10.死を抱く森の序曲
再び狩りをするために街の外へと来ていた。
しかし、先程までネズミ型のモンスターを狩っていたエリアには座り込むプレイヤーが何人か居るだけで、モンスターの気配は無かった。
少し進んだ辺りで戦闘しているプレイヤー達を見つけるが、ネズミ1匹を相手に全員で囲んで慎重に戦っている。
ハヤテが足を止め、周囲をぐるりと見回す。
「あれ...全然モンスターが居ないね?」
「・・・狩り尽くしてリポップを待っている時間じゃないですかね?・・」
「なら もうちょい奥まで行こうぜ?、ネズミ倒しても大した経験値にならなかったし、上のランクのモンスターを倒したほうが効率良くね?」
ハヤテが少し考えるように顎に手を当てる。
「ん~確かにそうだけど、危険じゃないかな..? 俺達、まだ1レベルも上がって無いし、街から遠い場所に行くのはどうしても不安になるね。」
「さっきは初戦だったし、今度は一匹ずつ確実に倒していけばいいって。 そもそも狩りをするプレイヤーが増えたから1匹見つけるのも苦労しそうだけどな~」
「・・・周りに他のプレイヤーも居ますし、モンスターに囲まれることは無い...かも・・万が一全滅しても、他のプレイヤーが蘇生してくれるかもしれませんよ?・・」
「そうだね じゃぁ、もう少しだけ遠くまで行ってみよう」
数分歩いたところで草原を抜け土道の割合が多くなる頃、遠くからプレイヤー達が戦っているであろう掛け声が聞こえてくる。
それも一方向ではなく多方向から聞こえてくる。
遠目でよくわからないが、おそらく飛行型のモンスターと戦っていた。
「キャァァー! ヤダ!ヤメテ!! 来ないで!!!」
「...!? ....イヤァァァー!!!」
翼の生えた黒い物体、おそらくオオワシくらい大きさの鳥型モンスターが、女性プレイヤーの頭に飛びつき、髪を引っ張りなながら翼を羽ばたかせ、女性の頭を啄んでいた。
その鳥を引き剥がそうと仲間のプレイヤー達が必死になって抵抗する。
「うわぁぁぁ!! やめろ!! 離れろって!!!」
今度は別の方向から男性プレイヤーの悲鳴が聞こえてくる。
「クソォ!! こっちに来やがった!!!」
「ぐあぁぁぁぁ!.....め....目がぁぁぁ!」
「オイ!!早くポーションをよこせ!!!」
「嫌ッ! あっち行って! 誰か助けて!!!!」
気付けば周りは悲鳴に包まれていた。
プレイヤー達の声に惹きつけられ、次々にモンスターが集まってくる。
すると俺の後に居たユウナが叫び始めた。
「イ....イヤッ..!! ...ヤダ!!あんなのと戦いたくない!!!・・・ねぇ...街へ帰ろう!!」
ハヤテの袖を掴み、懇願するユウナ。
ユウナの方を振り返り、戸惑った表情でハヤテが答える。
「大丈夫!....ユウナちゃんには絶対近付かせないから!」
(そんな言葉が聞きたかったんじゃない)と言わんばかりの絶望した表情でハヤテを見つめるユウナ。
ハヤテに言っても駄目だと悟ったユウナが次にコウキの方へ近寄り、同じく袖を引っ張る。
「ねぇ帰ろう!... あんな怖いの... 勝てないよぉ...」
「ここまで来たのに1匹も倒さずに帰れないだろ、さっきの昼飯分くらいはここで稼がないと...」
周りの状況に怯えながらも強がってみせるコウキ。
2人がユウナのわがままに気を取られている時、上空から黒い物体が高速で近付いてくる。
俺はその姿を視界に捕らえていたが、突然の出来事に足がすくみ、恐怖のあまりに声が出ず、彼らに危険を知らせることができなかった。
鳥が一直線にユウナへ向かって急降下してくる。
その鋭い鉤爪が もう少しでユウナの頭を掴みかけるその直前で、
レンの剣が鳥の脇腹を切り裂く。
鳥は甲高い奇声を発した後、片足を地面を擦りながら体勢を立て直し、再び上空へと舞い上がる。
「「「 うわぁぁ!!! 」」」
一同が驚きの声を上げ、後ろに居たシュウヘイはその場で尻もちをつき、ユウナはその場で頭を抱えてしゃがみ込む。コウキは驚いて飛び跳ねると拳を握り脇を締める。ハヤテは驚いて両手を顔の前に持っていき頭を守るようにして怯えていた。
皆が状況を理解、鳥からレンの方へ視線を向ける頃には、レンは次の攻撃に備え剣を構え直していた。
俺は慌てて剣を抜き、同時刻にハヤテとコウキも剣を柄に手を伸ばしていた。
上空で滞空する鳥の形を模した異形のモンスター。
その大きく広げた翼は成人男性の身長を容易に超え。
尾羽からは薔薇のようなトゲが生えた無数の黒い触手が伸びており。
頭部には悪魔のような角と鳥の嘴。
そして額には黒い結膜と赤黒く光る瞳孔をした大きな単眼がこちらを見つめていた。
鳥が再びユウナ目掛けて飛んでくる。
レンがユウナの前に飛び出て剣を振りかぶるが、鳥は急停止してその場で両方の翼を力強く振り抜く。
すると羽の一部が飛び道具のようにレンを目掛けて飛んで行き、レンの胸と鎖骨、そして右目に突き刺さる。
痛みに悶えて後ろに倒れ込むレン。そしてレンに押しつぶされる形でユウナも地面に倒れる。
少しの時間滞空し、剣が届きそうな位置まで下降してきた鳥をコウキが走り寄って斬りかかる。
鳥はコウキの攻撃をあっさり避け、両足でコウキの右肩に鉤爪を突き立てる。
コウキは痛みに耐えながら必死に体を左右に揺らす。
鳥の足を左手で掴みながらその場で回転し、鳥と共に地面へ倒れる。
倒れる際に鳥を下敷きにした所為か、鳥はすぐにコウキから離れその場に転がる。
チャンスだと思ったハヤテが鳥に向かって斬りかかる。
しかし体勢を立て直した鳥は紙一重でハヤテの攻撃を交わし、ハヤテの頭にしがみつく。
「クソッ なんなんだよ! やめろっ この野郎..... 離れろ!!」
ハヤテが引き剥がそうと鳥の体を掴みながら抱えた頭をざげる。
抵抗する鳥がバランスを取るために大きく翼を広げた。
(今しかない!)
それこそ絶好のチャンスだと思った。
大きく広げた翼は充分な距離を稼ぎ、俺はハヤテに当たるかどうかを気にせず、思いっきり剣で切り上げた。
奇声と共に切断された右翼が空を舞う。
ハヤテから離れた鳥は痛み苦しみながら俺の方を見てキイキイと鳴いていた。
突如として鳥が両足で地面を蹴り、俺を目掛けて走り寄って来る。
驚いた俺が剣を振り上げる暇も無く、鳥が飛び掛かりその場に押し倒された。
倒れた拍子に剣を落としてしまい、胸の上に覆いかぶさった鳥が俺の顔を目掛けてその鋭い嘴で攻撃してくる。
左右に顔をそらしなんとか避けた後に、空いた両手で鳥の首を締め鳥を突き放そうとする。
鳥の嘴が俺の顔に届かなくなったものの、それでも攻撃をやめようとしない。
少しでも距離を稼ごうと顔を逸らし、地面に頬を擦り付ける。
鳥類の嘴が噛み合うあの音が耳元で鳴り続ける。
(あぶねっ!!……ヤバい!ヤバい! 少しでも力を抜いたら耳を食いちぎられる。)
攻撃が届かないと諦めた鳥が大きく口を開け、今まで発した声の中で最も大きな声量で泣き叫ぶ。
まるで親の仇でも見るかのように俺を睨みつけ声、を震わせていた。
血走った瞳がまっすぐと見つめてくる。
大きく開いた嘴の裏側には鳥類らしからぬ鋭い歯がビッシリと生えており、
嘴よりも少し長く伸びた舌の側面にも同じ歯が並んでいた。
その鋭利な舌が頬をかすめる既の所をウネウネと輪郭をなぞっていた。
(ふざけるな! なんで俺がこんな目に!)
(俺はただ....みんなとゲームがしたかっただけなのに....)
ほんの数秒の間に、後悔と走馬灯が頭の中を埋め尽くした。
鳥の唾液が頬に飛び散る距離で必死に抑えていた両腕に限界が来る。
その時、コウキの剣が鳥の体を貫き、バタバタと片翼をはためかせながら俺から離れていく。
鳥は腹に剣が突き刺さったままコウキを振りほどき距離を取る。
触手が器用に柄へ纏わり付き、腹から剣を引き抜く。
鳥は再び叫び始め、近寄ってくるなと威嚇してくる。
剣を取られたコウキは体勢を低くして次の攻撃を警戒している。
俺も慌てて剣を拾い構え直す。
「大丈夫か!レン!」
後ろで右目を抑えながらもがくレンにハヤテが駆け寄る。
「待ってろ、今ポーションを出すから!」
ユウナは頭を抱えて座り込み、周りを見ようともしない。
シュウヘイはさらに後ろの方で剣を構えて立っているが、戦力として期待できなさそうだ。
片翼を失った鳥は飛ぶことを諦め、俺達と距離を取りながら様子を伺っている。
こちらとしては好都合だ、これでレンが回復する時間が稼げる。
しばらく膠着状態が続くと、ものすごい勢いで地面を黒い何かが通り過ぎる。
慌てて視線を向けても何も見えず、頭上の方でさっきまで聞いていた、風を叩く音がする。
「もう1体来たぞー!!」
コウキの叫び声を聞き、頭上に目をやると、もう1体がこちらに向かって飛んでくる。
いや、正確にはコウキの方へ向かっていた。
コウキが慌てて鳥の突進を避けるが、一度目を離した隙に、片翼を失った鳥がコウキ目掛けて走り出す。
よりにもよって剣を失ったコウキに2体ともヘイトが向いてしまった!
(ユウナとシュウヘイは何をやっている! ハヤテも思った以上に戦えてねぇし、レンは重症でコウキは丸腰! こんなのもう詰みだろ!・・・)
両方のヘイトがコウキに向いている間に、俺が攻撃を加えないといけない。
そう思って飛んできた方の鳥に走り寄り、剣を振る。
「クソが!!」
一撃目がヒットすると鳥は怯みながらこちらを向く、すかさず二撃目を加え、二撃目を振るう直前で鳥は高く飛び上がり、体を旋回させ両の翼を大きく振る。
またもやこちらに向かって羽を飛ばしてきた。
咄嗟に顔を守ったが、手の平・腕・肩・太ももに数本受けてしまい、痛みにしゃがみ込んでしまう。
視界の端にHPバーが映り込む。
さっきの攻撃でHPバーの半分以上が削られてしまった。
コウキは飛びかかってくる鳥を何度か避けた後に再び捕まってしまう。
さっきの俺と同じ体勢で押し倒されていたが、啄もうとした鳥の頭を逆に拳で殴り続けていた。
再び俺の方に飛んでくる鳥。
咄嗟に剣で横払いをするが、すんなり交わされ、鳥の触手が剣に絡みつく。
鳥はそのまま強く引っ張り、剣を奪って放り捨ててしまう。
今度は触手が俺の体に纏わり付く。
激痛が走り、その場に倒れそうになるが、相手はそれすら許さず強引に引っ張り、空へ連れ去ろうとする。
必死に体重を後ろに乗せ、抵抗する。
だがその抵抗も虚しく体は前に引っ張られ、ふわりと両足が地面から離れる。
その瞬間、視界の端からレンが飛び出し、俺と鳥を繋ぐ触手を一刀両断する。
(レン!? お前ってやつは!!)
男の俺でも惚れてしまうくらいには頼もしかった。
おそらくこのパーティの中で一番動けて一番勇気のある男だろう。
レンが回復したのならまだ勝機はある!
すかさずレンが鳥に攻撃を仕掛ける。
全快したレンに飛んでる方は任せて、その間に俺はコウキを助けに行こうと走り出す。
コウキは触手で身動きが取れなくなり、鳥がコウキの胸を啄んでいた。
コウキに気を取られている隙に後ろから思いっきり斬りつける。
これまでのダメージの蓄積もあり、その一撃で鳥は地面に倒れた。
触手から解放されたコウキは目を瞑りながら傷口を抑えて悶えている。
(コウキを起こしている暇はない、早くレンを助けに行かないと!)
振り返ると、レンとハヤテが鳥を挟み撃ちしていた。
レンが攻撃を加え、敵が怯んでいるうちに逆側からハヤテも攻撃する。
何度か攻撃を加えると、鳥は怒りを顕にし、体を回転させて爪と尻尾で2人を同時に攻撃する。
強烈な横薙ぎにハヤテはなすすべもなく吹き飛ばされてしまう。
しかし、紙一重で攻撃をかわしたレンはそのまま鳥の頭部に渾身の一撃を叩き込んだ。
鳥は勢いよく地面へと落ち、羽毛が中に舞う。
その体は、徐々に黒い粒子となって空へ散っていった。
小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。
読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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