31.狂っているのは人か世界か
俺は再び街を出てゴブリンを狩りに行く。
浜辺に着くと、
おじさんから買い取った依頼書を取り出し、
クエストを開始する。
クエストで指定された10匹の討伐が完了し、
俺は小休憩を取っていた。
すると誰かが話しかけてくる声がする。
「あっれ~? お兄さん、そんな所で何してんの?」
顔を上げると、10代~20代の若者6人が近寄ってくる。
さっきの声は先頭に立ってるコイツの声か。
「……えっと……ちょっと海を見てて……」
(まずい…ここがゴブリンを狩れる穴場だと気付かれるのはまずい…)
岩肌に背を預けて座っていた俺の背中側、
少し遠くにゴブリンのたまり場がある。
コイツらにそれを気付かれたくなかった。
「そう? ずっと下を向いていたような気がしますけど、ん?」
先頭の1人が俺の体をじっと眺めている。
そして、
「もしかして、ゴブリンと戦ってました?」
(!?…なんでコイツらが知って…)
「……ェ……あ~……その…」
俺は目を泳がせながら、
なんとか誤魔化せないか言い訳を探していた。
「ひょっとして狩場を独占しようとしてました? いけないな~お兄さん~」
彼は中腰になり俺の顔をじろじろと覗き込む。
「まったく、ちょっと目を離してる間に、また変な虫が湧いてたよ……すみませんけど~ここは俺達の狩場なんで~? どっか行ってもらえます?」
相手方のリーダーは、
妙に高圧的で睨みを効かせてくる。
俺は、彼らの発言に引っかかるところがあった。
「……君たちは……いつからここで狩りをしてたんだ?……」
彼は更に不機嫌そうな顔になる。
「それ、お兄さんに関係あります?」
「さっき…ここで俺以外の人間と合ったことがあるような口ぶりだったよな? ……ここは元々、俺の知り合いが狩場にしていた場所なんだ……」
「ん? あ~! あの人達の知り合い?」
(やっぱり知っているのか!……)
彼は不機嫌な顔とは打って変わって、
得意げな笑みを浮かべ始めた。
「あの人達なら4日前にここで死んでたよw」
彼は言い終わると同時に、
舌を出して挑発的な表情を向けてきた。
(……はっ?……)
一瞬、自分が何を聞かされたのか理解できなかった。
「お前達……見てたのかよ!……なんで助けなかった!」
「え~だって怖いじゃ~ん~~~」
彼の機嫌がどんどん良くなっていく。
あからさまに声のトーンを上げてふざけている。
「嘘、嘘、冗談、冗~談(笑)」
(……コイツ…………)
「本当は~、美味しそうな狩場を独占してたから~、崖上からアンデットディアを一匹釣ってきて~あいつらにぶつけちゃった(笑)」
(ッ…!?……)
(…はぁ?……何を言っているだ……)
背筋を冷たい何かが這い上がった。
思考の整理が付かない……
どうして彼らは笑っている?……
それが理解できなかった……
目の前の人間達が、
まるで別の生き物に見えた。
「ガハッ~ッ、傑作だったよあいつら(笑)、男のくせにめちゃくちゃ叫んでるヤツいたよな?」
彼が後ろを振り返り仲間に問いかける。
「そうそう!w 1人だけ剣すら捨てて縮こまってたヤツいたよな~、1人は片腕失っても戦い続けてたのにw」
「やっぱ戦えないヤツを仲間にするとあ~なるんだなw」
「ほんとっ、女を2人もはべらせてるから負けるんだよw」
「それな~!」
「てか、1人だけそこそこ可愛い子いたよな? やっぱ助けておけばよかったかな~」
「あんなにヤりたいヤりたい言ってたのになっw」
「だってよ~あんなすぐ殺られるとは思ってなかったし、 死体見に行ったら、グロくて萎えちゃってさw」
「ま~街に行けば女なんていくらでも買えるしな、リスクを負ってまで助ける価値なかったよやっぱ」
彼らの汚い言葉を聞くほどに、
胸のうちから怒りがこみ上げてくる。
今にでもぶん殴ってやりたい気持ちはあった。
しかし、恐怖で手が震え、
手の平に力が入らない……
拳を握り込むことすら出来なかった。
震えが止まらない右手を左手で抑え、
彼らに悟られないようにするので精一杯だった。
「おいおいお前ら、その辺にしておけよ、お兄さんが話に入れてもらえなくて顔真っ赤になってるぞw」
「ガハハハッ ほんとだ! 人間の顔って、そんなに赤くなるか普通」
目の前で中腰になっていた奴が、
近寄って肩を叩いてくる。
「そういうことなんで、ここは俺らの狩場だから、 お兄さんはどいてくれるかな? 殺すよ?」
「…………」
言葉が出なかった。
いや、声が出せない……
乾ききった喉に痛みが走る。
「ほらほら立って~?」
「ぼっちは端っこの方でネズミでも狩ってろよ!」
「ほんと!w 迷惑だから慎ましく生きてくださ~い!」
「いっそ死んでくれた方がみんなのためになるけどなw」
「「「アッハッハッハッハ~」」」
「…………」
「ほら、立てって!」
1人に腕を捕まれ無理矢理立たされる。
そのまま背中を押されて歩き出す。
「早く行けよっ」
もう1人に背中を蹴られ、
足がもつれて砂浜に転んで顔面を打つ。
「ガッハッハッハ~ だっせ~w」
後ろから複数人の笑い声が聞こえる。
痺れた足で無理矢理立ち上がると、
振り返らずにその場から立ち去る。
何度も、何度も転びそうになりながら……
俺はその日、
街に帰るとすぐに宿をとり、
ベッドで横になって目を瞑っていた。
日が落ちる前から床に伏せていたのに、
結局眠りについたのは、
日付が変わってからだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
――翌日――
俺がベッドから起き上がったのは、
昼の12時過ぎだった。
空腹を知らせるゲージが、やけに点滅している。
俺は、急いで昼食を済ませると、
ギルドまで足を運んでいた。
転売ヤーのおじさんがこちらに気付く。
「おう! 昨日のあんちゃんじゃね~か! 今日もゴブリンか? 取っといてあるぜ~」
「……「すみません……ゴブリンは狩れなくなりました……代わりにフレイフェイス・ゴブリンのクエストはありますか?……」
「ん? なんだよ~せっかく取っといてやったのに、待ってろ?……んっ……か~ すまねぇ……フレイフェイス・ゴブリンはさっき売っちまったので最後だ、結構人気でよ~すぐ無くなっちまうんだ」
「そう…ですか……わかりました」
俺は後ろを向いて立ち去ろうとする。
「おい、あんちゃん! 大丈夫か? 顔色が悪そうだけど、何かあったか?」
「いえ……特になにも…」
「そういえば、昨日も一人だったけど、仲間はいねぇのか?」
「…仲間は…いません……パーティは……解散になりました……」
「ってことは、1人でフレイフェイスを倒しに行くのか!? あぶねぇよあんちゃん!」
「大丈夫ですよ……倒したことありますので…」
「おっ…おぉ……そっか、でも、あそこは遠いから、道中気をつけるんだぞ?」
「ありがとうございます……じゃぁ…行ってきます…」
「おう……ちゃんと帰ってこいよ~……」
口の横に手を当てて俺の背中に向かって呼びかけるおじさん。
心配してくれるおじさんを背に、
俺は、振り返ること無くギルドを出てしまった。
――街の入口――
行き交う人の中、
橋を渡る前に通る1つ目の門の近く、
1人で塞ぎ込んでいる女の子がいた。
黒髪で小柄な女の子、
どこかで見覚えのあるような気がした。
見覚えがあるような気がする。
その理由だけで足を止め、
少しだけ様子を見ていた。
すると、
数人の若い男達が彼女を囲む。
1人がしゃがんで何かを話しており、
その話を聞いた女の子は顔を上げる。
前髪で顔は見えなかったが、
あの姿は間違いない、
(シュンさん達のパーティにいた、ミサキちゃん!?)
(生きていたのか!?)
彼らの話を聞く限りだと、
全滅していると思っていたが、
彼女だけ逃げられたらしい。
しばらくすると、男が手を差し伸べ、
彼女がその手を取って立ち上がる。
生きていて良かった。
そう思った。
なのに、
次の瞬間には羨ましいと思ってしまった。
(彼女は新しいパーティに巡り会えたのか)
(ユウナちゃんも……あ~やって勧誘されたかな)
安堵と共に、他の子の心配が出てくる。
自分で見捨てといて、何を今更と思った。
彼女達は、心配しなくても、
どこかの誰かが支えてくれる。
それが女の子の特権だ。
心配しなきゃいけないのは、今後の俺の方だ。
狩場を失い、1時間半もかけて砦まで遠征しなければならない。
俺は再び前を向き、街の外へ歩いていった。
――――――――
砦に着いたものの、
門番も見張りも、笛吹もいなかった。
「誰かがもう狩った後か……」
物資の期待はできなそうだが、
人がいなければゴブリンのリポップを狙ってここで狩りをすれば良い。
そう思って俺は中へ入っていく。
門を抜けると、
何やら砦の中心部で何かが行われている。
火を囲むようにして、ゴブリン達が踊っているように見えた。
そうっと近付き、建物の影から様子を伺う。
ゴブリン達が囲む炎の中心に、やはり人が吊るされていた。
見た感じ5人……
なぶられた後の死体が火にくべられていた。
しかし、
驚くことに1人だけ、
頭上に見慣れた数字が浮かんでいた。
疑いたくなるようなその光景に、
俺は静かに息を呑んだ。
(やっぱりあれは、プレイヤーの死体だったか……)
薄々感じていた。
この砦で取れる物資の中に、ゴブリンが使っているような錆びた鎧の他に、
俺達と同じ装備がドロップする。
それは、彼らから剥ぎ取った代物なんだろう……
最初に違和感を覚えたのは、
ドロップした鉄の剣の【来歴】を見た時だった。
【来歴】とは、MMOにおける
武器が持つログのようなものだ。
例えば俺の剣には、
◇《潮灯の都〚ルナセイル〛》にて、冒険者【アキラ】が旅立ちの日に授かった鉄剣。
と書かれている。
他のゲームをやっていた頃は、
・〇〇が△△から譲り受けた剣!
だったり。
・〇〇が▢▢の街で鍛造、
△△が魔術をほどこし、
☓☓が市場で買い取った剣!
だったりと、
その剣の誕生から、誰に貰ったかまで遡れる。
そして、レンと共にここのゴブリンからゲットした剣は……
『
◇《潮灯の都〚ルナセイル〛》にて、冒険者【ライト】が旅立ちの日に授かった鉄剣。
……………………
◇《リーゼ平原》にて、【アキラ】がフレイフェイス・ゴブリンからドロップした鉄剣。
』
というように、2行目に俺の名前が書かれていた。
ふつふつと募らせていた疑念を、
目の前の光景が証明してしまった。
カウントダウンが表示されているのは1人だけ、
その数字も、
もう既に残り3分を切っていた。
(助けを呼んでも間に合わないな……)
俺は、ゆっくりと後退し、
その場を去ろうとした。
その時、
(…ん?……5人……)
嫌な予感がしていた。
(砦まで攻略しに来る上級者が…中途半端な人数で来るか?……)
もしかしたら、
残り1人は女性かもしれない。
そんな疑念を抱かずにはいられなかった。
大きく回り道をし、ホブゴブリンの家に到着する。
扉を静かに開けて中を観察する。
やはり、ホブゴブリンは倒されていなかった。
取り巻きも合わせて5匹はいる。
地下への階段がある右奥の部屋に視線を向ける。
しかし、そこは1匹のゴブリンが徘徊していた。
(無理か……一匹にでも気付かれたらおしまいだ……)
(悪いけど…助けられない……)
俺は扉を閉め、砦を去ることにした。
歩きながらもさっきの疑念が頭を離れない。
どうか彼らが5人パーティであってくれ……
そして、もしも6人パーティなのであれば、
最後の1人がユウナちゃんでないことを…祈った。
俺はその日、別の砦を攻略しに行った。
いや、その日だけじゃない、
それ以来、
俺はあの砦へ近付かなくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
そうしたある日、
シェアクエストの精算をするためにギルドへ訪れていた。
インベントリーから依頼書を取り出し、受付のNPCに提示する。
フレイフェイス・ゴブリン10体で400G、
そして経験値が入った。
その瞬間、
――ギィン。
耳の奥で、金属を擦るような電子音が短く鳴る。
[LEVEL UP]⇧
無機質な文字だけが視界に浮かび、
すぐに消えた。
視界の左下にベルのようなマーク[通知ボタン]が表示される。
ボタンを押して詳細を表示した。
冒険者:レベル9→10⇧
『
・攻撃力36→39
・魔法攻撃力16→17
・防御力26→28
・魔法防御力22→24
・HP74→77
・MP24→26
・会心率3%→3%
・会心ダメージ率50%→50%
・ダメージカット率5%→5%
・運3→3
』
(3週間でようやくレベル10か……)
俺がウィンドウを閉じると、
新たなウィンドウが表示される。
『
【サバイバルスキル】が解放されました。
・スキルポイントを3獲得。
』
(サバイバルスキル!?……)
「えっ!?……」
俺は思わず声が出た。
スキルなんて存在しないと思っていたこのゲームに、
馴染みのある名前が表示されたからだ。
新しいスキルが気になってしまい、
受付を済ませるとすぐに空いている席へ座る。
メインメニューを開くと、
スキルの項目が追加されている。
・[インベントリー]
・[ステータス]
・[スキル] ➜・[サバイバルスキル]
・[パーティ] ・???
・[フレンド] ・???
・[クエスト]
・[オプション]




