15.善悪の境界が騒がしい
ーーそして次の日ーー
目が覚めると窓の隙間から朝日が少しだけ差し込んでいた。
窓を開けると、冷たく、少し湿気を帯びた空気がすっと部屋の中に流れこんでくる。
耳に届く鳥の囀りが心地よく、顔に当たる日差しがほんのり暖かい。
日差しの暖かさと反して吸い込む空気は冷たく、この早朝の雰囲気だけは現実の懐かしさを感じた。
メインメニューを開くと、時間は朝の6時半だった。
街にはNPCがまだ居らず、歩いていくプレイヤーを数人見かけるくらいだった。
(二度寝しようと思ったが、普通に置いて行かれる可能性がある... いや、そこまでする奴らじゃないと思うが、その不安は拭いきれない、かと言って先に広間に行っても誰かが起きてきて2人きりになったら気まずい... ここはよく耳と脳を働かせて最適なタイミングで下に降りていかなくては最悪の事態になりかねない...)
しばらくすると、外から賑やかな声と荷馬車を引くような音が聞こえ、廊下の方からも他のプレイヤーが続々と外に出ていく音がした。ハヤテは何も考えず9時に集合と言っていたが、遅すぎなのではと感じ始めていた。
メニューの時刻が8時50分を示してからは、ドアの前で耳を澄ませてひたすら待った。
少なくとも二人以上が1階に降りていくのを見計らってさりげなく後を付ける形で降りるのがベスト。
しばらくして聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ハヤテ~! おーい起きてるか~!」
隣の部屋の扉をドンドン叩きながらハヤテの名前を呼ぶのはコウキだった。
「おーい! 起きろって!」
「・・まだ..寝てるんじゃないですかね?」
(既にレンと一緒か...)
「おいおいリーダーなのにしっかりしろよ~、 ん~ じゃぁ 先にシュウヘイでも起こすか」
今度は逆隣の部屋を叩きシュウヘイの名前を呼ぶコウキ。
すると意外にも早く扉が開く音がした。
「なんだよw シュウヘイ起きてんじゃんw じゃぁやっぱハヤテが寝坊助なだけか」
「すみません...起きてたんですけど、下に降りていくタイミングがわからなくて」
「なんだよそれw 別に下で待ってればいいじゃんw」
するとハヤテの部屋の方から扉を開ける音がする。
「ごめんごめん、聞こえてたんだけど、眠すぎて体起こすのに時間がかかった」
寝癖の付いたまま苦笑いを浮かべるハヤテに、コウキが呆れたように肩をすくめる。
「んだよ、朝に弱いとか、ハヤテって実はだらしないところもあんのなっ」
「ごめんてw もうみんな揃ってた?」
コウキが廊下の先をちらりと見ながら答える。
「いや? 下にはユウナが居ただけだったな」
「ってなると~ あとはアキラさんだけか...」
「一応起こしてみる?」
(一応ってなんだよ...)
「そうだね、俺が呼びかけてみるよ」
すると目の前で扉を叩く音が響く、至近距離に居たからめちゃめちゃうるさかったが、必死に地団駄を踏むのを堪えた。
「アキラさーん! 起きてますか?」
(ここは慌てず深呼吸をして、早すぎず遅すぎず、ワンテンポ置いて...)
ガチャリと扉を開け、いかにも眠そうな顔で応答する。
「あぁ..... お... おはよう... みんな早いね?...」
「おはようございます、 みんな揃ったみたいなんで一旦下の広間に集まりましょうか!」
「あ.. あ~ うん.. わかった...」
扉を閉じて身支度をするフリをする。
(あっぶね~ 全員揃った所で最後に遅れてやって来るっていう2番目に酷い展開はなんとか免れた...)
扉を開けてみんなに合流する。
少し間を置いた後にハヤテが口を開く。
「じゃぁ、行きましょうか」
一番後ろからハヤテ達に付いていき1階まで降りていく。
広間でユウナと合流すると前日に目的を決めていたおかげで、早々にネズミ討伐に出ることに。
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街の外まで来ると、俺・レン・シュウヘイでグナウラーのクエストを開始する。
そしてしばらく歩きながら周りを見渡してみるが、グナウラーの気配は全くしない。
ただ、座り込んでいるプレイヤーは何人も見かける。
俺達が1つのパーティの横を通り抜けようとすると、
「おい!! おいおいおいおい! ここはもう俺達が陣取ってるんだ! 他の所に行け!!」
ん?・・・
「陣取っているって言うのはどういうことかな?」
「決まってんだろ、ここにリポップするグナウラーを待ってんだよ、何分も前から」
「俺達もグナウラーを10匹ほど倒したいんだけど?」
「知らねぇ、どっかよそでやれ! ……まぁここら一帯はもう定員オーバーだけどな、ここ以外でグナウラーを見つけたら狩れんじゃねぇの? それか俺ら以外のパーティに頼み込むんだなっ」
「狩り場を独占するのは良くないよ! ここはみんなで分け合うべきじゃないかな!」
「あん?... うっせ、こっちも命懸かってんだよ、他人に気~使う余裕なんてあるわけないだろ、自分達の食い扶持を稼ぐだけでやっとだ!」
「でも...10体くらいならいいじゃないか?」
「あ?.. てめぇ舐めてんのか? 朝から張り付いてる俺らでもまだ6匹しか狩れてねぇんだよ、 昨日だって一日中狩ってたのに赤字だよ! このままだったら宿どころか食う物すらなくなるんだよ!」
喧嘩腰のヤンキーとハヤテの口論はどんどんヒートアップしていく。
が、ヤンキーの仲間は止めようともしない……それはそうだ、このヤンキーが下がればパーティ全員の収入が減る、止めるに止められないのだろう。
ハヤテの後ろでウズウズしていたコウキがついに口を挟む。
「おめぇら恥ずかしくねぇのか! こんなところで獲物を独り占めしやがって!」
「恥ずかしいだ?周りを良く見てみろ! 俺達以外にも陣取ってるパーティはいくらでもいるだろ」
「周りがやってたら良いのかよ! そんなんだからネズミくらいしか倒せねぇんだよ、もっと強いモンスターを狩れば赤字になんてならねぇんだよ!!」
「やめろコウキ! ちょっと落ち着け!」
相手に少しずつ近付き、今にも手をあげそうなコウキをハヤテがなだめる。
「フッ...w 馬鹿かお前ら? 昨日だけで何人死んだと思っていやがる。身の丈に合わないモンスターを相手にしても全滅するかポーション代に消えるだけだ! お前ら知らないのか?この先、北にずっと進んだ辺りの森で大勢が死んだ!死んだ人間を助けようとして人を集め、救助隊を結成してもまた!全滅した!それを繰り返して、芋づる式に死人は増えていった... 俺達はそんな馬鹿なマネはしねぇ... どんなに罵られようが、ここを動くつもりはねぇぞ!」
(その話ってもしかして……)
「うっせぇこの野郎! ぅ… ク……! この!……」
ハヤテの腕から身を乗り出して近付こうとするコウキを見かねてレンもハヤテに加勢する。
「やめろってコウキ! 他を当たろう! コイツらに構ってる時間がもったいないって!」
「チッ....」
2人がかりで抑え、どうにか足を止めるコウキ。
「けど、プレイヤーのみんながリソースを分け合った方が良いのは確かだ、クエストを受けた人間が狩りをして次にクエストを進めたい人に明け渡す、 そうすればみんな追加報酬が貰えてWin-Winじゃないかな?」
「はぁ?... 俺達がクエストを受けてないとでも思ってんの? 朝一でギルドに入ってグナウラーのクエストは総取りしたよ、ここに居るメンバーは全員!グナウラーのクエストを3つずつ持ってんだよ!w ハハッ!w 馬鹿が! お前らが狩るより、俺達が狩ったほうが得するんだよ! ここを陣取ってるパーティは全部そういう奴らさ! 分かったらさっさとどっか行きやがれ!」
「てめぇ!今度こそ許さねぇ!」
再び頭に血が上ったコウキをまたもや2人がかりで抑え込む。
最終的にシュウヘイまでヘルプに入り、3人でコウキの体を持ち上げて、無理矢理その場を離れるまで収まらなかった。
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少し離れたところでコウキを降ろし、これからの相談をする俺達。
苛立ったように舌打ちしたコウキが地面を蹴る。
「チッ.... んで? どうするよ.... 他の奴に頼み込んで譲ってもらうか?」
レンは少し考え込むように視線を落とした。
「・・アイツの話を聞く限り望みは薄そうですね... そもそもリポップにかかる時間が長いみたいだし、僕達が10匹狩れる頃には.. 半日過ぎてそうです・・」
「そうだね... 今日のところは他に倒せそうなモンスターを探してレベルを上げつつ、採取クエストに必要そうな素材の場所だけ把握しておこう... 」
「あの感じだと、採取クエストの素材も、張り込んでるヤツがいそうだなぁ..」
「・・このゲームをプレイしている人口に対して、用意されているお金や経験値のリソースが少なすぎる気がします……・・」
ハヤテが腕を組みながら頷く。
「それはそうかもね、 だって、大体MMOってゲームは... いや、MMOに限らず、どのゲームもプレイ人口が一斉にログインすることなんて無いからね。 みんな仕事だったり学校だったり、生活リズムの違いだったりで、ゲームで遊ぶ時間は人それぞれ、サーバーもいくつにも分かれていて、初心者や上級者で狩り場が違ったりして、1つの街に密集することなんてまず無いからね。」
「・・全員が強制ログイン状態……さらにサービスが開始したばかりで全員が始まりの街にいる... リソースが足りなくなる訳ですね... 運営は...これを予期して無かったのでしょうか?・・」
「てかさ? リポップする時間をもっと早めるか、モンスターの数を増やせば済む話だろ? 運営がさっさと修正してくれよ...」
「それは難しいんじゃないかな? 俺達はまだ、始まりの街の近辺で狩りをしているけど、あのオルステラが言っていたように、先に行けば行くほど移動時間が長くなる... この不親切なゲームのことだからワープ機能なんて、そうそう無いだろうし、道中で戦闘を終えて瀕死になり、帰る時にはもうモンスターが復活しているとかだったら鬼畜すぎるだろ?」
コウキは頭を掻きながら不満そうに唸る。
「まぁ.... そう言われれば確かに... あとは単純に数を増やしても..囲まれる危険性が増すだけか...」
「「「ん~~~・・・」」」
考え込む3人。また俺達をそっちのけで話し込んでいるようだ。
ハヤテが軽く手を叩き、空気を切り替えるように言った。
「とりあえず、何か探しに行こうか、俺達も食費と宿代を稼がなきゃだし!」
「そうだなっ」
こうして俺達は、街の門を出て左側、北西方向へと移動していった。
小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。
読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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