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19.剣に託す命

ーー次の日の朝ーー


 目を覚ますと、窓から薄っすらと光が差し込んでいる。

 メニューを開くと、時間は朝の8時を示していた。


 昨日は結局何時に寝付いたのか覚えていない。藁が敷き詰められた上に所々穴が空いたシーツを被せただけのベッドから立ち上がると、窓を開ける。

 そこからは絶景などが見えるはずもなく、苔の生えた隣の家の石壁が見えるだけだった。

 壁との距離は1mも無く、そのせいで日当たりが悪く、部屋中がカビ臭い。

 50Gと格安ではあったが、二度と泊まりたいとは思わないだろう。


 階段を降りて受付までやって来ると、数席しかないうちの1つのテーブルでレンとコウキが話していた。

 近寄る俺に気付いて2人がこちらを向く。


「・・あっ おはようございますアキラさん・・」


「よ~っす」


「お... おはよう... 2人とも早いね... まだ集合時間までだいぶあるけど...」


「・・それは…まぁ…なんというか・・w」


「あんなカビ臭い部屋にいつまでも居たくないからなっ、ここで待ってたってわけ」


「あぁ……なるほどね… 俺も同じ考えだったよ…ここ…座っていいか?」


「・・どうぞどうぞ!・・」


「ありがとう...」


 3人で席を囲み、他のメンバーが揃うまで雑談をしていた。

 それも1時間近くだった。

 ここにコウキが居てくれて本当によかった。

 さすが陽キャ、話題を振るのも会話を回すのも上手い。

 俺とレンだけだったら、すぐ話題が無くなって沈黙に耐えられなくなっていただろう。

 このパーティで疎外感を感じていた俺は、コウキが話題を振ってくれるだけで少しコイツのことを好きになっていた。


 しばらくして他の3人が降りてくると、その場で朝食を取ることになった。

 宿で提供される食事も、他と変わらずお世辞にも美味しいと言える物はなかった。

 もくもくと食事をしていると、ハヤテが今日の予定を話し始める。


「みんな、今日もゴブリンを倒しに海岸へ行こうと思うんだけど、それで大丈夫かな?」


「いいんじゃね?なんだかんだ他のモンスターよりも動きが読みやすくて倒しやすいし、 あ~~でもちょっと待って、狩りに行く前に鍛冶屋的なの探さねぇ? 昨日の戦闘で剣が消耗して切れ味が悪くなってる気がするんだよ」


 コウキの言葉に頷きながら、ハヤテも自分の剣を確認する。


「そうだね? たしかに、俺の剣も刃こぼれが見えてきたね」


「それによぉ、 インベントリを開いた時に武器や防具のアイコンの下に書いてある横に伸びたゲージあるじゃん? これってたぶん耐久値だよな? 俺の剣... もうゲージが残り少なくて赤くなってんだけど…これってどうやって直すんだ?」


(よく言ってくれたコウキ! 俺もいつ切り出そうか迷ってたんだ…)


 顎に手を当てながら、レンが静かに考え込む。


「・・そうですね... 僕がやったことあるゲームでは、鍛冶屋に持っていって直してもらうか、自分で作業台などを使って直すかですね、あとは~... 耐久値を回復させるアイテムがあったり... 酷いものだと、その武器を作った時の素材を使って直したりもありましたね....」


「同じ素材って...鉄とか?? 俺達そんなの持ってねーぞぉ... このゲームでもピッケルを担いで炭鉱夫をやれって言われたら泣くぜ俺」


 コウキの冗談に苦笑いしながら、ハヤテが言葉を続ける。


「まぁ それは最悪のケースだからね、鍛冶屋に持っていけば普通に直してくれるかもしれないし、とりあえず、食べ終わったら探しに行ってみようか」


 そうして一行は食事を終えると鍛冶屋を探す。

 昨日市場で見た武器屋とは違う店を見つけた。

 早速中へと入って行くと、店内にはいくつもの武器が並んでおり、それを眺めるプレイヤー達で溢れていた。

 店主らしき人物は奥のカウンターに立っており、既に何人ものプレイヤーが列をなしている。


 武器を眺めながら、コウキが列の長さに顔をしかめる。


「どうする?並ぶか?…」


 ハヤテが苦笑い混じりに頷く。


「並ぶしかないだろうね…」


 しばらく並び、ようやく先頭に立っていたハヤテの番になったと思ったら、パーティメンバー全員にチュートリアルのウィンドウが表示された。


 要約するとこうだ。


 ・耐久値:店主に頼む場合、武器のレア度と消耗した耐久値に比例して修理する時間が増える〘4~12時間〙

 ※ただし、自分で鍛冶スキルを習得した場合、金床がある場所なら自分で修理することが可能〘20~30分〙


 ・切れ味:砥石を使うことで一時的に切れ味を回復させることができる。ただし、耐久値は回復せず、耐久値が低くなると切れ味の消耗も激しくなる。

 ※砥石は店で購入でき、フィールドでも使用することができる。


「はぁ!? ふざけんなよ 時間かかりすぎだろ!! 最悪半日も使えなくなるのかよ!」


(...コウキの言うとおりだ... どんな硬派なゲームでもそんなに時間はかからないぞ... 何路線なんだこのゲームは...こんなの正式サービスで通る仕様じゃない... )


 全員が困惑していると、店主と話していたハヤテが振り向いてみんなの方に歩み寄る。

 入れ替わる形でコウキが店主へと駆け寄る。


「・・ハヤテさん...どうでした?・・」


「俺の剣は直すのに5時間かかるらしい... 値段は100Gだったよ...」


「・・5時間ですか… なら、午前中は狩りに行けそうにないですね..・・」


 ユウナが胸元で指を絡め、不安そうにハヤテを見上げる。

 自信の無い表情と声色でハヤテに提案を持ちかける。


「あのっ…… 私の剣… 少しも減って無いので…貸しましょうか?…」


「そうだね……いい考えだと思うけど、1人分の武器じゃどうにもならないね…せめて後2本くらいあれば…」


(……2本?・・・ それって… 俺は戦力に含まれてないってことかな?…)


 すると受付を終えたコウキが帰って来る。


「クッソ……俺のは修理に8時間かかるらしい…」


 コウキの言葉に、ハヤテが目を見開く。


「そんなに!? 8時間後って、もうほぼ夕方だね……今日は狩りに行けないってことか…」


「・・どうしましょう…今日の食費すらも…もつかどうか……・・」


(食費はなんとか食いつなげても...今日一日稼ぎが0だったら...風呂は愚か宿にも泊まれない...)


「とにかく、一旦列を離れて店の隅で相談しよう! みんなこっち来て!」


 ハヤテに導かれ、店の隅に集まる俺達。たまらずコウキが床に座り込み、つられて皆も中腰になる。


「まずは、レンとアキラさんが持っている剣の耐久値を見せてもらっていいかな?」


「・・わかりました・・」


「あぁ...うん...」


 言われた通りインベントリを開く。

 レンが自分のウィンドウを横にスワイプしてハヤテが見やすいようにウィンドウの向きを変えた。


(・・・ えっ!? ウィンドウって向き変えられたの!?.... 知らなかった....)


 俺もマネしてみると本当に向きが変わった。


「なるほど... 2人とも真っ赤になっているね... 耐久値が0になったら武器が壊れてそのまま消失するケースもあるから、仕様がわからないうちは0になるのを避けた方が良いかもね... 今日のところはどちらかの剣をそのまま使おうかと思ったけど、2人とも無理そうだね...」


 ハヤテが悩んでいるとシュウヘイが怯えた声で話し始める。


「あの.... 僕の剣も耐久値減ってませんし... 貸しましょうか?」


「シュウヘイ... お前は普通に戦えよ~ 男だろ~?」


 呆れた声でシュウヘイを諭すコウキだったが、それを遮るようにハヤテが発言する。


「いや、剣は譲ってもらおう! シュウヘイくんには悪いけど、戦えない人に持たせておくよりも、戦える人に渡したほうが良い...」


「あ……はい…すみません……」


「でもよぉ? 他人の武器を持って離れたら持ち主のインベントリに戻るだろう? 戦えない2人を近くに居させるわけにもいかないし、昨日みたいに、どちらかが逃げ出したりでもしたら突然手元から剣が消えかねないぜ?」


「そうだね、 だから今回は、剣を貸すんじゃなくて そのまま譲渡してほしい」


「・・それって剣をあげろってことですか?・・」


「おいおい! そいつはいくらなんでもやり過ぎだろ... 店で売ってる剣の値段がバカ高い以上... 2本目の剣を買うなんて現実的じゃない、、剣を渡すってことは、コイツらの生きる手段を奪って生死を委ねさせるってことだ... こう言っちゃなんだが... 会って2~3日しか経っていないヤツに全幅の信頼を持って剣を渡せなんて、酷な話だろ.. 大体...俺達が死んだら、コイツらはどうやって戦うんだよ...」


「インベントリに短剣が入っていただろ? 戦いたかったらそっちを使えばいい。それに、戦えないのなら剣を持っていたって同じことさ。結局は僕らが死ねばシュウヘイくん達も死ぬ。酷い言い方かもしれないけど、今はそんなことを言っている場合じゃない、なんとしても今日の分の生活費を稼ぐ必要がある...」


「そりゃそうだけどよ~...」


 コウキがここまで反対するのには理由がある。

 コウキは、ゴブリンと複数回の戦闘を重ねる中で、一度だけ短剣を使ったことがあるからだ。

 だが、その剣はとても弱く、危うく、頼りない物だった。

 それは、ゲーム内に設定されている攻撃力や切れ味などの性能差ではなく、単純なリーチの差である。

 このゲームでプレイヤーを守ってくれるのは、防具でもスキルでもない。

 相手より先に届く刃、その数十センチの間合いだけだった。

 盾が実用的ではないこのゲームにおいて、プレイヤーが自分を守る方法は、攻撃をかわすことしかない。

 この刃渡り70~80cm分の空間が攻守共にプレイヤーの運命を分ける間合いなのである。


 対して短剣は刃渡りが20~30cmほどしかなく、攻撃を当てようとすると、どうしても相手に接近する必要がある。

 相手の攻撃を華麗にかわし、懐に飛び込んで一撃を加え、再び距離を取る。

 そんなことができるのはゲームやアニメの世界だけだ。

 ましてや彼らはスーツアクターでも無ければアクション俳優でもない、ごく一般的なサラリーマンや学生の集まりだ。

 短剣を使って戦うということは、ダメージを受けることを覚悟しなければならない。


 コウキはそれを知っていた。

 戦闘に慣れていないプレイヤーのほとんどが片手剣を自分の正面で構え、両手で強く握りしめる。

 両手に伸し掛かる剣の重みと、視界に映る相手と自分を隔てる光沢が、自分の勇気を鼓舞し、同時に守ってくれる安心感を与えてくれていたのだと。

 それが短剣に持ち替えるとどうだろうか。

 手に伝わる重みも、視界の占有率も、先程の片手剣とくらべると実に頼りなく、まるでオモチャのように思えてくる。

 そんな物を持たせ、どうやって即死級の攻撃をしてくるモンスターと戦えというのだ。


「…コウキさん…大丈夫ですよ…僕の剣…コウキさんにあげます……」


「いいのかよ…? これから先… まともな武器が手に入る保証は無いんだぞ?」


「…僕が持っていても仕方ないので…いつも守って貰ってますから… これくらいはさせてください…」


「……おう… わかった…」


 シュウヘイが腰の剣を抜いて持ち手を2回タップする。

 武器の詳細画面が開き、ウィンドウの右上に小さく表示された譲渡のボタンをクリックする。

 画面が切り替わり、パーティメンバーを含めた近くのプレイヤーの名前が一覧で表示される。

 シュウヘイはコウキの名前を選び、迷わず剣を渡した。


「すまんな… しばらくは俺が責任を持ってお前らを守るからなっ!」


「はいっ… 僕も絶対……自分で戦えるようになります!…」


「おう! 新しい武器が手に入ったら、コイツは絶対返すからな!それまで待っててくれ!」


「…はいっ!…」


 コウキがシュウヘイの肩に手を回し、友情を育む中..ハヤテはユウナにも話を持ちかける。


「ユウナちゃんもレンに剣を渡してくれないか?...」


「あっ.. はいっ! わかりました... え~っと... どうやるんでしたっけ?...」


「待ってね」


 ハヤテはユウナの近くまで移動すると、ユウナのすぐ隣で腰を下ろし、譲渡の方法を説明する。


「ここを押して、後はこの中からレンの名前を選んで、はいっ これで譲渡できたはずだよ」


 レンの正面にウィンドウが表示され、ユウナから《鉄の片手剣》が譲渡されたことを告げられる。


「・・ありがとうございます... 大切に使います・・」


「いえっ!... いつも助けてもらっていますし、私の剣でよかったら、じゃんじゃん使ってください!…」


「・・いえ…僕の剣が直ったら流石に返しますよ…・・」


「いえいえ!…戦えない私が持っていても仕方ないので… レンさんが持っていてください!…」


「・・そう…ですか…じゃぁ・・」


 ・・・


 剣を渡し終わると、ハヤテはその場で立ち上がる。


「よしっ、みんな! 俺の提案を押し付けてしまってすまない... けじめとして俺はゴブリンからドロップした棍棒で戦うよ! 倒したゴブリンから武器を拾って使えば1人分の剣を節約できると思う!」


(.... ん? 締めみたいな雰囲気出してるけど... 俺は?..)


 すると、レンが手を上げてハヤテを制止するように口を挟む。


「・・アキラさんの武器はどうしますか?・・」


(レン!!...(泣) よく言ってくれた...)


 少し考え込むように腕を組み、ハヤテが答える。


「ん~ そうだね……全員のお金を合わせれば一番安い《錆びた片手剣》くらいなら買えそうだけど...」


 (あっ…それは申し訳ない気持ちになるからやめてほしい……)

「いやっ… 俺は短剣で戦うから大丈夫だよ……」


「・・ホントですか?・・昨日の戦いで短剣も消耗していると思いますけど・・」


「まだ、耐久値が3分の2は残ってるから大丈夫だよ…」


「・・そうですか… なら、念の為..僕の短剣も渡しておきますね・・」


「えっ… あぁ~… ありがとう、使わせてもらうよ…」


(なんやこの子...イケメンなのに優しいとかズルやん... レンくらいだよ、俺を気遣ってくれるのは…)


「じゃぁ アキラさんは短剣で戦ってもらうとして……これで一旦は戦えそうかな?  そういえばレンとアキラさんはまだ武器の修理を出してなかったよね?  もう一度並んで2人の武器が預けられたら狩りに出ようか!」


 立ち上がりながら、コウキが思い出したように口を開く。


「あっ 一応さ、ギルドに寄って、俺達が倒してるゴブリンのシェアクエストが無いか漁っていかね?」


「そうだね…みんな序盤のモンスターや報酬にばかりに目が行って、ゴブリンは売れ残ってるかもしれない…… よし、じゃぁまずはギルドに行ってみようか!」


 こうして俺達は、命を繋ぐために武器を融通し合いながら、再びゴブリンの待つ海岸へ向かうことになった。

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