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23.兆しは、形を持たない


   ーー次の日ーー


 俺達は朝食を済ませた後、鍛冶屋によって武器を引き取ると早速いつもの狩り場へシュン達を案内した。

 最初は万が一の為に彼らに付き添い、いつでも助けに入れる距離で彼らの戦闘を見守った。

 数回の戦闘を経て、彼らなら大丈夫と確信した俺達はさっそくシュンの言っていた集落を探しに出かけた。


 その道中、何人ものプレイヤーを見かけたが、誰もがモンスターと戦っているか、リポップを待つため座って談笑しているプレイヤーがほとんどだった。


 崖の隙間を抜け、広いエリアに出る。

 彼の言っていた通り、ゴブリンが作ったであろう集落が見えてきた。

 しかし、少し嫌な予感がした。

 それは危険などではなく、また希望を打ち砕かれるようなそんな予感だった。


 その予感は的中する。

 それもそうだ、周りにこんなにプレイヤーの姿が見えるのに、あんな目立つ集落に誰も興味を示さないわけがない…


 集落は既に、複数のパーティに占領されていた。


 集落の入口らしき場所で談笑している30~40代くらいの男性プレイヤーが2人、俺達を見るなり話をやめ、顔から笑顔が消え去る。


 左側に居た髭面のおっさんがこちらに問いかけてくる。


「なんだお前達は?」


 初手から高圧的な態度をとるおっさんに、少し萎縮気味なハヤテが応じる。


「あーっ…すみません、 ここにゴブリンの集落があると聞いて~… 戦おうかな~…なんて…」


 呆れたような顔になる2人。

 

「ここは俺達のクランが既に攻略したっ、もう中には何もねぇ、さっさと帰ぇりなっ」


 ※【クラン】

   複数のパーティで構成されるプレイヤー組織。

   情報共有や物資管理、大規模戦闘などを目的に結成される。


(……クラン? ということはかなりの人数がこの中に居ることになるな…)


 高圧的な態度にも怯まず、ハヤテが食い下がる。


「でも…ここならゴブリンを狩れると聞いて…クエストクリアのために数匹狩りたいのですが?」


「それなら他の所を当たりなっ… 俺達だってもう長い時間リポップを待ってるんだ」


「そうですか…では、また明日にでも来てみますね…」


 今度はもう片方の太った男性が答える。

 

「デュフッ.....いつ来たって同じなんだなぁ、ここは俺達の狩り場だからっ..、ヒヒッ…ここで狩りをしたきゃ、うちのクランに入るしかないけど、ヒヒッ…まっ…まぁ…リーダーから許しが出るわけないんだなぁ…ニヒッ…」


 皆が2人のおっさんに怒りを覚える中、

 穏便に済ませたいハヤテはそのまま体の向きを変え、

 顔だけは彼らの方を向き、笑顔を崩さずその場を去ろうとする。


「じゃぁ、違う場所を探してみますね…」


 ハヤテが振り返りそれに合わせて後を追う俺等だったが、コウキだけが最後に彼らの方を向き睨みつけていた。


「おっさん達、 マジ ダサいっすよっ」


 コウキがそう吐き捨てると、ブツブツと文句を言いながら顔を真っ赤にするおじさん達を背に一行は新しい狩り場を探しに行く。


 それから北へ更に30分ほど歩き、小さな丘頂上まで来ていた。

 眼前に広がるのは一面の平野、見た限り丘から先はシンプルな地形が続いているらしい。

 そして左右の海岸まで見渡せるその場所で、特に目を引くのは正面にそびえ立つ岩山だ。


 街からも薄っすら見えていたが、近くまで来たことで目の前の岩山があり得ない形をしていることに気付く。

 山のど真ん中が真っ二つに割れ、その裂け目が中腹までぽっかりと空洞を作っている。

 自然にできたとは思えないその光景に、思わず足が止まった。


 コウキが呆けたように口を開く。


「でっけ~山だな~ あそこがこの世界の最果てか?」


「・・いかにもボスが出そうな山ですね...・・」


「まだわからないけど、左右の海岸にまではみ出てるし、先があったとしても、避けては通れなさそうだね...」


 みんなで山に魅入っている中、レンが村を発見する。


「・・あれって、次の街じゃないですか?・・」


「ん? 街ってよりかは 村って感じの大きさじゃないか?」


「ほんとだ、次の拠点になりそうだね、でもまずは、あっちに見える砦に行ってみないか?」


 ハヤテが指差す方には、またもやゴブリンが作ったであろう建造物が見える。

 集落がある広い範囲を高い木製の壁で囲まれていた。

 

 目を細めながらコウキが砦を見つめる。


「あれ、遠目だとあんまわかんねぇけど……なんかデカくないか!?」


「・・さっきの集落よりも規模が大きそうですね・・」


「どうせ1匹ずつ誘き出して倒すんだからあまり関係ないよっ、それに他もいくつか気になる物も見えるけど、あそこの砦が村に一番近そうじゃないか?」


「・・そうですね……攻略を急ぐ必要もないですし、近い所から順番に回りましょう・・」


「そうだね、お金も無いし、まずは稼がないと!ちょっと稼いだら、あの村で昼飯でも食べようか!」


 ハヤテの提案で砦に向かう一行。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 歩いていると、数組のプレイヤーとすれ違っていたが、モンスターの姿はほとんど見えなかった。

 だが、確実にプレイヤーの数は減ってきている。

 それもそのはず、もう 砦から1時間以上かかる距離を余裕で歩いている。

 ここまで活動範囲を広げているプレイヤーはそうそういないのだろう。


 砦の近くまで来ると、砦の正面、門から伸びる まるで人工的に整地されたような土の道沿いに、プレイヤーが複数人立っている。

 どうやら少し離れた位置で作戦でも練っているのだろうか、近付いたらまた追い払われると皆が思っていた矢先、

 小太りのおじさんが大きく手を振り、こちらに呼びかけてくる。


「お~い!そこの人~!」


 ・・・ん?


 全員が予想外のことに戸惑いながらも手を振るプレイヤーのもとへ歩み寄る。

 近付くと20代~30代くらいの6人組がこちらを見ながら話している。


「よかった~! もしかして、君たちもこの砦を攻略しに来たのか?」


 やけにフレンドリーに笑顔を振りまくおじさんに話しかけられ、ハヤテが応答する。


「あ はいっ そうですね、ちょっと良さそうな狩り場を探してて、遠くから目に付いたので気になって…」


「あ~ そうなの? ここ結構レベル高いと思うよ? まぁレベルなんて見えないんだけどね笑」


 冗談っぽく笑うおじさんの横で、の横でもう1人の細身のおじさが話しかけてくる。


「君たち、ここはゴブリンが出てくる砦なんだけど、ゴブリンと戦ったことある?」


「え~っと~ そうですね、昨日まではゴブリンをずっと狩っていたので、慣れてる方だとは思います。」


「おっ! なら即戦力じゃ~ん! いや実はね? 俺達もこの砦を攻略しようとしてるんだけど~、 あれ、見えるかな? あれっ!」


 フレンドリーなおじさんが指差す方には、矢倉に登って辺りを警戒しているようなゴブリンが見える。


「あいつが結構厄介でね~、門に近付いただけで気付かれちゃって、そしたらアイツが笛を吹き始めて、中からゴブリンがぞろぞろと出てきちゃうわけよ! 弓でもあればアイツを落としてから中に入るんだけど、このゲーム… 弓が無くなっちゃったからね~~」


 横にいた細身のおじさんも話に乗っかる。

 

「そうそう! だから君たちにも手伝ってもらうかと思ってね!」


 ちょっと困ったような顔になるハヤテ。


「えっと~… すみません、慣れてるとは言ったんですけど、慎重に一匹ずつ倒してたので~……出来ても2匹を相手するのがやっとかと…?」


「あっ そうなの? まぁ、でも大丈夫だよ!、ゴブリンも7~8匹くらい出てくるから、じゃぁその内の2匹を相手してもらおうかな?」


「わっかりました.. えっ おじさん達って1人でゴブリン1匹相手にできたりするんですか?」


「まぁ、すぐに倒すのは無理だけど、戦えなくはないってとこかな~ ほらっ うちのパーティこの2人が強いからさっ、時間を稼げばこの2人が全部倒してくれるんだよね~」


 そう言ってフレンドリーなおじさんは、後ろに居た1人だけ若いお兄さんと、ガタイが良いスキンヘッドで無愛想なおじさんを指さした。


「な…なるほど…」


「それに、そいつら倒し終わったら中も攻略する予定だから、君たちも一緒に来なよ!」


「えっ 本当ですか?……えっと…別のパーティ同士でモンスターを倒しても先に攻撃してた方にしか経験値とかお金は入りませんよね?…それ~ 獲物を巡って喧嘩になったりしませんかね…?」


「ん? そんなの気にならないくらい沢山敵が居るから大丈夫だよ笑、 まぁ宝箱とか物資を見つけたら、そこはみんなで話し合って分配しようや!」


(えっ…マジ!? この人達…心広くないか!?…… 今まで出会った人達がクソなだけなのだろうか?)


 予想外の申し出に、ハヤテが表情を明るくする。


「わかりました! 喜んでご一緒します!」


「よかった! お仲間のみんなもそれでいいかい?」


 おじさんがちょこんと上半身と首を傾け、ハヤテの後ろに控える俺達に問いかけてくる。


「大丈夫っすよ~」


「・・はい・・」


「「(ウンウン..)」」


 話をまとめるように、フレンドリーなおじさんが手を叩く。


「よっしゃ! じゃぁ、うちのメンバーが門まで近付いてここまで誘き出してくるから、そしたら一緒に戦ってくれよっ、よろしくなっ!」


 俺達が了承すると、先程指を差されていた2人が門の前まで行き、急いで引き返してくる。

 釣られてゴブリンがこちらに走ってくるが、目視できる限り10匹は超えていた。

 しかも、俺達が倒してきたゴブリンと少し姿が違う。

 

 1回り大きく、肌はより緑がかっており、腰や肩に鎧のような物を身に付けている。

 持っている武器も棍棒だけではなく、取手に血が滲んだ包帯が巻かれた包丁のような形をしたナイフ、あらゆる金属部品を溶接して無理矢理くっつけたかのような錆びれた斧、そして俺達とまったく同じ剣を持ったゴブリンも居た。


(話が違うじゃねぇか……普通のゴブリンじゃないのかよ……)


 次の瞬間、おじさん達6人が一斉に前へ飛び出した。

 俺達は、ハヤテとコウキ・レンと俺で二手に別れ、集団の外側を迂回しながら様子を見ていたゴブリン目掛けて走り寄る。

 ここからはいつも通りだ、2人で挟み込みヘイト管理をしながら隙をついて攻撃する。

 俺達は数の有利を使い難なくゴブリンを討伐すると、更におじさん達を囲むゴブリンを攻撃しに行く。


 戦闘中に横目で見ていただけだが、おじさんグループに居るあの2人は確かに強い...

 他のメンバーが距離を取りながら慎重に戦う中、若いお兄さんは俊敏に敵の懐に潜り込み華麗な剣さばきでゴブリンを圧倒し、

 スキンヘッドのおじさんに至っては剣を持っていない方の手で軽々とゴブリンの攻撃を受け止め、次の一刀でゴブリンの首を跳ね飛ばしていた。

 乱戦の最中、自分にヘイトが向けられているかどうかなどお構いなしに力でねじ伏せる2人。

 しまいには剣も使わずに拳でゴブリンを吹き飛ばしていた。


 戦闘が終わると、ドロップしたモンスターの素材は自動的にインベントリに格納される。

 しかし、剣や防具といった装備品はモンスターの体が消滅したその場所にドロップする。


 目の前で黒い粒子に変わり空へと散っていく。

 その場に落ちた剣を拾い上げ、剣のステータスを覗き込むレン。


「・・アキラさん!これ見てください!...僕らのと同じ〘鉄の剣〙が落ちましたよ!・・」


「えっ?...マジ?.... ほんとだ... ってことはひょっとして、ここでゴブリンを倒してれば剣の消耗に金を使う必要がなくなるんじゃないか?...」


「・・でもこの剣...耐久値が半分以上削れてますね?... それに、ゴブリン全員が剣を持っていたわけでも無さそうですし、この個体がレアだっただけじゃないですかね?・・」


「そっか... まぁそう簡単にいくわけないか....」


「・・この剣、アキラさんが貰ってください!・・」


「え?……いい…のか?…」


「・・はい! 僕らはもう2本持ってますし、これでアキラさんも武器の修理中にこっちの剣で戦えますね!・・」


「あぁ……たしかに… そうだね…ありがとう…」


 レンが手渡してきた剣を受け取ると、システムウィンドウを操作し剣の所有権を自分の物にする。

 そして、改めて剣の性能を見てみた。

 特に俺達が使っている〘鉄の剣〙と何も変わらないステータスをしていた。


『   

  ◀ 【ステータス】 ▶    【詳細】 【来歴】

    〘鉄の剣〙

  レアリティ:コモン(白)


  基礎攻撃力:20

  サブステータス:攻撃力+5%

  硬度:4

  切れ味:3

  重量:14

  耐久値:〚▢▢▢▢      〛


 【                】

 【                】

 【                】  

                     』


 普段ならすぐにウィンドウを閉じても良いところだが、せっかくレンが剣を譲ってくれたこともあり、

 何か気の利いた返しがしたくなったため、話題を探す時間が欲しかった。

 そこで、じっくりとステータスを眺めるフリをする。


 あまりにも長いと怪しまれるため、ページを切り替え、今度は剣の【詳細】を見るフリをした。

 

 ここは〘フレーバーテキスト〙と呼ばれ、世界観を味わってもらうために剣に纏わる設定のような文章が書かれている。

 これも見るのに時間がかかってはおかしい、〘鉄の剣〙にそれほど面白いテキストは書いてないからだ。

 

 仕方なくもう一度ページの切り替えを行う。

 今度表示されたのは【来歴】という項目だ。



( ……ん?……)



 俺は、そこに書かれていた内容に違和感を覚えた。

 レンに確認しようと顔を上げる。

 だが、なんと切り出すべきか迷ってしまった。

 

 その時、陽気なおじさんが俺達に声をかけてくる。


「お~い兄ちゃん達!こっちおいで~」


 俺とレンだけ少し離れた所にポツリと立っていたらしい、

 ハヤテやコウキ・ユウナやシュウヘイも、既におじさん達の元に集まっていた。


「・・アキラさん、呼ばれてますね... 行きましょうか!・・」


「あっ…あぁ、わかった…」


 2人は小走りになり皆の元へと駆け寄っていく。


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