11.茜色の安息
――ギィン。
耳の奥で、金属を擦るような電子音が短く鳴る。
視界の隅に[LEVEL UP]の文字が滲み、一瞬で霧散した。
すると、視界の左下にベルのようなマーク[通知ボタン]が表示される。
不思議そうにそのボタンを押してみると、眼の前にシステムウィンドウが表示される。
『
・攻撃力12→15
・魔法攻撃力8→9
・防御力10→12
・魔法防御力6→8
・HP50→53
・MP8→10
・会心率3%→3%
・会心ダメージ率50%→50%
・ダメージカット率5%→5%
・運3→3
』
(レベルが上がって、ステータスも上がったのか……上がり幅にばらつきがあるし、MPより下の項目は全然増えてない...そういえば、ステータスは2種類あったよな?...もう片方は上がらないのか?...)
「コウキ!大丈夫かっ!!!」
ハヤテがコウキに駆け寄り、後を追うようにレンも走り出す。
コウキを治療しつつ、ハヤテとレンもポーションを飲み始めた。
(俺もHPを回復させておかないと...)
インベントリを開き、ポーションを選んで具現化させる。
(うわっ まっっっず!)
そういえば、ポーションを飲むのは初めてだったが、ここまで不味いとは思わなかった。
「みんなは大丈夫かっ!」
皆を心配するハヤテの目線は特定の人物を探していた。
「!?」
「ユウナちゃん大丈夫かい?....怖かったね、もう大丈夫だよ」
ハヤテが頭を抱えて塞ぎ込んでいるユウナに駆け寄り、優しく声を掛ける。
(コイツ....ブレねぇな~・・・)
「ねぇ帰ろう!! こんな所...1秒でも早く離れたいよ!....」
「そうだね、ここのモンスターは強すぎる、早くここから離れ...!?.....」
ハヤテが異変に気付き、辺りを見渡す。
不思議そうにしていたレンとコウキも真似するように辺りを見渡し、俺も釣られて周りに視線を向ける。
辺りが静まり返っていた。
さっきまで聞こえていた悲鳴の渦がピタリと止まり、不規則な咬砕音だけが響く。
見渡す限り、先程の鳥型のモンスターが地面に降りて何かを啄んでいる。
決まってその嘴の先にはタイムコード[時間制限]が表示されていた。
それを見た俺は、オープニングセレモニーでオルステラが話していたことを思い出す。
「皆様のキャラクターが死後12時間以内に蘇生が試みられなかった場合、オムニセンサリアライザーの機能が停止し、同時に..接続していた皆様の脳も停止いたします。」
(つまり、あそこに転がっている死体はすべてプレイヤーで、あと12時間以内に教会へ運んで行かないと...彼らは死んでしまうのか?...)
「あれ……さっきまで戦ってたよな…あの人達……」
「・・・助けに行きましょう!!・・」
今にも飛び出しそうなレンを、コウキが慌てて引き止める。
「やめろ! 2体を相手にするのでやっとだったのに!あの数は無理だ!」
ハヤテもレンを落ち着かせるように言葉を重ねる。
「そうだよレン…仮に1体ずつ倒そうとしても、さっきみたいにモンスターに叫ばれたら……周りの奴らまで寄って来る…そうなったら対処できないだろ。」
「・・・でも!……あのままだと…あの人達は死んでしまいます!・・」
「一旦街へ戻って助けを呼ぼう!… 幸い…俺達の後方にはモンスターがいない……12時間も余裕があるんだ、帰って準備を整える時間くらいはあるさ!」
「ねぇ!早く逃げようってば!」
ユウナがまた叫びだす。
ハヤテがジェスチャーで静かにするようにユウナへ伝えると、小声でみんなに指示を出す。
「...じゃぁ...みんな静かに...ここから離れよう!万が一モンスターに気付かれたら、走って街まで逃げるんだ!……」
全員がゆっくりと街の方へ歩みだす。
肉を食いちぎり、骨を噛じる音と、鳥類の独特な嘴を噛み合わせる音が背中の方から聞こえてくる。
(嘴の音がトラウマになりそうだ)
皆が鳴り響く音に眉をひそめ苦渋の表情を浮かべながら足を進める。
鳥が生息するエリアを超えた辺りでハヤテが「急ごう!」と言い、全員が小走りになり街へと一直線に帰る。
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――【潮灯の都・ルナセイル】――
街へ辿り着くと、早速ハヤテは助けを呼びかける。
「すみません!!!誰か助けてください!!!」
噴水のある入口前の広場には多くのプレイヤーがいた。
皆、ハヤテの方を不思議そうに振り向く。
「街を出て北に進んだところで、パーティが何組も全滅しています!!」
「モンスターは強いですが、決して倒せない敵ではありません!!...僕らも今しがた倒してきました!」
「ですが、かなりの数がまだ残っています!!誰か力を貸してください!!!」
周りの人は我関せず、顔を逸らす人や、再び歩き出す人が何人も居た。
「お願いです!……人の命が掛かってるんです!!!」
その声に反応し、数人のプレイヤーが近寄ってくる。
「そのモンスターはどれくらい強いんだ?俺達まだレベル2なんだけど、レベル2でも倒せそうか?」
「助けたいのは山々だけど、俺達は街の入口近くにいるネズミですら苦戦してるからな~」
同い年くらいの若い青年がパーティ仲間を引き連れて声をかけてきた。
ハヤテが一歩前へ出て、必死に訴えかける。
「大丈夫です! 俺達もまだ1レベルでしたが倒せました!ですが頭数は必要です。 数人で囲えば倒せない相手じゃありません、もっと人を集めましょう!」
さらに中年男性のパーティも声をかけに来てくれた。
「兄ちゃんの話に乗ってやるぜ!!どこだっけ?北の方に行けば良いのか?」
「はい!! 門を出て北の方へず~っとまっすぐ行けば見えてくるはずです!」
「わかった! 兄ちゃん達は行かないのか?できるなら案内してもらいたいんだが?」
「……」
俺達の方に顔を向け、気まずそうな目でコチラを見ていた。
レンとコウキがお前はどうする?と聞きたげに見つめ合い何かを言おうとしていたが、
後ろのユウナが全力で首を横に振っていた。
「・・・」
ハヤテは少し戸惑ったように答える。
「……すみません……俺達もさっきまで命がけで戦っていたので……仲間を少し休ませてあげたくて……」
「・・・そっか、そうだよなっ、命からがら逃げて来たのにもう1度戦場に戻れってのも酷だよな」
「そっちは女の子や子供の集まりだし、仕方ない、 よしわかった!あとは大人に任せてゆっくり休んでくれ!」
「…!? ありがとうございます! では、後はよろしくお願いします!」
深々と頭を下げたハヤテは、俺達と合流し街の中へと去っていく。
しばらく歩いてからハヤテが口を開いた。
「……みんな、この後はどうする?…… もう一回狩りに出るのは~・・・大変だよね、今日はこの辺にしておこうか」
コウキも疲れたように首の後ろを掻く。
「そうだな……日も落ちてきたし、今から狩りに行くのはあぶねぇかもな」
「「「・・・」」」
「そういえば、さっきの鳥を倒したらレベルが上がったよねっ みんな確認した?」
コウキが興奮冷めやらぬ様子で口を挟む。
「そうそう!結構経験値が美味しかったなあの鳥、ざっと見た感じネズミの3~4倍は経験値を貰えたんじゃないか?」
レンが苦い顔で呟く。
「・・でも、あれを何度も相手にするのはキツイですね・・」
「確かにな~、俺達は運が良かっただけで死んでたかもしれねぇしな~」
「そうだね、あと、レンの活躍も大きかったね。あの状況で咄嗟に動けるのは凄いよ!剣の戦いもけっこう慣れてるっぽいし、何かの経験者?」
「・・いや、たまたまですよ... VRゲームをよくやるからかな?・・」
「いやいやw フルダイブはみんな初めてだろw コントローラー振るのと実際の剣を振るのとじゃ全然ちがうだろ」
3人が和気あいあいとしていると、突然ユウナも話に混ざり始める。
「レンさん! さっきは助けていただいて..ありがとうございました! ホント...カッコよかったです!」
「・・い…いや……そんな///」
なごやかな雰囲気が漂う中、一歩引いた位置で眺めていた俺は、
ハヤテの笑顔が一瞬だけ引き攣ったように見えた。
「じゃぁみんな!今日はもう休もうと思うけど、日が落ちきる前に街の中を散策しないか? 武器屋とアイテム屋と飯処は把握したけど、他にも重要な施設がいろいろあるんじゃないかな?」
「たしかに!言われてみれば、俺達よく教会の位置を把握しないまま狩りに出てたよな、まぁ~時間切れになることは早々無いだろうけど、どこにあるか確認しておいたほうが良いな」
「・・そうですね、 後はギルドとかでしょうか?職業が無いとはいえ、大抵のゲームではギルドでクエストを受けたりしますよね?」
「あっ! そうだよ!クエスト!...モンスターを倒してレベ上げなんて前時代的過ぎたんだよ、最近だとメインクエストやサブクエストをクリアしているうちにレベルなんてポンポンあがるもんだぜ?」
レンが納得したように小さく頷く。
「・・・確かに...僕は昔のゲームとかよくやるので違和感がありませんでした……クエストで討伐依頼などをクリアすれば経験値を多く貰えて、ついでにアイテムなどの副産物も貰えるかもしれません・・」
「よっしゃ、じゃぁ 教会とギルドだな、あとは~」
話の流れを断ち切るように、ユウナが遠慮がちに口を挟む。
「あの~、それより私たち...今日はどこで寝ればいいですか?...」
コウキが額を押さえながら声を上げる。
「そうだった宿!宿のこと忘れてたわ!」
「宿?..ホテルか何かあるんですか!?、どんな感じですか!?、私...枕が柔らかくないと寝られなくて!...」
ハヤテが苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。
「まぁ、中世ヨーロッパをイメージした世界観だからね~ ふかふかなベッドにシャワーとトイレ完備! なんてことは無いだろうね……」
ユウナが信じられないと言いたげに目を丸くする。
「そんなぁ…じゃぁ お風呂入りたかったらどうしたらいいの!?」
「まぁまぁ!... 実際に見てみなきゃわからないよ!各部屋にお風呂がついてるかもしれないし、大浴場みたいな場所があるかもしれないし、とりあえず探してみよう!」
話し合いの結果、教会→ギルド→宿の順で探すことに。
雲の隙間から覗く青空が淡く茜色に染まりはじめる頃、束となった太陽の光が灰色の街にそっと差し込み、曇っていた昼間とは一味違う、少し柔らかくなった街の表情を眺めながら、一行は街の奥へと歩みを進めた。
小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。
読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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