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22.危険を伴う最善手



 ハヤテの問いかけにより泣き出してしまうアカリ。

 それを見ていたダイチは、

「明日のことはどうにかするよ!……そうだ!…俺達もまだ誰にも見つかってない狩り場を探しに行くとかさ!」


 するとユズキが口を挟む。

「無理ですよ... 街の周辺に居るモンスターですら苦戦するのに、まだ誰も狩りをしていない場所なんて…それこそ、もっと先へ進んで高レベルなモンスターと戦うしか…」


「なら、フィールドを端から端まで探して、穴場を見つけるとかさ!..まだゲームが始まって3日しか経ってないし!見つかってない狩り場も..きっとあるはず!」


 ダイチの意見は決して間違ってはいない。

 だが、それに声を荒げるシュン。


「そんなことをしてたら時間の無駄だ!明日は正門前の連中をどうにかしてでも狩りをする!…退く気がないなら力ずくで追い払ってやる、」


 シュンの強引な提案に眉をひそめるコウキがたまらず反応する。

 

「なんでそんな発想しか出てこないんだよ…説得するとか、こっちが朝早くから場所取りするとか…なんかあるだろ」


「説得に応じるような連中だと思うか?お前らだって今の狩り場を他人に渡したくないだろ、それに、アイツらは日が昇らないうちから狩り場に張り込んでやがる、他の場所はどうか知らんが、4日目ともなればほとんどの連中が朝一で陣取ってると思うぜ」


「じゃぁ、夜に狩りへ出かければいいんじゃないか?」


「…夜は無理だ、俺1人で夜中に出かけてみたんだが… ろくに前が見えやしねぇ、 あんな視界が悪い状況でモンスターと戦おうなんて危険すぎる。」


(この人…見た目の割に、意外といろいろ試してみてるんだな)



「だとしても、あのネズミを狩るために陣取ったとしても、効率はかなり悪いと思いますよ」


 ハヤテの突然の発言に少しいら立ちを覚えるシュン。

 

「どういう意味だ?」


「これは半分推測ですが、モンスターのリポップ場所はほぼ固定されています。とはいえ、リポップ場所は複数あって、周囲の個体数に応じてリポップ場所が調整される仕組みだと思います。全員で手分けして広い範囲を陣取れたらいいですけど、人数を分散させるのは危険ですし、それに...他のモンスターもゴブリンと同じかはわかりませんがモンスターを倒してからリポップするまで、大体10分はかかります。自分たちが倒したネズミが、10分後に同じ場所にリポップするとは限らず、数メートル先で陣取っている他のパーティの元にリポップするかもしれません…そこまでしてネズミを何匹か狩れたとしても、あのネズミは1匹あたり5ゴールドしか貰えないですし、ドロップ品を売っても大した額にはなりませんし、1日中あそこで狩りをしていても、食費すら賄えるかどうかわかりませんよ?」


 納得いかない様子でシュンが声を荒げる。


「でも実際にあそこで狩りをしている連中がいるじゃねぇか!そんなに稼げないなら誰もやらないはずだろ!」


「あそこで陣取っている奴らは、ギルドでネズミを討伐するクエストを大量に受注しているような連中です、モンスターからドロップする報酬よりも、クエストの成功報酬で生計を立てているようなものです、だから... ネズミを狩りたいならまず、ギルドでシェアクエストの争奪戦に勝つ必要がありますね。」


「……ったく…がめつい連中だぜ……こうなることを運営は予想できなかったのかよ…!」


 すると、横で聞いていたレンが見解を話す。

 

「・・たしかに、個体数を増やしたり、リポップする時間を短くしたりなど、改善手段はいくらでもありますし、他のMMOと比べてもリソースが少なすぎる気がします..... なぜ運営は何も対処しないのでしょうか・・」


 ハヤテが顎に手を当てながら続ける。


「まぁ、今はほとんどのプレイヤーがこの街から先に進めてなさそうだからね… レベルが上がったプレイヤーたちが次の街を目指して移動してくれれば人口密度も減って狩り場に困らなくなると思うんだけど…」


「そんないつになるか分からないことを待ってられっか、俺達は明日にでも食うもんが無くなりそうなんだ、ここは多少荒くてもどこかのパーティから狩り場を奪い取るしか無い!」


 コウキが思わず身を乗り出す。


「奪われたパーティもギリギリの生活をしていたらどうするんだよ!!… あんたがやろうとしていることと、相手がやっていることの何が違うんだ…どちらかが不幸になるだけだろ…」


 シュンは一切悪びれる様子もなく言い返した。


「それの何が悪いんだ?... ギリギリと言っても俺達よりかは良い生活をしてるに違いない。そいつらは、暖かい粥にスープを飲んで風呂に入ってベッドで寝れてるだろ? なら、一度くらい俺達と同じ目に合ってもいいじゃないか、なんなら…全プレイヤーが俺達くらいの生活水準まで落とせばっ、少なくとも、餓死するプレイヤーは減るんじゃないか?」


 コウキは返す言葉を無くす。

 その後、気まずそうに視線を落としたハヤテが少し間をおいて口を開く。


「・・・・そうだな…一応確認なんだけど、あんたらは宿に泊まってないのか?」


「当たり前だろ、宿も風呂も出費に見合わない、そんな金があるなら食費に当てて路上で寝るほうがマシさ、」


 コウキが呆れたように眉をひそめる。


「マジか…」


「おかげで体中 痛ぇのなんの…お前らも1回味わってみればわかるさ、」


 その時、俺はある疑問が頭に浮かんだ。 割り込むのは気が引けたが、確認せずにはいられなかった。


「……あの~…ちょ…ちょっとだけ確認したいことが…」


「あん? なんだよ」


「えっと…どなたかそちらのパーティの方で…ステータス画面を見せてもらってもいいですか?…」


 そういうと、俺の斜め前の席にいるアカリが名乗りを上げた。


「私ので良ければ見ますか?」


 そう言って、彼女はシステムウィンドウを開き俺の方へ向けて見せてくれた。


「ぁ…ありがとうございます……!?…やっぱり…」


「・・アキラさん…何かあったんですか?・・」


「えっと… 俺…友達とよくサバイバルゲームで遊ぶんだけど…その中に快適度って概念のあるゲームがあって……簡単に言うと寝床の質によってステータスにデバフを受けるシステムなんだ…」


 アカリが尋ねる。

 

「それって何ですか?」


「要は、地面に寝転んで寝るか、寝袋みたいな簡易寝床を作ってその上で寝るか、昨日みたいに宿のベッドで寝るかによってステータスの回復具合が変わるんだ、逆に寝床の質が悪いとデバフを受けてしまう…俺がやっていたゲームは、HPやスタミナの最大値が減らされたり、回復速度が半減されたりしていたな…」


「なるほど…だから今日の俺達は、ゴブリン戦であんなに疲れを感じてたのか… 昨日泊まった激安な宿のせいだな…」



「うん…アカリさんのHPバーが4分の1ほどグレーアウトしているのも、たぶん、それが原因だと思う……このまま行くと、どんどん疲労が蓄積されて、いずれ戦闘どころじゃなくなると思う…」


 俺の言葉を聞いてシュンが呆れたように片手で顔を覆う。


「マジかよ…だからこのグレーになってる部分だけポーションでも回復しなかったのか…」


 ・・・

 

 誰もが下を向き考え込んでしまう、卓上には沈黙だけが残った。

 それもそうだ、今まで食べられさえすれば良いと、食費だけ意識していた彼らの計算を覆してしまった。


 沈黙が続く中、さらにシュンが弱音を吐き始める。


「ろくにレベルが上がってねぇのに、所持金が底をつくわ、ステータスに弱体が入るわ…… 初日よりも状況が悪化していく一方じゃないか……チッ……もう何もかも終わってるじゃねぇか……こんなの…この先どうしたら……」



 ・・・



 しばらくしてコウキが口を開き、ハヤテにある提案をする。


「なぁ…ハヤテ……コイツらにゴブリンの狩り場を譲ってやらないか?…」


「は!? お前… 何言ってんだよ…俺達だって人に施せるほど余裕は無いだろ!…」


「でもよ…俺達だって赤字が続いているのは同じだ、いずれ激安の宿にすら泊まれなくなる…さっきお前が言ったように、強くなったヤツが先へ進んで他の人に狩り場を譲るべきだ!」


「それでも…俺達が譲る必要はないだろ!強くなったと言っても今が適正なくらいだ!、それに金も無くなったし、ポーションすらろくに準備できない状況で先に進むのは危険過ぎる!誰か1人でも死んだら蘇生できないぞ!」


「それは…そうなんだけどよぉ……」


「それに…だ、こいつらにゴブリンが倒せると思うか?…」


「倒せるさ、俺達がやったように1匹ずつ誘き出せば倒せない相手じゃない!…俺達がコツを教えれば……こいつらでも倒せるはずさ!」


「・・・だからって、リスクが高すぎる…これはデスゲームなんだぞ?ゲームがクリアされるその日まで俺達は細々と、安全に!!…生きていくのが最優先だ……」


「だからって、ずっとここに居るわけにもいかないだろ...このままゴブリンを狩り続けても、状況は好転しない!、……それに、もしかしたら次の街に行けばまともな料理が食べられるかもしれない!お金に困らなくなるかもしれない! 少なくとも、狩り場の取り合いっていう悩みは、少しは無くなるんじゃないか?」


 ハヤテは言葉を選ぶように視線を落とした。


「そうかもしれないが…」


「俺は... 誰かがゲームをクリアする日まで、こんなひもじい生活をするのは嫌だぜ?」


「それは俺もそうだよ……だけど…」


「状況は悪化するばかりだ! 今動くのが俺達にとっても…コイツらにとっても最善だ」


「・・・ ……わかった…そうしよう… 皆もそれでいいかな?」


ハヤテがこちら側を向き、賛同を求めるように視線を送る。


「・・異論はありません・・」


「……ぼ……僕はみなさんに付いて行きます…」


「私は……」


 ユウナは少し言い淀んだ。

 無理もない、ここで賛成しないということは、彼らを見殺しにすることに繋がる。

 助けたい気持ちと恐怖の間で揺れているのが見て取れた。


「........私も.......はい..........それで構いません......」


「ありがとう…… アキラさんは?」


 続けて俺に視線を向けるハヤテ。


「あっ……あぁ……俺もそれでいいよ…」


 俺の賛同を確認するとハヤテはシュンの方を向くが、ハヤテよりも先にシュンが口を開いた。


「…本当にいいのか?…」


 ハヤテは小さく笑って頷いた。


「いいですよ、みんなで決めたことですし」



「ほんとかっ!……そっか……そう…か……っ…」


 シュンは安堵と共に肩の力が抜け、見るからに肩を落とし、下を向いていた。

 そして彼は言葉を続ける。


「すまない……さっきまで…お前らに失礼な態度だった…許してくれ……」


「……すみません、こちらこそ…無理に突っかかってました……お互い…このゲームの被害者ですし……これからは助け合っていきましょう!」


「あぁ…… 俺達で助けになるかはわからないが… なんでも協力するよ!」


 空気を切り替えるようにハヤテが手を叩く。


「そうですね、では早速、情報交換でもしますか!」


 コウキの提案でこの場にいる11人に一筋の光明が差し込んだ。

 それはとても弱々しい希望的観測に過ぎないが、少なくとも、彼らの目に微かに生きる希望が見えた。

 

 その後、食事が終わっても彼らは情報交換で盛り上がっていた。


 シュン達の情報からすると、街から片道30分圏内はほとんどの狩り場は独占されているらしい。

 加えて東の海岸沿いは大きな甲殻類のモンスターが居るらしく、戦うのはおすすめしないとのこと。

 俺達がいつもいる西側の海岸も、例の鹿の噂が広まって人が寄り付かないらしい。

 そして北に真っすぐ行くと黒い鳥の群れに襲われてしまう。

 ほとんどのプレイヤーはその3つのエリアを避け、間を迂回するように進むらしい。


 そして、シュンは俺達の方針の決め手となる情報をくれた。


「そして、これが一番有益になると思うんだが、北西の小道を進んだ先に広いエリアがあってな?遠目でよく分からなかったが、何やら木で作られた砦みたいな場所があった、やたらトゲトゲしたデザインで旗やら模様やらがあちこちにあったな、 俺達は最初~原住民の集落か何かかと思ったが、お前らの話を聞いてピンときたぜ……あれはゴブリンのコロニーだ!」


「「「!?」」」


 俺達の驚いた表情に少しだけ笑みをこぼしたシュン。


「お前達がゴブリンとの戦闘に慣れてるお前らなら、あそこを攻略できるかもしれねぇ」


 空気を吹き飛ばすようにコウキが笑う。

 

「やったなハヤテ!」


「・・今の狩り場も少しリポップの待ち時間がありましたからね……僕らにとってはちょうどいいかもしれません・・」


「それに集落ときたら!宝箱や貴重な物資が落ちてるかもな!」


「そうだね…副次的な収入が期待できるのは大きいね」


 コウキが嬉しそうに拳を握る。


「決まりだな!」


 3人の声だけは、妙に明るかった。

 宿に泊まることを諦めていたからか、彼らは店が閉まるその時間まで話し合いを続けていた。

 そして店が閉まると、シュンに案内され、いつも寝ている穴場まで移動し、全員が地面で横になり夜を明かすことになった。




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