から動かず、代わりに腰の剣へと手を伸ばした。

 鞘から引き抜くと、薄く光を受けた刀身が鈍く輝く。

 ゆっくりと、刃を傾ける。

 剣の腹に、自分の顔が映り込んだ。

 ……違う、反射的にそう思った。

 先ほど自分が作った“アバターの顔“じゃない。

 もっと、現実に近い――いや、現実そのものの輪郭。

 目の位置も、髪の質感も、細かい癖まで。

 見覚えがありすぎる。

 もう一度、角度を変えて確かめる。

 だが、何度見ても結果は変わらなかった。


 そこに映っているのは――紛れもなく、“俺自身”だった。

 


(なんだこれ......俺の顔が.... )


 技術の進化とは目まぐるしいものだ、ここまで精巧に作られた顔は、まるで本物と見間違えるほどの出来だった。

 しかし、だからこそ分からない。

 学生とはいえ、ゲーム制作の道に進もうとしていた俺ですら、その制作方法に皆目見当がつかない。


 考えても仕方がない。

 こんな状況で思考がまとまるわけもなく、気持ちを切り替えようと顔を上げた。


(取り敢えず動こう.....そういえば 今って時間は~・・・)


 目を左右に動かし、時間の表示を探す。

 しかし、先程まで右下に小さく表示されていた時間表記が見当たらない。


 ・・・やっと違和感の正体に気付いた。


 

「UIが無い...」



 右上にいつも表示されている自分の体力バーも、左下に映るはずのミニマップも、鬱陶しいほど画面を占有していた左上のクエストバーも、時間も、方角も、武器も、ログも、何一つ視界を遮るモノが、そこに無くてはならない物が無くなっていた。


 慌てて目を泳がせるが何も見つからない、

(ふざけるなよ!...魔法や職業の次はUIかよっ! このゲームは何をさせたいんだ!)

      ・・・

(そうだ、インベントリー!せめてアレが無いと話にもならないぞ)

 顔の前まで手を上げ、空中を人差し指で2回タップする。

 すると眼前にメインメニューらしきウィンドウがポップする。


 ・[インベントリー]

 ・[ステータス]

 ・[パーティ]

 ・[フレンド]

 ・[クエスト]

 ・[オプション]


「あった! よかった~...これ無かったら積みだろ」


 ポップした画面の[インベントリー]をクリックすると、左側に人間のシルエットと装備欄、右側にアイテムボックスが映る簡素なデザインに変わっていた。

 アイテムボックスはタブで切り替えられ、【装備】・【アイテム】・【貴重品】に分かれており、すべてのタブは映し出されている限りだと5×5の25個の枠が存在している。


【装備】のタブ内で現在持っているアイテムは以下の通りだ。


 ・〘胴〙旅人のチュニック

 ・〘ベルト〙旅人のギルドル

 ・〘ズボン〙旅人のブレー

 ・〘靴〙旅人のターンシュー

 ・〘インナー上〙亜麻のシャツ

 ・〘インナー下〙亜麻の下衣

 ・鉄の片手剣

 ・鉄の短剣


 それぞれ名前で表示されているわけではなく、25個ある正方形の枠の中に、その装備の見た目を模した小さなアイコンが格納されている。

 アイコンをクリックすると装備名と詳細が表示される仕組みだ。


 鉄の短剣以外は全てグレーアウトした状態でアイコンの右上に小さく〘装備中〙と書かれている。

 左側にある人形の頭と腕の装備欄が空欄になっており、武器の欄には『鉄の片手剣』を装備していた。

 他にも人形の外側に空欄が7つほどあったが、たぶんここはアクセサリーか何かを装備する枠だろうか。


【アイテム】には、

 1つの枠に回復ポーション×2と書かれており、

 アイテム枠とは別で右上に所持金は2000G(ゴールド)と書かれていた。


左上にある[↩戻る]を押した後、今度は【ステータス】をクリックする。


(なんだこれ・・・)


 ポップしてきた画面は真ん中で二分割されており、左側には各項目の数値が記載され、右側には数値と共に五角形の図が表示されている。

 よくあるステータス画面だと思ったが、よく見ると左の数値と右の図形に書かれているステータスの名称が違っている。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【左側】

 ・攻撃力 12

 ・魔法攻撃力 8

 ・防御力 10

 ・魔法防御力 6

 ・HP 50

 ・MP 8

 ・会心率 3%

 ・会心ダメージ率 50%

 ・ダメージカット率 5%

 ・運 3

 ・痛覚耐性 1


《詳細》

 後々登場予定

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【右側】

 ・筋力 19

 ・耐久力 12

 ・敏捷 23

 ・精神力 20

 ・持久力 30


《詳細》

後々登場予定

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(・・・は?...)

(どうしてステータスが二種類あるんだ?・・・)

(他のゲームだと攻撃力と筋力はほぼ同じような扱いがされてるよな・・?)

(あれか?、ポイントを筋力に振ると攻撃力が上がるとかってやつか?)

(じゃぁなんで、右には敏捷やスタミナがあるのに、それと対になりそうなステータスが左に存在しないんだ・・・?)

 まぁ今考えても仕方のないことだ。


 フレンドとオプションはグレーアウトしていて触れても反応しない。

 クエストはまだ受注していないからかポップ下画面には何も表示されていない。

 最後に、パーティをクリックすると、『パーティメンバー』と『パーティに誘う』の2つしか出てこない。

『パーティメンバー』を試しに押してみるが、やはり...あいつらの名前は表示されない・・・

『パーティに誘う』も試してみる。

 するとウィンドウがポップし、『半径5m以内にプレイヤーが見つかりません』という文字が表示された。


(まさかこれ...近くに居るプレイヤーにしかパーティ申請できないってことか...)

(これはかなりまずいな.... プレイヤー検索機能が無い..... 直接声をかけろってことか...)


(無理..無理..無理...無理……昔のMMOならまだしも、昨今のMMOは自動マッチングが主流だろ、画面越しならなんとかなるが、面と向かって人に話しかけたり大きな声でパーティ募集を呼びかけるなんて陰キャの俺には絶対に無理だ……チャット機能も無いし……プラカードでも掲げろってか...)


 ゲームの仕様と現場を理解した瞬間に顔が青ざめてしまう。


(まずいぞ、これはスタートが重要だ.... 今は周りも混乱しているから直ぐには始まらないだろう、

しかし、初日にパーティを組めなかったらヤバい・・・日に日にパーティを組むのは難しくなっていくし、2~3日で人間関係はだいたい固まってしまう...)


 度を超えたコミュ障の俺には受け入れがたい事実だった。

 テキストベースならまだしも、初対面の相手にフルダイブの一人称視点。

 つまり、面と向かって口頭でコミュニケーションを取らなければならないというのは、かなりハードルが高い。

 しかし、そうも言っていられる状況ではない。


(MMOでのソロプレイは圧倒的に効率が悪い.....加えてデスゲームに巻き込まれたということ。

 誰か一人でもクリアすれば良いのなら..前線で命を張る義理は無い、隅でひっそりとゲームが終わるその日を待つのがベストだ.....

 だが、オープニングセレモニーで言われたように、自分の死体を運んでくれる仲間が必要不可欠であり、ソロプレイのリスクは高すぎる。

 ゆえに、今この時に仲間を探さなければ積んだも同然だ.....)


 考えれば考えるほど足は震え、口は硬く閉ざされる。

 声帯を通る風は、喉から水分を奪うばかりで少しも動こうとしない。

 呼吸の音ですら発してはいけないと体が錯覚し、荒くなる呼吸と反比例して音は小さくなる。


(あいつらが居てくれたら.... )


 今日ほど友達を恋しく思ったことはない。


(そういえば...コミュ障で友達が作れなかった俺に..最初に声をかけてくれたのは...八重樫だったな....)


(・・・どうしてだよ..... 俺は.....みんなとゲームで遊びたかっただけなのに.....)





(.....第5世界をクリアだっけ?なんだっけ? なんだか知らないけど...サーバーが統合されれば..またあいつらに会えるんだよな....)


(なら、俺も少しは攻略を進めておかないと.....)


 痺れて握れなくなった左手を右手で強く握り締め、生き延びる決意をした。



(誰かパーティを呼びかけている人物を探そう・・そして、なるべく年齢が近い若者が集まっているグループがいい!,,,)


 などと考えながら周りの動きを観察している。


(文字通り一瞬の判断が命取りだ、観察に時間をかけ過ぎて先着争いに負けてしまっては意味がない)

(周りはオープニングセレモニーのときほど人は多くない。募集している人間を探すのと同時に目ぼしい人材の位置を大まかにでも把握しておかないと.....)


 と思っていたが、周囲の人は未だに混乱しているようだ。

 文句を言いながら地団駄を踏む人、這いつくばって嘆いている人、インベントリーを睨みつける人、状況が飲み込めず周囲の人に質問攻めをしている中年男性、座り込んで今にも泣き出しそうな少女、そして俺と同じように周囲をコソコソと観察している人、どうしていいかわからず誰も動こうとしない。


 しばらくして、チラホラと動き出す人が出始めた。

 市場の方角に歩き出す人や正門からフィールドに出ようとする人、その人達に触発されとりあえず歩き出す人達。

(コイツら馬鹿なのか...さっきの話を聞いてなかったのか、PTメンバーが居ないと死んだら即アウトなんだぞ、この場の雰囲気に耐えきれなくなったのはわかるが、冷静に物事を考えろ,,,)

 そんな事を心の中で呟いていると、一際大きい声で募集をかける人が現れた。


「誰かPT組みませんかー!!・・・誰か僕とPT組んでくれる人居ませんかー!!!」


 声のする方を向くと、俺と同じぐらいか少し年下の高校生くらいの青年が右手を大きく上げて叫んでいた。

 一瞬戸惑ってしまうと同時に、一歩踏み出そうとした足が半歩進んだ程度で動くのをやめてしまった。

 心構えをしていても、いざチャンスが目の前に来ても足が動かない,,,

 周囲の人も戸惑っている、彼の方を見る人が次々と増えていく中、名乗り上げる人がまだ出ない。

 すると奥から走ってくる人がいる、彼も同じ位の年齢だ。

 それに気付いたのは俺だけじゃなかった、1人の行動につられて何人か歩みだした。

 俺はそれをただ見ていることしか出来なかった。

 5~6人どころじゃない、何人もその場に歩み寄っていた。

 彼を中心に、PTメンバーを集めるためのエリアが築かれていった。


 俺は完全にタイミングを逃した... 心臓がバクバクと鼓動している。

 俺を含め、まだ周囲には何人か動けないでいる人が居た。

 そう、今更歩み寄るのに抵抗があったからだ。

 だんだんと話声が大きくなり、みんな必死なこともあり、まるでバーゲンセールのような肉団子状態になっていた。その熱量に圧倒され、エリアに近付いたはいいものの話しかけられずに人の輪の少しそとに立ち尽くして背伸びしながらキョロキョロする出始めた。

(俺が歩み寄って行っても、ああやってキョロキョロする人の一員になるだけだろうな。

 そして目があってしまえば、なんで話しかけないの?みたいな目で見られかねない。

 陰キャってのは自分から人に話しかけられないの!許しを得るまで声を発せないし生きてちゃいけないの!!)

 冷や汗が出てきた。

 やっちまったと後悔しながらただ立ち尽くす。


 しばらくして輪の中から飛び出してくる人が居た。

 そして集団から少し外れたところで募集を始めた。


「誰かこっちでPT組みませんかー!」


 またしても若い青年だった。

 これは神が与えた最後のチャンスと思った。

 さっきまでただ突っ立っていたせいか動き出した右足が左足にぶつかり少しよろけてしまった、そのままぎこちない歩きをしながら声のする方へ近付いていく。

 視界に、俺と同じく歩み寄ってくる人が何人か見えた。

(お願いだ神様、どうか歩み寄ってくる人が6人PTをオーバーしませんように...)

 そう願いながら、人生で二度と無いくらいに勇気を振り絞って足を踏み出した。



小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。

読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

引き続きお付き合いいただければ幸いです。

よろしければ感想や評価も励みになります。

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