14.眠れぬほどに、生きていた
飲食街に到着した一行は再び空いている店探しに追われた。
しかし今回は店を見つけるまでそう時間はかからなかった。
加えて昼間に入った店とは違う店ということもあり、一部の望みを賭けて中に入ってみることに。
だが、皆の期待はあっさりと打ち砕かれた。
長い一日を乗り切ったにも関わらず口に入るのはまるで離乳食のような粗末な粥と味の薄いスープのみ、いくつか前の店には無い料理がメニューに書いてあったが名前からして不気味なため、貴重な資金を割いてまで未知の料理に挑戦する者はいなかった。
食事を終えた俺達は、暗い街の中をランタンの明かりを頼りに宿を探していた。
街の東側、住宅街の手前に一際大きな建物がそこには立っていた。
何人ものプレイヤーがその建物に入っていくため、俺達も着いて行くことにしら、やはりそこは宿だった。
ハヤテがカウンターに立つ女性のNPCに話しかける。
「いらっしゃいませ、白燭亭へようこそ!
本日はご宿泊でしょうか?」
NPCのセリフに合わせ、ハヤテの目の前にウィンドウが表示される。
『
[宿に泊まる] [キャンセル]
』
ハヤテが[宿に泊まる]を選択する。
『
お一人様:一泊 400G
[はい] [いいえ]
』
ハヤテは少し戸惑う素振りを見せた後、ボタンを押す前にNPCに質問をする。
「あっ....すみません、6人で泊まれる部屋ってありますか?」
「申し訳ございません。
当館は一名様用のお部屋のみとなっております。」
「そう...なんですね...」
「というわけでみんな、1人ずつしか泊まれないらしいから、順番に部屋を取っていこう」
「宿なのに2人部屋すらないのかよ、こんなデケェ建物に一人部屋がびっしり詰まってるのか?もっと有効活用しろよ、壁をぶち抜くだけじゃん。」
「・・そもそもゲームの宿はHPを回復するためだけに泊まるものだからね、プレイヤーが直接寝泊まりすることは想定されて無かったんじゃないかな?・・」
納得いかないといった様子で、コウキが身を乗り出す。
「いやいや! 最近のゲームは暗転した後に、起きたらちゃんとベッドの上で横になってた!ってゲームはよくあるぜ?」
「・・それをVRMMOでやるのは難しいんじゃないかな?・・」
「だとしても、一人部屋しかないってのは違和感あるよね、ただの飾りとして作られた建物だったとしても部屋のバリエーションくらい作り込むと思うけど。」
と、ハヤテが話に加わり3人で話し込み始めてしまったので、他3人は受付を済ませることにした。
(一泊400Gか.... 高いな~ まぁ..普通に考えたら安いけど、この金欠状態で400Gの出費はデカい...)
[はい]のボタンを押すと受付のNPCからやたら大きな鍵を渡される。
「それでは、305号室をお使いください!」
渡された鍵はいわゆる[ウォード錠]と呼ばれる形で、全体が鈍い灰色を帯び、長い年月を吸い込んだ鍛鉄の肌には、ところどころ赤茶けた錆が滲んでいる。ビットと呼ばれる鍵の先端が複雑な形状をしており、思わず頬が緩む。
こういう無駄に凝った小道具こそ、ファンタジー世界の醍醐味だった。
インベントリーにしまうことができ、詳細を開くと305号室の鍵、とだけ書かれている。
全員の受付が済むと、階段を上がり自分たちの部屋の前まで来ていた。
連続して受付をしたからか、全員が連番ですぐ隣の部屋だった。
「じゃぁみんな、今日はゆっくり休んで、 明日は朝からグナウラーを狩りに行こうと思うんだけど、時間は~・・・ そうだな9時に起きて1階の広間集合でいいかな?」
このゲームには自分と仲間のHPバー以外のUIは基本的に存在せず、メインメニューすら簡素だ。
地図も無ければ方角もわからず、チャットで他人とやり取りできるわけでもなければ、行先を示してくれるガイドエフェクトすらもない。
しかし、唯一手に入る情報がある。
それが時間だ。
メインメニューを開いた時のみ、メニューの1番下に小さく表示される。
[18:32:45]
これは[時:分:秒]の意味だ。
鍵を指先で回しながら、コウキが気楽そうに言う。
「い~んじゃね?でもスマホも持ってないし、目覚まし時計があるわけでもないだろ? 俺起きられるかな~」
「ん~ そうだね、取りあえずは時間通り1階の広間に集合で、なかなか来ない人は呼びに行くことにしようか」
「OK~」
「・・わかりました・・」
「じゃぁ 一旦ここで解散なんだけどっ、この後コウキの部屋に集まって少しこのゲームについて話そうかと思ってるんだけど、参加する人居るかな?」
「私…… 今日は疲れたので早めに寝ようと思います……」
ハヤテが柔らかく笑いながらユウナに手を振る。
「そっか、ゆっくり休んで!」
お辞儀をして1人自分の部屋に入っていくユウナ。
再びコチラに向き直すハヤテだったが、先程までユウナを見送っていた時の糸目の笑顔は薄れていた。
「他には居るかな?」
少し間を置いた後、シュウヘイがおずおずと手を挙げる。
「あ、 じゃぁ....僕も参加します...」
「おっ!いいね、じゃぁ夜中までダベろうな!」
なんかちょっと距離が近くなったコウキはシュウヘイの肩を小突きながら言っていた。
(え、お前行くの!... 完全にこっち側の人間だと思ってた... え...次俺? あっ...レンが断ればまだ行ける!)
「じゃぁ.... 最後はアキラさんだね、コウキの部屋..来ます?」
(ですよね... 薄っすら分かってました、どうせレンにはもう話してたって.... てかハヤテよ... 社交辞令なのは分かるけど、誘うなら最後まで声のトーンを保とうや... )
「いや... 俺も疲れたし、今日はもう寝るよ... 」
「そっか、 じゃぁ また明日!」
「あぁ..」
俺はそう言って仲間と別れ自分の部屋の前に立つと、
インベントリーから部屋の鍵を取り出し、自分の部屋へと入っていった。
部屋全体が石壁になっており、広さは6畳あるかないかくらい。
入って左の壁に寄せる形で木製のベッドが置いてあり、枕元のサイドテーブルにランプが1つ、ベッドと反対側の壁にもう1つのランプがある。明かりとしては心許無いだろうが、窓から差し込む月光が部屋全体を照らし、明かりなんていらないくらいだった。
窓にはガラスなど無く、ただそこに穴が空いていて、吹き込む風が少し肌寒く感じた。
窓には両開きの戸が付いていたため、本格的に寒くなったら戸を閉めれば良い。
部屋には他に簡素な机と椅子、ベッド近くの床には小さな絨毯と引き出しが3段付いたサイドテーブル、床には用途の分からない小さな籠と、埃を被った壺が置かれている。
入口以外で唯一の扉を開けるとトイレらしき木製便座と穴が。
他に部屋は無く、もちろんシャワールームや浴槽も無い。
もしもこれがデスゲームでなければ泣いて喜んだだろうが、これからはこの部屋で過ごすことが日常になると考えると気が重い。
とりあえずベッドで横になり、休むことにする。
枕やマットの中に詰められている干し草の感触が新鮮だ。
ベッドに敷かれたシーツも露骨すぎる毛皮の掛け物も、清潔とは程遠かったが雰囲気を味わえればそこまで苦ではなかった。しかし、匂いだけは慣れるのに時間がかかりそうだ...
天井に見える木製の骨組みを眺めながら、今日起きたことを頭で振り返っていた。
すると隣の部屋(正確には2個隣の部屋)から賑やかな声が聞こえてくる。
声からしてハヤテ達だと分かった。
しばらく経っても話し声が止むことは無く、近所迷惑にも程がある。
何時までコイツらは話しているつもりだ!と考えていたら1つの疑問が思い浮かぶ。
(あれ…確かにベッドは1つしか無いが、何時間でも他人の部屋に入り浸れるのであれば、全員が400Gも払って1部屋ずづ借りる必要は無かったのでは?……)
(ベッドは狭いけど2人寝られないほどではないな、最悪絨毯の上でも良い、6人は無理だが雨風をしのぐだけだったら4人くらいまで行けるのでは?…… と思ったけど、それが日常化するのも嫌だし、他人と一緒の部屋だと眠れないから提案するのはやめておこう……)
しばらく部屋の雰囲気を楽しみながら考え事をしていたが、一向に眠気がやってくる気配がしない。
ハヤテ達の声が気になるのもそうだが、怒涛の1日を乗り切ったということと、現実味のない今の状況に興奮が収まらず、期待と不安が頭の中で暴れ回っている。
それから何時間たったのだろうか、正確な時間はわからないが、たぶんハヤテ達は深夜まで話し込んでいたのだろう、彼らの声がやっと静まった頃にはもう月明かりが頼りないほどに弱くなっていた。
窓を閉め、ランタンの明かりを吹き消してベッドに再び潜り込む。
(やっべ.... ランタンって... どうやってもう一度つけるんだ?...)
後戻りできなくなった俺は毛布にくるまり、静かに眠りが来るのを待っていた。
小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。
読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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