29.仲間だったもの
――1時間半後
辺りが夕焼けに染まり始めた頃、
彼らはようやく道のりの半分まで来ていた。
本来でれば、このくらいの時間で街まで辿り着いている。
しかし、死体を2体背負っており、歩くスピードが遅いことと、
戦闘要員も少ないため、慎重にならざるをえなかった。
額の汗を拭うコウキ。
「ハヤテ……ハァ…ハァ……マズくないか? このままだと暗くなっちまう」
「そう…だね……例え相手があのネズミだったとしても、暗闇で襲われたらひとたまりもない……」
「急ごう!……日が落ちちまう前に!」
「…大丈夫かコウキ?……変わろうか?」
「いやっ大丈夫だ……ハヤテも戦闘で疲れてるだろ…俺ならまだまだいける…」
「……」
「なぁハヤテ、森を突っ切らないか?……」
「…危険過ぎないか?……」
「でも、このままだと暗くなってどっちにしろ終わりだ……もしあの鳥に見つかったら全力で走れば良い……それに、今のハヤテとアキラなら、一人でもあいつらに勝てるんじゃないか? それか、他のパーティが倒した後かもしれない」
「……わかった……その案で行こう」
方針が決まり森へと歩みを進める一行。
しばらくして、例の森へと辿り着き、
周囲の音に神経を集中させながら慎重に道を選んでいた。
そしてついに来てしまった。
森の中心に広がる大きな空間。
そこにだけ木々が1本も生えておらず、
見晴らしの良い例の草原。
遠くに鳥が数匹程度。
運が味方をしてくれたのかもしれない。
音を最小限に抑えつつ、小走りで通り抜けていく。
広場の3分の2を過ぎた頃。
「もう少しだ! 一気に駆け抜けよう!」
ハヤテの提案に全員が頷く。
しかし、
眼前の光景が、
その歩みを止めてしまった。
神のいたずらなのか、
まるで彼らの進行を妨げるかのように、
黒い粒子が目の前で収束していく。
あっという間にそれは形をなした。
黒い翼を大きく広げ、
触手のような尻尾が地面を鞭打ち、
ブラッド・ムーンのように赤黒く光る単眼が、
こちらを真っすぐ見つめていた。
「走れぇぇぇ!!!」
ハヤテの指示で一斉に動き出し、
二手に別れて鳥を迂回するように走る。
その後、ハヤテと俺が殿を務め、
時間を稼ぐことにした。
相手の攻撃を避けつつ反撃にでるが、
空中に舞い上がり、剣の届かない位置に逃げられてしまう。
「クルルルルッ!! キェェェェェッ!!」
鳥が急に奇声を発すると、
周囲の鳥がこちらを向き、
勢いよく飛んでくる。
目視しただけでも、ざっと4匹は居た。
「まずい! 俺達も逃げよう!」
ハヤテに肩を叩かれて、鳥に背を向けて走った。
俺達はコウキ達に追いつくと、
ハヤテはコウキの方へ、
俺はシュウヘイの方に行き、
女の子越しに彼らを背中を押し、走るのを補助した。
「もうずぐだ!」
再び木々が生い茂る森の中へと続く道に差し掛かっていた。
すると、後ろから勢いよく飛んで来た鳥が、
鋭い鉤爪でハヤテに襲いかかる。
ハヤテは咄嗟に避けるが、
その鉤爪はハヤテではなく、コウキの背中に背負われた女の子を捕えた。
一瞬で背中から引き剥がされる女の子。
「!?…ふざけんな! この野郎!!」
コウキが振り返り、
女の子を拐った鳥を目掛けて走り出す。
もう1羽の鳥が触手を伸ばし、コウキの足を掴んで転ばせた。
その後、鳥は右足でコウキの肩甲骨を踏みつけ、地面に抑えつける。
そして、動けなくなったコウキの背中をついばみ始めた。
「ぐっ……ぁぁ……がっ…ぁ゛ッ!!」
痛みに悶え苦しむコウキ。
コウキが視線を上げると、
眼前では、助けようとした女の子の死体を、2羽の魔鳥がついばんでいた。
「畜…生ォォォ!!!」
すると、
後ろからハヤテが走り寄り、コウキを抑えていた鳥めがけて剣を振るう。
しかし、鳥は飛び上がってハヤテの剣を避けると、
触手のような無数の尻尾がハヤテの顔に打ち付ける。
肉を打つ湿った破裂音。
次の瞬間、鮮血が霧のように宙へ散る。
触手に生えている薔薇のトゲが眼球を切り裂き、
彼から視力を奪った。
ハヤテの身体が大きく仰け反り、
両手で顔を押さえたまま地面へ崩れ落ちた。
「ぁ゛っ……がッ……ぁぁぁぁッ!!」
今度はコウキが立ち上がり、
抑えつけていた鳥に斬り掛かって行った。
一方その頃、俺とシュウヘイの方にも鳥が飛んできては、
急降下して俺に襲いかかり、
俺の体を掴み上げると、空中へと連れ去った。
(うわ! マジかよ! これ…マズ……)
5mほど上空に引っ張られた後、
俺は、勢いよく地面に叩きつけられた。
「ぐぁぁぁっ……あ゛っ!!」
背中を強く打った俺は、
意識が途切れそうになっていた。
耳鳴りと共に、視界が白くボヤけ、
意識が混同していた。
もう1羽がシュウヘイを襲う。
シュウヘイは、驚いた拍子に女の子を背中から落としてしまった。
慌てて剣を抜くシュウヘイだったが、
彼が剣を構えるよりも前に、
鉤爪が彼の左肩を切り裂く。
シュウヘイは痛みでその場に倒れ込んでしまう。
鳥が追撃を加えようとした時、
シュウヘイの後ろから駆け寄ってきたユウナが鳥の顔面を斬りつける。
「キェェェェェッ!」
それは顔を大きく仰け反らせ、後退する。
「立って!!」
差し伸ばされたユウナの手をとり、
シュウヘイは立ち上がる。
鳥が体制を立て直すと、
威嚇をするように2人に向かって叫びだす。
鳥が一歩近付く度、
全身の毛穴が総毛立つ。
勝てる姿が一瞬も想像できなかった。
「逃げて!!」
ユウナがシュウヘイの腕を引っ張り、
再び森へ向かって一緒に走り出した。
2人の後を追う魔鳥。
しかし、
鳥は少し歩くと何かに気付いたように顔を180度曲げる。
すると2人とは反対方向へ歩き出し、
地面に寝転がる金髪の女の子に近付くと、
その体をついばみ始めた。
その頃俺は、
腹をついばまれる痛みで意識を取り戻していた。
即座に右股に装備していた短剣を抜き、
鳥の首元を突き刺す。
鳥が怯んで離れると、
今度は腰から片手剣を引き抜き、
大きく広げられた翼を斬りつけた。
切り落とされる翼。
無数の羽が中を舞う。
さらに間髪入れず攻撃を叩き込んだ。
その頃、ハヤテ達の方では、
コウキが鳥と戦いつつハヤテに呼びかけていた。
「ハヤテ!! 大丈夫か!…立ち上がれるか!?」
ハヤテは四つん這いになった状態で顔を上げる。
「ごめん! 目をやられて……前が見えないんだ!」
「ポーションだ! ポーションを使え!」
「…無理だ……ウィンドウが見えなくて……操作できない!」
「!?」
コウキは逃げ回りながらインベントリーを開き、
ポーションを取り出すと、ハヤテに向かって投げる。
「それを使え!」
地面に転がるガラスの音を頼りに、
ハヤテが手探りでポーションを探す。
ポーションを見つけると、
隙かさず蓋を開けてその液体を顔にかけた。
「まだかっ!?」
「すまん、もう少し待ってくれ!」
暗転していた視界が徐々に光を取り戻していく。
「ぐぁぁぁ!!」
「コウキ!……大丈夫か!……」
「頼む……早く……」
ハヤテが視力を取り戻すと、
慌てて剣を拾って立ち上がる。
「よし! 今助けるぞ!!」
そう言い、振り返った先でハヤテが見たのは、
なぜか剣を降ろし、
身動きひとつとらずに立っているコウキの姿だった。
「え…」
数秒の沈黙の後、
コウキはその場で静かに倒れた。
ハヤテの顔が恐怖に染まる。
ハヤテの視線の先には、
顔中が血で赤く染まり、
目から光を失ったコウキと、
その生首を咥え、
顔を斜めに傾けてこちらを見つめる単眼の怪鳥が。
「…コウキぃぃぃぃぃッ!!!!」
鳥は静かにハヤテを見つめた後、
数回ほどコウキの頭を転がしては咥え直す。
そして……
そのままコウキの生首を飲み込んでしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!……あぁぁぁぁ!っ……ぁ゛……ぁぁ……ッ……ぅ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
その場に崩れ落ち、
泣き叫ぶハヤテ……
彼の声が森中に響き渡る。
ハヤテの周囲には、複数の魔鳥が居たものの、
幸いにも、鳥達は死体を貪ることに夢中で、
攻撃してくることはなかった。
鳥を倒し終えた俺は、
ハヤテの元へ駆け寄り、彼の腕を引っ張り上げる。
「今のうちに逃げるぞ!!!」
だが、ハヤテは俺の腕を振り払い、
今度は両手と頭を地面に擦り付けながら泣いていた。
目の前に鳥が4体、
対してこちらは2人、
どう考えてもここから勝てる見込みはない。
「立てって! 俺達だけじゃ勝てない!…助けを呼ぼう!」
「無理だ…コウキのカウントダウンが消えた……」
俺が視線を向けると、
女の子2人には確かにカウントダウンが表示されているのに、
コウキの体にだけカウントダウンが表示されていなかった。
(体の損壊…!? でも頭以外は無事……いや……頭をやられると一発でアウトなのか!?)
女の子2人の方も、食い荒らされているせいか、
カウントダウンの数字が勢いよく減っていく。
これはもう誰も助けられない……
そう悟った俺は、ハヤテの両脇に手を入れ、
無理矢理立ち上がらせた。
「……いいから逃げるぞ!!」
ハヤテの背中を押し、共に森の中へと逃げていった。
森を進んでいると、ユウナとシュウヘイが待っていた。
ユウナの顔から血の気が引いていく。
「……え……?」
ハヤテの肩を支える俺を見て、
次に、その後ろに誰も居ないことに気付く。
「……コウキ君は……?」
誰も答えない。
ハヤテは俯いたまま、肩を震わせていた。
「……ねぇ……コウキ君は!?……」
ユウナの声が裏返る。
放心状態のハヤテに代わり、
俺が答えた。
「……駄目だった……」
「……え……?」
「……コウキは……死んだ……」
一瞬、ユウナの表情から感情が消えた。
だが次の瞬間、
「……ぃ……ゃ……」
小さく漏れた声が、
徐々に悲鳴へ変わっていく。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
激しく動揺したユウナは
その場で膝をつく。
「やだっ!! やだやだやだッ!!!」
頭を酷く掻きむしる。
「なんでぇぇぇぇぇ!……なんでみんな死んじゃうの!」
彼女は泣き叫びながら両手で地面を激しく叩いた。
シュウヘイもまた、顔面蒼白になっていた。
左肩を押さえたまま、震える声を漏らす。
「そん…な……コウキさんまで……」
彼は何かを言おうとして、
何度も口を開閉させた。
「……僕が……もっとちゃんとしてれば……」
「僕が……強ければ……」
自責の念に押し潰されるように俯くシュウヘイ。
その時、
「……違う……」
掠れた声が響いた。
ハヤテだった。
涙で濡れた顔を伏せたまま、
力なく呟く。
「……悪いのは……俺だ……」
「俺が……森を突っ切るって決めたから……」
その声は途中で崩れ、
再び嗚咽へ変わっていく。
俺は森の奥へ視線を向けた。
まだ魔鳥の鳴き声が聞こえる。
あそこへ戻れば、
今度こそ全滅する。
俺は全員を見渡して言った。
「……街へ戻ろう……」
ユウナは泣き続け、
シュウヘイは唇を噛み締めたまま俯いている。
ハヤテだけが、
壊れたように小さく呟いた。
「……コウキ……ごめん……」
その言葉を最後に、
誰も口を開かなかった。
俺達は、
沈みかけた夕日の中を、
ただ街へ向かって歩き続けた。
――潮灯の都〚ルナセイル〛――
街へ帰ってきた俺達は、
広場の端に座り込み、体を休めていた。
ずっと俯いたままのハヤテ。
1人地面を眺めながら、独り言を話していた。
「俺達…頑張っただろ……」
「どうしようもなかっただろ……」
「なんで俺達ばっかり……こんな…」
他のメンバーはと言うと。
泣き止んだとはいえ、石畳を指でなぞり、
どこか上の空なユウナ。
動揺して、何度も髪を掻き上げるシュウヘイ。
そして、そんなみんなを観察しては、街へ視線を逃がす俺。
街を行き交う人達が徐々に減っていった。
もう、街灯が点き始めてもおかしくない時間だ。
いつも会話を広げていたのはレンとコウキ。
パーティの方針を取りまとめていたのはハヤテだった。
2人を失い、ハヤテがこんな状態では、
誰も話を切り出す人間がおらず、
ただ時間だけが流れていった。
パーティ内にしばらくの静寂が続く。
そして、
やはり口火を切ったのはハヤテだった。
「……解散しよう……」
「「「……えっ?……」」」
全員の頭に疑問符が浮かんだ。
「俺達は……もうおしまいだ……レンもコウキもいないのに……この先どうやって戦ったら良いんだ…」
自暴自棄になるハヤテにシュウヘイが声をかける。
「……そんなこと言わないでください!……僕らだけでも…頑張って生き延びましょう!……」
それは、悪手だった。
一番言われたくない人間の口から、
一番言われたくないセリフを聞いたハヤテは、
理性が働かなくなっていた。
「お前が悪いんだろ!!!」
「……!?……」
豹変したハヤテを見て恐怖を覚えるシュウヘイ。
「お前らがもっと強ければ!!……信頼できる仲間がいれば! あいつらだって、死なずにすんだんだ!…」
ユウナが立ち上がり、切羽詰まった表情でハヤテをなだめる。
「どうしちゃったの!…これまで、みんなで助け合ってきたじゃないですか!……」
それも悪手だ……
彼女らは、自分を客観視できていないようだった。
「助け合い?…ッ……ハハッ……」
「……」
「助ける側の人間と、助けられる側の人間がいただけだろ? お前らがいつ役にたった!!」
「……酷い…………」
ユウナが口を抑え、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
(酷いのは……それをお前達の口から聞かされることだ……)
俺は、こうなるんじゃないかと薄々思っていた。
ハヤテがリーダーとしてやれてきたのは、あの2人の存在が大きい。
あの2人がいなくなった以上、
もう、この3人のおもりをする理由も義理も無くなった。
「あのおじさん達みたいに! 戦える人間だけで集まれば、貧困に苦しむことも無かったし! 誰かが死ぬこともなかった!」
「「「……」」」
「もう俺は、このパーティを抜ける! あとはお前らで好きにしろ……」
ハヤテが立ち上がろうとすると、
ユウナが必死に呼び止める。
「待って!!」
「……」
「…見捨てないで……私……戦えないけど……足手まといにしかならないけど……でもっ……それ以外ならなんでもするから!……お願いだから…見捨てないで!……」
自分で言ってしまったことに気付き、
ユウナの肩が震える。
必死に懇願してくるユウナの情けない顔を見て、
少しだけ冷静になるハヤテ。
……
俺は想像がついていた。
もとより、ユウナへの過度なアプローチが見て取れたハヤテは、
この提案を飲み込む。
足手まといが1人だけなら、
それも好意を寄せる女性なら、
リスクとリターンが釣り合わないと分かっていても、
それを選んでしまうのが、男というバカな生き物だ。
「…わかった……じゃぁ…ユウナちゃんだけは……ッ」
そう言いかけた後、
ハヤテは一瞬ためらいを見せ、
そして深く考え込んだ。
「いや……やっぱりダメだ……お前のような尻軽女とは、一緒にいられない」
「!?」
「何..ですか...それ?……尻軽?…私が?……」
……。
「そうだ……お前は、寄生できる相手なら誰でも良いんだろ?」
「寄生って!……そんなこと一度も!」
「……無自覚かもしれないが、お前は最初、レンがお気に入りだったよな、その次はコウキで、俺は3番手か? いや、シュン達のパーティにも1人唾を付けてたか?」
「…酷い……私が誰を好きになろうが……私の勝手でしょ!」
「……恋愛うんぬんなら俺に口を出す権利はないさ……だが、お前は自分が生き残るため、自分の心を守るために相手を選び媚びへつらう。俺に付いて来ようと思ったのも、そこの2人じゃ頼りないからだろ? そしてお前は頼れる相手の中でも、顔で選ぶ傾向がある……そんなやつと一緒にいて、新しいパーティに2人で入ったらどうなる? 次のパーティでも顔のいい奴か、頼りがいのある強い奴になびく! 俺のことなんか忘れて新しい男に乗り換えるだろ? そうに決まってる!」
「……そんな……そんなこと……勝手な想像で私を決めつけないでよ!」
「どうして!!!……お前が次の寄生先を見つけるまで、俺が面倒を見ないといけない? 自分に気が無いと分かっている女を命がけで守って? 次の男にリリースするのか? フッ……やってられるか……」
ハヤテの言葉に何も言えず、
泣きだしてしまうユウナ。
「…スッ…ぅ……ぅぅ……っ……ひぐっ……」
「……」
ほんの少しの罪悪感を抱きながらも、
後戻りできないでいたハヤテ。
全てを出し尽くした彼は、
最後に、掠れた低い声で、
別れを告げた。
「俺は抜ける……あとはお前たちだけで仲良くやってろ……」
そう言い放ち、
ハヤテはメインメニューを開く。
静まり返ったパーティ内で、
彼が操作するウィンドウのシステム音だけが響く。
ハヤテは〘パーティから抜ける〙を選択した。
視界からハヤテの名前が消え、
それと同時に、聞き慣れたシステム音と共にウィンドウが表示された。
『
【Hayateがパーティから脱退しました】
』
それは、
数日前まで笑い合っていた〘パーティ〙が、
ささいな話しで盛り上がっていた〘友〙が、
夢を語り合った〘同志〙が、
共に食卓を囲い、
助け合ってきた〘仲間〙が、
淡泊な表記とともに、
終わりを告げる音がした。
いや、レンが死んだあの日から、
既に壊れていたのかもしれない。
2人のいなくなったこのパーティは、
既に〘仲間〙と呼べる体裁すら、
失っていた。
ウィンドウが閉じても、
しばらく目の焦点が動かないユウナ。
もう何をしても無駄だと悟った彼女は、
体を丸くし、一層激しく泣いた。
立ち上がったハヤテは、
しばらく空を眺めていた。
その後、大きなため息を吐き、
ゆっくりと街の方へ歩き出した。
見慣れた彼の後ろ姿が徐々に遠ざかり、
背景に溶け込んでいく。
去っていくハヤテを、
誰も引き止めることができなかった。




