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21.代価を伴う救い



 意識を取り戻して目を開けると、俺は教会で横たわっていた。


「おっ 目~覚めたか?」


「・・アキラさん!大丈夫ですか?・・」


「……ぁぁ… ごめん、俺…死んだのか……他のみんなは?…」


「・・大丈夫です!全員生きてます!・・」


「ああ、こっちは俺とアキラが倒れちまったが…シュンさんとハヤテ達で教会まで運んでくれたらしい…」


「…? シュンさんって…誰?」


「あ~そっか、アキラは起きたばっかで知らないか、さっき一緒に戦ってた男の人がシュンって人なんだけど、あっちのパーティリーダーみたいでな、今はあっちでハヤテ達と話してるよ。」


 起き上がって見てみると少し離れた入口の方でハヤテ達と相手方のパーティメンバーが話しているのが見えたが、何やら雰囲気は良くなさそうだった。

 シュンの近くには泣き崩れて座り込んでいる女性が2人、中腰になってそれを慰める男性が1人に、座ったまま俯いている男性が1人見えた。


「とりあえず、俺達もあっちに合流しようぜ」


「・・そうですね…アキラさん…立てますか?手…貸しましょうか?・・」


「あぁ… ありがとう…」


 レンに手を引かれて起き上がると3人でハヤテ達の方へ合流する。



 ハヤテとシュンさんらしき先程の男性が口論になっていた。

 シュンは苛立ちを隠せずにハヤテを怒鳴りつける。


「だから!無いもんは無いんだよ!」


「ですけど…こっちもお金が無いんです…せめてアイテムを売ったりして、今ある分だけでも貰えませんか?…」


「無理に決まってるだろ!俺達だって今日は何も食べて無いんだ!このままだと飢え死にしちまう!」


「それは僕らも同じです!…… というより、あなた達の蘇生代で支払ったお金なんですから……それに!」


「だから仕方ないだろ!!じゃぁ何か?俺達に死ねって言うのか?せっかくモンスターから助けて?教会まで運んで?金まで払ったのに結局は殺すのかよ」


「そうは言ってません……ですから!!」


 ハヤテが反論しようとすると、コウキが仲裁に入る。


「ストップ!ストップ!  ハヤテ…熱くなるなって! ここで言い争っても仕方ないだろ…」


「だけど、このままだと、俺達は宿は愚かまともな料理すら…」


 すると、それを聞いていたシュンが冷笑しながら指摘する。


「フンッ 俺達の命より、ベッドで寝られるかどうかを心配してるのかよ」


「!?…違います!俺達だって!今日食べる金すら残ってないんですよ!」


「だからって、金のない俺達に言っても仕方ないだろ?」


 ハヤテが唇を噛みながら声を張り上げる。


「……そうですけど…… 最低限の誠意くらい見せたらどうですか!!!」


「...なんだと!?」


 シュンが手をあげそうになると、他のパーティーメンバーの男が止めに入る。


「やめてくださいシュンさん!! 俺達 助けてもらったんですよ!!」


 続いて同じパーティーメンバーの女性が頭を下げてくる。


「ごめんなさい!! お金は必ずお返ししますので!.... どうか... 今日のところは許してください!」


 ハヤテは少し冷静さを取り戻し、苛立ちを押し殺すように息を吐いた。


「…ッ…許すとか許さないではありません…あなた達を蘇生するために、こちらも無一文になったんです……せめて、アイテムを売って、今ある分のお金だけでも、双方で均等に分けませんか?…」


「こっちだって1人数十ゴールドしか持ってねぇんだ、わざわざ分けたって、大した額になるわけでもねぇ…」


 ハヤテが食い下がるように声を荒げる。


「こっちは数ゴールドだって残ってないんですよ!、せめて僕らの食費くらいは、そちらで出してくれてもいいのでは?、あなた方も狩りをしてたってことは、モンスターの素材や採取したアイテムがいくらかあるはずです。今回はそれを売って、お金を捻出してください…」


「アイテムならお前らだって売れるだろ、どうしてお前らよりレベルの低い俺たちから絞り出そうとする、お前らは闇金か何かか」


「どうして僕らばかり損失を出さなくちゃならないんですか!?」


 再び頭に血が上り、前のめりになるハヤテをコウキが後ろからしがみついて止めに入る。


「落ち着けって!!… ここは俺達もアイテムを売って食いつなげよう!金は後できっちり貰えばいいさっ....」


「…………ッ……ㇰ……」


 互いのリーダーが睨みあっていると険悪な空気に耐えきれなくなったのか、

 ユウナが前に出てきて両陣営に提案を持ち掛ける。



「じゃぁ.. みんなで一緒にご飯を食べに行くってのはどうでしょうか?…」


「「「えっ⁉」」」


 ・・・


「……あ~2000Gなんて…そう簡単に返せる額ではありません……ですから、これから長い付き合いになると思うので…ここはひとつ、一緒に仲良くご飯でも食べて、親睦を深めましょう!…お金は双方で出してもらって、足りない分を分け合いましょう!…」


こうして、ユウナの提案で両パーティは同じ店で夕食を共にすることになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時は進み、飲食街の隅にある、ほとんどプレイヤーが居ない寂れた店へと入り、

 長いテーブルを2つくっつけ、両パーティが向かい合う形で席に付いた。

 胃より先に空気が詰まりそうだった。


「じゃぁとりあえず……いつも通り樹液粥(ミルク樹の樹液粥 60G)でも頼むかっ」


 向こうのリーダーはふと呟いたコウキの言葉を聞き逃さなかった。

 シュンが鼻で笑うように呟く。


「お前ら、いつも樹液粥を食べてたのかよ、贅沢だな」


 それに対し、コウキは少し不機嫌そうに答える。


「じゃぁ あんたらはいつも何を食べてんだよ」


「ハースローフ(エルダ麦のハースローフ 40G)に決まってんだろ、50G前後で食べられる物の中で一番空腹値が回復するからなっ」


「あんなもん…良く食えたな……あれを食うくらいなら20G足して樹液粥を食った方がマジだぜ」


「お前らはそうかもしれないが、俺達にとってその20Gも貴重なんだよ、こういう所で節約していかねぇとやってけねぇんだ」


「そんなんで2000G返せるのかよ……いつになることやら…」


「それは、狩り場や素材の採取スポットを独占するパーティがいるのが悪いんだろ!! 自分たちさえ良ければいいと思ってやがる連中! どうせお前らも同じだろ! じゃなきゃ人の蘇生代を払えるほど金を持ってるわけがないからな!!」


「はぁ!? 勝手に決めつけんなよ!俺達はまだ誰も見つけてない狩り場を見つけただけだ!独占なんてしてない!あんな連中と一緒にするな!」


「じゃぁ俺達にもその狩り場を譲ってくれるはずだよな?!!」


「いいぜ?あんたらが自力で見つけられたらな?」


「言ったな?四六時中尾行してやるから覚悟しとけよ!」


 2人の口論はヒートアップしていき、周りで見ていたパーティメンバーが焦った表情でいつ口を出そうか迷っていた。

 真っ先に止めに入ったのはハヤテだった。


「コウキ…お前が熱くなってどうする、仲良くしようってさっき決めたじゃないか…」


 相手側も仲裁者が現れる。


「そうですよシュンさん! ここは穏便に!… 」


「……ッ……ったく…」


「・・・」


 その場をなだめ、全員の注文が終わった頃、沈黙に耐えきれなくなったユウナが口を開いた。



「じゃぁ... 皆さん1人ずつ、自己紹介でもしませんか?...」


 ・・・


 流石にこの状況で名乗りを上げようとする者はいなかった。



「…えっと……じゃぁ私から…私はユウナっていいます…高校2年生です」


 ・・・


 空気を無理やり明るくするように、ハヤテが笑顔を作る。

 

「じゃぁ次は俺で、 俺の名前は高槻たかつき はやてです! うちのパーティでは基本的に下の名前で呼び合うことにしているので、皆さんもハヤテと呼んでください!…… じゃぁ 次っ、コウキ!」


 突然振られたコウキが気まずそうに頭を掻く。


「おっ…おう…」


 ハヤテの機転により、こちら側が先行して自己紹介することになり、1人ずつ名乗っていった。


「白坂 あきらです…19です……あっ……専門学生です……えと……よろしくお願いします…」


 俺が名乗り終えると、少しの沈黙を置いた後、先程シュンを抑えていた男性が名乗り出す。


「じゃぁ次は俺達っすね、俺は三上みかみ 大地だいちっす、一応これでも大学生やってます」


 身長はそこまで高くなく、中肉中背、短髪でいかにも野球部上がりのような見た目をしている男性だった。


「俺は神代かみしろ 柚希ゆずきっていいます、高3です…」


 背が高く、レンに負けじと劣らないイケメンだった。手足が細く中性的な見た目をしている。


水野みずの 朱里あかりです。大学で児童教育学科の幼児教育を専攻しています。将来は保育士になりたくて、子どもに関わる勉強をしてます。よろしくお願いします。」


 明るめの茶髪に高めのポニーテール、ハキハキとした喋り方だが、どこか強がっているようにも聞こえる。

 優しい雰囲気の女性だが、目元が少し腫れていた。



「……う、…く…クロ、……ミ、…サキ……です…」


(声ちっさ!…)


 俺の正面の席に座るその子は、酷く怯えたような声を出していた、

 隣に座っているアカリがそれを察し、彼女の声を代弁する。


「…彼女は黒澤(くろさわ) 瑞紗希(みさき)ちゃんで、ユズキと同じ高校3年生です」


 小柄で手足が細く、黒髪ショートだが、

 前髪で目がほとんど隠れている、不健康なほど肌が白く、

 人と目を合わせることすら苦手そうな少女だった。


 そして最後に、未だ機嫌が治らないリーダーの番が回ってきた。

 周りの人間がなだめる中、渋々口を開く。


中原なかはら 駿しゅん……歳は… 24だ……飲食店で働いてる」


(飲食店だったのか……てっきり土方とか鳶職の兄ちゃんかと思ってた…)


「えっと~皆さんはどうしてあそこに?..」


 ハヤテが恐る恐る話を切り出した。

 彼らは顔を見合わせ、シュンの出方を伺っていたが、シュンがそっぽを向いているとダイチが受け答える。


「俺達は…アカリのデイリークエストをクリアしたくて、あそこでリュメン草のリポップを待ってたんすよ……そしたら、周り中からいくつも悲鳴が聞こえてきて……逃げようかと話し合っていたんですが、ここまで来てクエストをクリアせずに帰ることはできないとシュンさんに止められ……悲鳴が止んだと思ったら今度はあまりにも静かすぎて……しばらくしたらあの狼達がやってきて……俺達はシュンさん以外...なすすべもなく殺られてしまいました…」


 ダイチの話を聞いたハヤテが眉をひそめる。


「それは災難だったね……俺達もあそこはよく通るけど、あのモンスターを見たのは初めてだったね…」


「・・乱入専門のモンスターとかですかね?…あとは、ランダムな道を徘徊する設定にされているネームドモンスターだったりとか・・」


 レンの推測に疑問を持つコウキ。

「ネームドにしては小型が数匹って、規模が小さくないか?」


「でもかなり強かったのは確かだね、こっちもコウキとアキラさんが倒れて、俺とレンも残りHPが少なかったから……ほんと、ギリギリ勝てたから良かったよ...」


 普段通りに3人が話しているとアカリが尋ねる。


「皆さん、お強いんですね... 皆さんが助けに来てくれなかったら、私たちは今頃…命を落としていました… 本当にありがとうございました!」


 ハヤテが困ったように目を逸らす。


「いえ、……当然のことをしたまでです」


「お金は必ずお返しします... ですので、数日待ってもらえませんか?」


 ハヤテは少し困ったように答える。

「そんなに急がなくてもゆっくりで大丈夫ですよ?それに、手持ちに数十ゴールドしか残ってなかったってことは、僕らと同じで赤字が続いてますよね?… 蘇生代の返済以前に、明日からの生活は大丈夫ですか?……」


(ハヤテの疑問は最もだ…今日を生き延びられても、彼女達が明日生きているかすらわからない……いや、正確には餓死するまでに何日かかるのか、現実世界と同じように水だけでも1週間は生きていられるのか、それはわからない.... でも、このまま行けば、彼女達は数日のうちに死んでしまう……)


 アカリの肩が小さく震える。


「…………わかりません……ッス……どうしたらいいか…もう……」


 いろいろな出来事で有耶無耶になっていた不安を、頭の片隅に押し込めていた不安が一気に引き戻されたのか、

 ハヤテの言葉で現実と向き合ったアカリは、言葉を失ったまま、すすり泣き始めてしまった。

 


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