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25.飢えを忘れる夜


 街へ戻ってきた俺達は、入口広場へ出たところで陽気なおじさんに話しかけられる。


「兄ちゃん達~このまま一緒に夕食でもどうや?」


 困ったように愛想笑いを浮かべながら、ハヤテが頭を掻く。

 それもそのはず昨日の話し合いの中でシュン達のパーティと毎日夕食を共にする約束をしていたからだ。


「あ~っと、すみません... お誘いはありがたいのですが、僕ら他のパーティと一緒に夕飯を食べる約束をしてまして....」


「なんや~先約済みか~、そっかそっか、なら仕方ないな。  じゃぁまた明日よろしくな!」


 どうやら昼食の時点で、明日も一緒に狩る約束までしていたらしい。


「はいっ!よろしくお願いします!……えっと、何時に集合すればいいですかね?」


「そうだな~ここに朝7時くらいでどうや?」


「ん~……結構早いですね?」


「まぁな~、今日は良かったけど、明日は何人が砦に挑戦してくるかわからんからな~早めに出ておいた方が良いかもしれんぞ?」


「ん~そうですね、わかりました! ではその時間で!また明日よろしくお願いします!」


「おう! 兄ちゃん達も今日はゆっくり休んでな!若いからって夜通し遊び回るんじゃないぞ~」


「気を付けま~す!」


 手を振りながら去っていくおじさん達に軽い会釈をする俺達。

 人混みに消えていくおじさん達を見届けると、ハヤテがこちらに振り返る。


「じゃぁ、俺達も行こうか!」


「・・シュンさん達、無事に狩りができましたかね...・・」


 不安そうに呟くレンに、コウキが軽く笑って返す。


「大丈夫だって、俺達だってあっちのゴブリンはそんなに苦労しなかっただろ?」


 ハヤテも頷きながら歩幅を早めた。


「そうだね、もう彼らの方が先に店へ着いてるかもしれないし、早く行ってみよう!」



 日が落ちる前に宿を確保し、

 俺達はそのまま飲食街へ向かった。

 飲食街の端、昨日と同じ店でシュン達と合流する約束だ。

 

 予想通り、彼らは先に店を訪れ昨日と同じテーブルに座っていた。

 シュン達は、こちらに気付くなり明るく迎え入れ、昨日同様テーブルを繋げて再び食卓を囲む。

 どうやら無事に帰って来られたようだ。

 

 両パーティの食卓には、昨日より明らかに料理が増えていた。

 雰囲気もなんだか明るくなっている気がした。


「なぁ! これっ、食えよ! 俺の奢りだ!この店で食べられる数少ないまともな料理だぜ」


 皆がいつもより豪華な料理を頬張る中、いつも通り硬いパンをかじるシュンに、

 コウキがリュメン草の香煮を注文すると、彼の方へそっと指先で皿を押し出した。


 皿へ視線を落としたまま、シュンが気まずそうに口を開く。

 

「・・・いいのかよ…? 俺達、まだ借金すら返し終わってないんだぞ…」


 コウキは笑いながら乱暴に手を振った。


「気にすんなって、奢りって言っただろ? 俺達、今日は良い人達と巡り会えてな、稼ぎもかなり良かったんだよ、明日も一緒に狩りする約束してるから、このくらいはどうってことないぜ」


「そっか…お前達も順調なんだな…良かったよ、安全な狩場を譲って貰ったのに、俺達の所為で先に進んで死んじまったらどうしようかと思ってたからな…」


「ん? 結果的にいい方向に進んだんだから、むしろ感謝してるぜ!お前らに出会わなかったら、俺達も一生この街から離れなかっただろうからな」


「・・・」

シュンは少し気まずそうな顔でスープの水面を眺める。


「あ~……いやっ…嫌味じゃないぞ!? お前達も、ゴブリンとの戦闘に慣れたら、一緒にゴブリンの集落を攻略しようぜ!なっ? そしたらみんな揃って次の街に行けるかもしれねぇだろ?」


 ようやく表情を緩めたシュンが、小さく笑う。


「フフッ…次の街か…想像もしてなかったな、ここより美味い飯があれば良いんだが」


 ようやく笑ったシュンを見て、コウキも安心したように肩の力を抜いた。


「ほんとそれな~! 生臭い魚料理と虫料理が無い店に行ってみたいよw」


 二人が仲を深めている間に他のメンバーも会話に花を咲かせていた。

 ハヤテはダイチと戦闘の話で盛り上がり、最初はユウナとアカリが話していたが、

 途中からアカリがレンとばかり話すようになり、それを見て機嫌を損ねたのか、

 当てつけのようにユウナがユズキへ距離を詰めていった。

 

 最初は俺にも話を振っていたアカリがレンとの会話に夢中になり、

 徐々に相槌すら打たなくなった俺は、静かにナイトボアとドラン豆のスープを口へ運ぶ。

 スープを1匙ずつ、豆を一粒ずつ、時間をかけて食すことでお茶を濁した。

 

 その間、チラチラと周りの状況を観察していると、やはり彼女も黙々と食事をしていた。

 正面に座る彼女は俺よりも食事のスピードが遅かった。

 元から前髪は長かったが、食事をするために下を見ている所為でいっそう顔が見えない。


(ミサキ…ちゃん…だったっけ?  ボッチはボッチになることに慣れてるけど、同じボッチを見つけるとソワソワしてくるんだよなぁ…賑やかだからまだ誰も気にしてないけど、ボッチ二人だと気配を消しきれない…「あれ?あっちの端だけ何か静かじゃない?」とか思われてたらどうしよぅ…)


 徐々にこの状況に耐えられなくなってきていた。

 話しかけようとも思ったが、この賑やかさの中、俺達の声量で意思疎通ができるとも思えない。

 スープの中身が減っていき、誤魔化せないところまで来る前に他の策を考える。

 しかし、何も思いつかない。

 インベントリを開いてアイテムを確認するフリをするにも、急にウィンドウの起動音が聞こえたら、誰かがこちらに向く可能性が生まれてしまう。

 導き出した答えは現状維持。

 会話が収まり、お開きになるのをひたすら待つことにした。


 それからどれくらい時間が経ったのかわからない。

 食事が終わって全員で店を出ると、シュン達も同じ宿を取っていたとの話で、

 ギルド近くの宿屋まで一緒に歩くことになった。


「え!? マジ? そうなの!?」


 驚いたコウキは慌ててハヤテの肩を叩き、シュンとの会話に参加させる。

 それから3人で何やら話したあと、

 ハヤテは足を止めて俺達に話しかけてきた。


「みんな!宿のことなんだけど、シュン..さんが言うには1人一部屋を借りる必要は無いらしい!」


(え?っ どういうことだ?)


 コウキが補足する。


「受付で鍵を渡されるだろ?所有者は予約した本人だけだけど、その部屋に何人泊めても怒られないらしいぜ」


「・・え? 本当ですか?…でも・・」


「ロビーで寝ているとNPCに追い出されちまうが、部屋の中に居ればその人が契約していようがいまいが追い出されないらしい!」


「・・それって…だいぶ穴がありましたね、そのシステム...・・」


 コウキが苦笑混じりに肩を竦める。


「あぁ、ありがたいことになっ、でも床で寝ると快適度が下がるし、かと言ってシングルベッドに3~4人で寝れるわけじゃないからな……一部屋2人ってとこだろ」


 するとハヤテがみんなに提案する。


「っていうことで、今日はもう部屋を取っちゃったけど、明日からは節約の為に2人で一部屋を使うってのはどうだい?」


 突然の提案に、その場の空気が一瞬止まる。

 

「先行ってるぞ~」と背後からシュン達の声が聞こえ、手を振った後にコウキが続ける。


「あ~ほらっ 俺とハヤテだろ? レンとアキラで シュウヘイとユウ…」


「ユウナちゃんは女の子だからね…男と一緒の部屋に泊まるのはまずいんじゃないか?」


 とっさにフォローするハヤテに少し申し訳なさそうな顔を向けるコウキ。


「あ~ 確かにそうだなっ! ってなると~シュウヘイとユウナだけ1人で泊まってもらうか?」


 少し考え込んだハヤテが現実的な案を口にする。


「そうだね、節約したいところだけど仕方ない……それか男だけは、誰か1人、ローテーションで床に寝てもらうってのはどうだ? 2日連続じゃ無ければ疲労もそんなに溜まらないだろう」


 コウキも腕を組みながら頷く。


「あ~ それでもいいかもな~」


 皆が悩んでいる様子を見て、ユウナが手をあげて主張する。


「はいっ! 私…レン君となら一緒の部屋でも大丈夫です!」


 ユウナの言葉を最後に、その場の空気が凍り付いた。


「・・ぇっ……え?・・」


「・・・」


「ダメ…ですか?……」


 顔を真っ赤にしたレンが視線を泳がせる。


「・・いや…ダメじゃないですけど...・・」


・・・・・・


「まぁ…本人達が良ければ、それでいいんじゃないか?…」


 そう言ってコウキが視線を送る先には、

 レン以上に驚いていたハヤテがワンテンポ遅れて正気に戻る。

 ハヤテの声は、目に見えて上擦っていた。


「そ…そっか……じゃぁ~……レンとユウナちゃんでっ、シュウヘイくんはアキラさんとかな?」


 頭をポリポリ掻きながら頷くシュウヘイ。

 

「…わかりました…」



(おい…なんか収まりが良くなったみたいな雰囲気出してるけど……どう考えたって無理だろ!! シングルベッドならギリ2人寝れそうって話だろ!? どう考えたってシュウヘイが誰かと一緒に寝れるわけないだろ!……お前も断れよぉ…! そしたら俺も堂々と料金を払って1人で部屋使うからぁ!!)


 パンッと手を叩いたハヤテが無理やり話を締める。


「よしっ…じゃぁ決まりで!……シュンさん達に追いつこっか!」


 決まってしまった。

 俺は明日から、まともに眠れる気がしなかった。

 少なくとも、安眠という言葉とは無縁になりそうだ。

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