4.オープニングセレモニー
訓練場を出ると街はすっかり人でごった返していた。
さっきまでNPCしか見かけなかった街の通りがプレイヤーで溢れている。
一番怖いのが、皆が目指している方向が同じということだ、人混みが嫌いな俺達陰キャには吐き気を催す光景だった。
「これじゃぁ 広場に着いてもまともにセレモニーが見られそうにないな...」
案の定、広場は肩と肩がぶつかりそうなくらい人で埋め尽くされており、中央に行こうものなら身動きが取れなくなるだろう。
立ち話をする集団、人の隙間を割って進もうとする人達、隅の花壇に腰をおろしてイチャついている男女。
1秒でも早くここから離れたい気持ちに襲われたが、オープニングセレモニーを見たいという気持ちがかろうじて勝っていた。
「第四サーバーなのに人が多いな... どうする?空いてるサーバーに移動する?」
「いや、もうセレモニーが始まる時間だし、やめておかね?移動中に始まってたら嫌じゃん」
「でもよ~ これ人が多すぎてセレモニーがまともに見られないんじゃね?」
「あ~、あの奥にあるステージで開かれそうだしな~、ここからじゃ米粒にしか見えないな」
「まぁ、しゃ~ないやろ、お前らライブとか行ったこと無い?良い席取れなかったらこんなもんやで」
「そりゃそうだけどよぉ、一度きりのオープニングセレモニーだぜ?動画で見るよりリアルタイムで楽しみたいじゃん~どうせならっ」
などと話している間に刻々と時刻は過ぎていく。
しかし、いっこうにセレモニーの始まる気配がない。
不審感を持ち始めるプレイヤー達、周囲がザワつき、一層話し声が大きくなっていく。
周囲がうるさく、話すことをやめてしまった俺達は集団から少し離れた位置に立ち、ひたすら待ち続けた。
痺れを切らした俺は集団の方へ一歩近付き、どうにかステージの様子が見られないか背伸びしながら目を凝らしていると、ステージの上にようやく炎が灯る。
ステージがようやくセレモニーらしい空気を帯び始める。
そのことを伝えようとみんなの方へ小走りで戻る。
しかし、その道中で転んでしまい、それに気付いた角倉が手を差し伸べる。
「お前なんでこんな何も無い所でコケてんだよ~w」
彼は小馬鹿にしながらも助けてくれる優しい奴だ。
「うっせ!w」
彼の手を取り立ち上がる。
「まったく、白坂はほんと、 どんくサ........」
え?
角倉が唐突に消えた。
さっきまで目の前に居たのに、さっきまで手を握っていたのに、
瞬きする間もなく一瞬にして彼は姿を消した。
「はぁ? どうなって.....」
混乱しながら辺りを見渡す。
しかし、そこに友人達の姿は無かった...
「.... おい、 みんなどこに行ったんだよ!...」
(回線が切断された? 全員同時に? ありえないだろ
周囲に隠れられる場所も無いし...)
友人の姿を見失ってから少しして、周囲から音が消えていたことに気付く。
徐々に周囲から声がして来たと思ったら、その声が1オクターブ下がってることに気付いた。
再び集団の居るステージ側に振り返ると、さっきまで人で埋め尽くされていたステージ側はプレイヤーがまばらにしか立っていない。
状況を飲み込めず再びザワつく周囲、さっきまでと違い彼らには1つの共通点があった。
全員がキョロキョロと、周りを見渡している。
誰かと会話をしている人は1人も居なかった。
集団の中に居た人達も、集団から少し離れて話していた人も、花壇に腰をおろしていた女も、
友人が一瞬にして目の前から消えた状況に、戸惑っていた。
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まもなくして、ステージの方から大きな音と共に炎が燃え上がり、その火は何かを形作るかのように一点へ収束し、人のような形をなしていった。
それは、全身が鉄で出来た人形のよう。
西洋の鎧を模したようなデザインのフォルムと、人を不快な気分にさせる刺々しい装飾、
目や鼻などのパーツは無く、頭と四肢以外に人の要素はなに1つ持たない鉄の体だが、女性の体型を彷彿とさせるようなシルエットをしていた。
そしてそれは、バレリーナのようなお辞儀をした後に、ゆっくりと話を始めた。
「皆様、こんにちは.....」
「私は、この第4サーバーの管理を任されている『オルステラ(Orstella)』と申します。」
「これよりオープニングセレモニーに代わり、皆様にプレイしていただく『//გჭЖЁПТტჩИ∴ΞΛΦ:ΨЯ..Ю-』のチュートリアルを開始させていただきます。 」
(・・・え... 今なんて言った..?)
「ここは無限に広がる幻想世界。—現実を超えるもうひとつの現実—オープンワールド型VRMMOの世界 『//გჭЖЁПТტჩИ∴ΞΛΦ:ΨЯ..Ю-』へ、ようこそ!」
聞き間違いではなかった、ゲーム名を口にする時だけ、言葉にならない謎の機械音でかき消されている。
(バグってるのか?.. リリース初日のセレモニーでこれはないだろ...)
「これから皆様には、“命を懸けて”このゲームをプレイしていただきます。」
一拍の静寂。
誰も、何も、言葉を発せなかった。
“命を懸けて”という言葉が、重くプレイヤー達の胸に沈んでいく。
まるで観客としてゲームの中にいた彼らが、物語の当事者として引きずり込まれたような、異様な感覚。
リアルなはずの感覚が、逆に現実感を奪っていく。
「嘘だろ……」
「いやいや、そういうイベントだよな……?」
しばらくの沈黙の後、オルステラは説明を続ける。
「本ゲームの仕様により、プレイ中のログアウトおよび現実世界への帰還は、一切認められておりません。」
……次の瞬間、全員が同じことを確認しようと、指を動かしていた。
自分を含め、周りの人間が一斉にメインメニューからログアウトの項目を確認する。
辺りから疑問符を浮かべた呟きと罵声が飛び交う。
「ご安心ください、貴方方のどなたか一人でもゲームをクリアした暁にはプレイヤー全員の帰還をお約束いたします。」
「ではなぜ、命を懸けていただくかと申しますと、皆様のキャラクターが死後12時間以内に蘇生が試みられなかった場合、オムニセンサリアライザーの機能が停止し、同時に..接続していた皆様の脳も停止してしまうからです。」
何を言っているんだコイツは... 耳で聞いた言葉の意味が、頭に定着しない。
「それではゲームの説明をいたします。」
「皆様には これより12の世界を巡り、各世界のワールドボスを討伐していただきます。」
「そして皆様が訪れる最後の地、13番目の世界、ЖП:ΩЦФШтЯЗГ-ГЯЖФШПЦЦГ:ЖШФПЗ天عودبを攻略した時点でゲームクリアとなります。」
「皆様には第一世界から順に攻略していただき、ワールドボスを討伐することで次の世界へ進むことができいます。」
「またゲームのクリア同様、1人でもワールドボスを討伐した際には世界間転移ポータルを起動することが可能となり、全プレイヤーが次の世界へ進むことができます。」
「そして、このゲームは公平性を期すために、いくつか特殊なゲーム性を導入しております。」
「まず第一に、ゲーム開始時点での皆様の交流関係をリセットさせていただきます。」
「お気付きかとは思いますが、先ほど..全プレイヤーを対象にサーバーシャッフルを行いました。皆様がログインなされた瞬間から、現時点までに接触したプレイヤー、フレンドリストに登録されているプレイヤーと別々のサーバーになるよう振り分けさせていただきました。」
「このゲームは4人から6人パーティを推奨とする難易度設定になっておりますゆえ、命を預けられるPTメンバーを見つけることがとても重要になります。」
「ですが、誰しもがこのゲームを友人とプレイしているわけではありません。このゲームの性質上、他のプレイヤーとの信頼関係を築くのは容易ではなく、既に構築された人間関係に入り込むこともまた、困難であると考えております。」
「また交流関係以外にも、始まりの街であるマリシア王国は全プレイヤー4万人弱の人口が暮らしていけるほどのリソースが設定されておりません。」
「以上の理由から、ゲーム開始時点での公平性を期すために、サーバーシャッフルを実施させていただきました。」
「なお、これは一時的なものであり、皆様が第五世界の転移ポータルを起動した時点で全サーバーの統合を実施いたします。」
「そしてもう1つ、戦闘面においてロールや職業などと呼ばれているプレイヤー間での役割分担を撤廃するため、次のような変更を行います。」
「まず、皆様には自身の運動能力に基づいて戦闘を行っていただくため、モーションサポートが入る攻撃スキルをすべて廃止させていただきます。また、前衛と後衛の概念を無くすために、魔法や弓などの効果的な遠距離攻撃を行う武器や魔法の廃止、モンスターの攻撃を引き受けるタンクと呼ばれる役職を無くすため盾装備の廃止を行います。」
「そして、仲間の回復..あるいは蘇生することのできる魔法やスキルの一切を廃止いたします。」
(はぁ..? そんなに廃止して.... じゃぁ 何ならできるって言うんだ....もうゲームとして成り立たないだろ..)
「最後に2点ほど、ゲームに関する説明と忠告がございます。」
「このゲームが公平性を担保するのは、ゲームが開始される今この時点までです。」
「ゲーム内に存在する特定のクエストや宝箱などには限りがあり、中でも最高ランクを誇るレジェンダリークラスの武器は、ゲーム内に100本しか存在しません。そして、それらを入手できるのがプレイヤーだけとも限りません。このゲームを攻略するコツは、いかに最高ランクの武器やスキルをプレイヤー側が保持するかにかかっています。」
「そして最後に、プレイヤーが戦闘不能になった際の蘇生方法についてご説明いたします。」
「このゲームではスキルや魔法・アイテムによる蘇生方法は一切ございません。唯一の蘇生手段は、各地に点在する教会で神父やシスターから祈りを受けることです。」
(なんでそこだけ昔のゲームっぽい設定なんだ...)
「ですが、蘇生の際には対象となるプレイヤーの死体を教会に居る神父の前まで運ぶ必要があります。」
「人間の死体は皆様がご想像するよりもとても重く、長距離の移動は困難を極めるでしょう。命を預ける仲間は慎重にお選び下さい。」
「そして死体を持って帰る都合上、モンスターに捕食されたり、死体の回収が不可能な場所への落下には十分にご注意してください。」
「長くなってしまいましたが、これにて//გჭЖЁПТტჩИ∴ΞΛΦ:ΨЯ..Ю-のチュートリアルを終了させていただきます。」
それは、再び大きくお辞儀をした。
「最後に、貴方方とこの世界を本来あるべき姿に戻しましょう。」
「それでは皆様、どうかご無事で……またお会いしましょう。」
それが大きく右手を上げた。
一帯に指パッチンの音が鳴り響く。
気付くと全身に力が入らなくなり、視界の暗転と共に地面へ倒れた。
小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。
読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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