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24.穢火の痕跡


「いや~兄ちゃん達のおかげで助かったよ~ 昨日はこの時点で酷い痛手を負ったからね~ やっぱり、人数居るだけでも違うもんだね。」


 満足そうな笑みを浮かべて肩を叩いてくる陽気なおじさん。

 愛想笑いをしながら答えるハヤテ。


「アハハ…昨日はってことは、中も攻略したことがあるんですか?」


「まぁな、でも安心しな!中にもゴブリンは沢山居るけど、大人数に囲まれるのは最初のこれだけだから! 中はそこまで危なくないよ、まっ 何かあったらおじさん達が助けるからなっ!」


「ありがとうございます...じゃぁお言葉に甘えて同行させていただきます。」


「おうよ! あっ…」


 眉間にシワを寄せて目を逸らすおじさん。


「どうしたんですか?」


「いやねぇ? この砦の中にちょっとグロテスクなオブジェクトがあって~ そっちは女の子もいることだし、入っても大丈夫なのかな~っと・・・」


 あ~……と気まずそうに声を漏らしながら、ハヤテ達が一斉に後ろを振り返る。

 視線の先には、不思議そうに首を傾げるユウナがいた。


「えっ… 私ですか?…… 大丈夫ですよ!… 今日までいろいろなことがありましたし…それに私..結構ホラーゲームとか好きですから、グロ耐性ならそれなりにあると思います…」


「わかった、でも無理しないでね、気分が悪くなったらすぐに言うんだよ」


 ハヤテは気遣う言葉をユウナにかけると、シュウヘイの方へ顔を向ける。


「シュウヘイ君も大丈夫かな?」


「あっ…僕もグロいのは平気な方です…」


 シュウヘイの返答を聞くと陽気なおじさんはコチラを手招きをしてくる。


「そっかそっか…じゃぁ、おじさん達の後ろに付いてきてな、何かあったら守っちゃるからな」


 俺達はおじさん達の後を付いていき、一行は砦の中へと足を踏み入れた。



 砦の門を抜け、広い空間へと出る。

 門から真っすぐ伸びた石畳の道の先に広場があり、それを囲む円のようにいくつもの家らしき物が建っている。

 そして、ちょうど門と対極に位置する場所に一際大きな建物がある。


 砦の中を進む一行。

 家の横を通り過ぎる度に数匹のゴブリンが襲ってくるがほとんどおじさん達が倒してしまう。

 ユウナとシュウヘイを集団の中に配置し、正面がおじさん達、殿を俺達のパーティが務める。


 広場の中央付近まで近付くと陽気なおじさんが何やらソワソワし始める。

 チラチラとこちらを見ては何も話してこない、わざと気付かないように迂回しようとしていたが、

 おじさんが懸念していた物体の正体に俺達は既に気付いていた。


 むせ返るような煙の匂いと、何かが焦げたような刺激臭が辺りに漂っていた。


 広場の中央には、火刑台のように円錐状へ積み上げられた大量の薪があった。

 その中央には、垂直に立てられた4本の太い木柱があった。

 そこには焼けて焼死体になった人間が縛り付けられていた。


「こ…これは……」


「うわっ……エっグ……」


「・・まさか...進化したグラフィックをここまで後悔する日がくるとは思いませんでした...・・」


 死体の欠損がそれぞれ違う。

 四肢が全て切り取られている者も居れば、片手片足だけを失った者も居る。

 しかし、4人に1つだけ共通点があった。

 黒く炭化した皮膚がひび割れている胴体に比べ、首から上は筋張んだ筋肉層がむき出しになっている。

 目がくり抜かれており、耳や鼻の軟骨、唇までもが無くなっていた。

 素人目に見ても、焼かれる前に意図的に顔周辺をいたぶられたことが容易に想像できる。

 完全に焼け焦げた死体や、白骨化した頭蓋骨ならまだしも、妙にリアルで気持ち悪さよりも恐怖心が勝るその光景に、俺達は度肝を抜かれていた。


 敵が減ってきたこともあり、気付けば、おじさん達との距離が少し開いていた。

 ユウナの短い悲鳴に数人の大人たちがこちらに気付く。

 すると後ろから「あちゃ~」と小声で呟きながらのそのそと近寄って来たおじさんがハヤテの肩を叩く。


「ほらほら、そんな所で突っ立ってないで、どんどん次行くよ?今度は家の中を片っ端から漁っていくから、物資があったら兄ちゃん達で山分けしていいから、ほらっ 行った行った!」


 おじさんに背中を押されその場を離れた俺達はゴブリンの家を1軒1軒物色していく。

 物資は少なかったが、いくつか使えそうな装備を回収できた。


「お~いシュウヘイ!、ちょっとこっち来いよ!」


 家の中からコウキが大きく手を振る。

 それを見たシュウヘイが小走りで近寄っていった。


「な…なんですか?…」


「ほら、鉄の剣が手に入ったぞ!この前、お前に貰った剣のお返しだよ!今まで丸腰だったろ?」


「いえっ……僕はいいですよ、他の人を優先してください…」


「そうか?でもハヤテも2本目持ってるよな?」


 隣で物色していたハヤテが近寄ってくる。

「俺もさっき手に入れたからこれで2本になったね、あとは~」


「あぁ アキラがまだ1本なんじゃね?」


 呼ばれて中腰のまま振り返る俺。


「……ん?…えっ…あ……えっと」


「・・アキラさんもさっき倒したゴブリンから手に入れましたよ・・」


 隣で漁っていたレンがフォローしてくれた。


「そっか、 じゃぁこれはシュウヘイが持っとけ!」


「あっ…ありがとうございます…」


 コウキがシュウヘイに剣を受け渡すと、何かを思い出したかのようにハヤテが話し始める。


「そうだっ……これ誰かにあげるよ、えっと~〚錆びた腰当て〛かな?一応防御力が少し上がるよ」


「俺はさっきドロップしたから他の人でいいよ」


 コウキが俺とレンの方を向き、それに気付いたレンは俺の方を見る。


「あっ…と……レンが使っていいよ?…」


「・・そうですか? じゃぁ僕がもらいます・・」



 今度はコウキが何かを見つけたのか何やら靴を顔の高さまで持ち上げてウィンドウを開いている。


「えっと~こっちは~ 〚旅人のターンシュー〛? これは俺達が今履いてるやつと同じだよな、防御力も変わらなそうだ...」


「おっ 一応売れるかもしれないから持っておいたら?」


 ハヤテが覗き込みながら少しうらやましそうな顔をしている。


「だな、  ....あ~でも、服にも確か耐久値があるよな?減りは遅いけど、いつか壊れて無くなるんじゃないか?」


「それもそうだね、壊れた時の為に取って置くのも1つの手だね、あまりにも簡単に手に入るようだったら余った分を売る感じで良いと思うよ?」


「そうすっか、 いや~それにしても森の中でモンスター狩るよりゴブリンの集落を襲った方が美味いな~!」


「そうだね、剣が手に入るのが一番デカいね、これで出費に悩まされることが1つ無くなるよ」


「それな~」


 そうこうしているうちに俺達が漁っていた家に陽気なおじさんが迎えに来る。


「おい兄ちゃん達~ そろそろ一番奥のデケェ家に入るから兄ちゃん達も手伝ってや~」


「あっ  はい…じゃぁみんな 行こっかっ」


 砦の奥にある一番大きな建物に入ると、そこにはゴブリンが4匹と、背が高く成人男性よりも頭2つ分大きなゴブリンがこちらに気付いて近寄ってきた。


 ついに初めてのボス戦か、と思っていたが、俺達が小さい方のゴブリンを相手している間におじさん達が大きい方を倒してしまった。

 家に入った直後は緊張で足が竦んでいたのに、呆気なく終わってしまい拍子抜けだ。


 それからしばらく家の中を物色していると再び陽気なおじさんが声をかけてくる。


「いや~ほんとにありがとう!兄ちゃん達のおかげでおもったより早く攻略できたよ!」


「いえ  俺達は大した事はしてませんよ」


「そんなことないさ~だいぶ助かってるよ~、 そうだっ、この後近くの村で昼食を済ませたら、もう1つの砦にも行こうと思うんだけど、兄ちゃん達もどうだい?」


「えっ いいんですか!? そうですね~~」


ハヤテがコウキやレンとアイコンタクトを取り、コウキが頷くとハヤテは少し微笑んでおじさんの方に再び顔を向ける。


「じゃぁ ご一緒させてもらいます!」


「よしきたっ! じゃぁ早速出発や~!」


 おじさんのテンションが高いせいか、今回の狩りの成果が大きい為か、いつもより足取りは軽く、皆の顔が少しだけ緩んでいるように見えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 おじさん達と昼食を食べる為、近くにある小さな村〚ノルディア〛へと足を運ぶ。

 ここには宿も無ければ道具屋も無く、食事処と呼べる場所も無い。

 しかし、この村で唯一竈を持っている家を尋ねると良い値でパンを売ってくれるらしい。

 始まりの街に帰る労力を考えれば、妥当だろう。

 皆でパンを買い、村の端にある樹の下で腰を降ろし、美味しくもない、硬いだけのパンを噛みちぎりながら談笑していた。

 おじさん達の輪は相変わらず賑やかだった。

 こちらのパーティは黙々とパンを齧っているためか、双方でテンションの落差が激しかった。

 それでもハヤテだけはおじさん達の会話に参加する。


「いや~この調子なら明日には向こうにある大きな砦も攻略できそうだな!ガハハッ」


「兄ちゃん達も本当にありがとなっ 改めて礼を言うよ」


 パンを半分以上残したまま、噛じるのを止め手の平でこねくり回しながら愛想笑いで受け答えるハヤテ。


「アハハ…いえいえ、僕たちはそんな……でも本当に良かったんですか? 最初はともかく、その後はみなさんだけで攻略したほうが報酬は多かったんじゃないですか?」


「な~に大した事じゃないよ、手伝ってもらった分、早く攻略出来たんだからそれだけで儲けもんよ、一箇所に留まってチマチマとモンスターを狩ったってドロップするゴールドや素材なんか、たかが知れてる、それよりもモンスターの拠点を襲った方が物資は美味いからな!」


(この人達は、モンスターを何体狩れるかとか、飯代にいくら出費するから最低このくらいは稼がないと!とか、もうそんな次元では無いのだろうな)


「なるほど!確かにそうですよね~、僕らも今回の狩りで剣やら防具やらが手に入って、いつも以上に懐が潤いましたよ」


 陽気なおじさんは嬉しそうに膝を叩いた。


「そうだろぅ、そうだろぅ、街の周辺に居るヤツらにも言ってやりたいよ。MMOってのはさ、獲物を奪い合うより、協力した方が何倍も良いんだよ。 俺なんかが若かった頃は~ーーー」


 おじさんの昔話は、一向に終わる気配が無かった。

 他の人が止めに入るまでおじさんの話は止まらない、それに付き合わされていたハヤテが不憫に思えるほどに。



 昼食を取った後は再びゴブリンを狩るために今度は西の砦を目指す。

 ここの砦もさっき攻略した砦とさほど変わらなかった。

 負傷者も出ず難なく砦を落とした俺達、結局この日は砦を3つ回ってから街へ帰った。

 

 帰りの道中、皆の顔から笑顔が絶えない、懐に余裕ができるだけで、人の表情はここまで変わるのか。

 しみじみと感じた。

 

 あのユウナやシュウヘイですら顔から笑みが溢れる。

 道中、ユウナはレンにやたら擦り寄り、シュウヘイはいつの間にかコウキと仲良く話すようになっていた。

 ハヤテは後ろの俺達を気にしながらも、相変わらずおじさんとの会話に囚われている。


 最後尾を歩いていた俺はそんな光景を見ながら1人黙々と歩く。

 

 考えるべきことが多すぎて、頭の中が落ち着かない。

 【来歴】のこともそうだが、砦で焼かれていた死体のことも気になる。

 そしてまた1つ、砦を三つ回ったことで、気になることがさらに増えてしまった。


(あの焼死体は最初の砦にしか無かった... 同じような火葬場はどの砦にもあったのに……もっと妙なのは階段や石畳だ……ゴブリンの砦は、基本的に木と縄、粗布や獣から剥ぎ取った皮が使われている。モンスターにしては知恵がある方だが、石畳は違う。あれは明らかに人工的に作られた物だ、ゴブリン達の技術レベルとは合っていない。ゲームデザイナーが意図せずそんな物を作るだろうか。砦には壊れた石柱や崩れかけのレンガの壁があった、恐らくゴブリン達は…もともと人間が住んでいた土地に砦を作ったのだろ…それも3つとも…例外無く……)


 帰り道で何度かモンスターと遭遇し足を止めてはいたものの、気付いたら街の入口まで帰ってきていた。

 考え事をしていた所為か、早く時間が過ぎていた。


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