9.笑わぬ街と嗤う店主
食事を終えた彼らは再び狩りに出るためアイテムショップを探していた。
鍛冶屋の時と同様に記憶だけを頼りにアイテムショップまで皆を案内する。
道中で食料が売られている市場を通りかかり、この街の現状を見た皆が先程の料理に納得せざるを得なかった。
道の両サイドにずらっと並ぶ屋台。
しかし、他と同様にセレモニー前に見た活気は見る影もなく、通りを行き交うNPCは下を向いており、足を止めて商品を眺める人など居なかった。
それもそのはず、屋台にはまともな商品など1つも置かれていない。
小汚い店主が頭を掻きながら客の訪れを待つ店もあれば、店主すら居ない屋台もちらほら見られ、
店には酷く小さなカブのような野菜と萎れてゴボウのようにも見える人参、ほとんど雑草にしか見えない緑色の草が雑多に置いてあった。
少し進むと一際異臭を放つ屋台を見つける。
そこには先程食べたマッドカープやスラッジフィッシュらが売られていた。
商品が潤沢なため他の店よりマシに見えたが、あまりの生臭さに鼻が曲がりそうだ。
茹でたマッドカープは赤身がかっていたが、生で売られているマッドカープはあまりにもドス黒くグロテスクな見た目をしている。
スラッジフィッシュは魔物だと再認識させられるくらいには命を刈り取る形をしており、鱗に反射する虹色がかった干渉色がここまで気持ち悪いと思ったのは生まれて初めてだった。
先程までこれを食べていたハヤテとレンは複雑な表情を浮かべ、レンにいたっては今にも吐きそうな顔で口元を抑えていた。
鼻を突く異臭に耐えきれず、誰からともなく足早にその場を離れ始める。
ようやく異臭が落ち着いたと思ったところで1つの屋台が目に入る。
今にも壊れそうな屋台の中におばあさんが一人座りながら俯いている。
萎れて黒ずんだ物体、側面にカビの生えた球体状の物、実よりも長く生えた茎。
おそらく果物屋だということがかろうじてわかる程度だった。
皆が興味本位で足を止めて屋台を眺める。
コウキが露骨に顔をしかめる。
「うげぇ~…… なんだこの店、まともな物が何も置いてねぇ…」
ハヤテが恐る恐る呟く。
「これ…リンゴかな…?」
屋台の中央、一番前に置かれたリンゴを手に取るハヤテ。
少し青みがかっているが、唯一食べられそうな物が目に入り、手に取ってしまう。
しかし裏返した瞬間、虫食いだらけの果肉が露わになり、中から白いウジ虫がぞろりと這い出してきた。
数匹がハヤテの手の上に乗り、驚いたハヤテはリンゴを投げ捨て虫を追い払う。
リンゴが地面へと叩きつけられ、真っ2つに割れた断面から、大量のウジ虫が溢れ出した。
「なんでこんな物売ってんだよ!売れるわけねぇだろ!!馬鹿なのかコイツラは!!!」
普段は温厚なハヤテからは想像もできないような荒い言葉が飛び出す。
大きな声で怒鳴りつけ、商品を床に落としたにも関わらず、おばあさんは何も言ってこない。
それどころか微動だにせず、じっと下を向いている。
「う~っわ! 気持ち悪!.... 俺ウジ虫とか駄目なんだよ~」
「・・さっきの僕らは、あれでもまともな料理が食べられてたんですね・・」
「くっそ… あ~もう!、みんな行こう、こんなの見てても仕方ないよ」
まだ少し頭に血が登っているハヤテに諭され、アイテムショップ探しを再開する。
市場のある大通りを抜け、少し脇道にそれて進むと人気が少ない薄暗い路地に出る。
高くそびえる建造物に挟まれ、一車線ほどしかない狭い路地は、昼間にも関わらずほとんど日差しが入ってこない。
しかし、およそ30m間隔で置かれた小さなランタンのような街灯と点在する店の中から溢れる明かりで路地がかすかに彩られる。
いくつもの建物が並ぶ中、1店舗だけ明らかに汎用モデルではない固有の外装をした店が目に入る。
「たしか…あれだったよな」
「お!なんかそれっぽいのが見えてきた!」
「なんでこんなに立地の悪いところに店を開くんだろうね…」
「知らねっ 雰囲気作りじゃね? 俺はもうこのゲームの開発者にはうんざりしてるから何も驚かなくなったぜ」
店を眺めていたハヤテが、空気を切り替えるように声を上げる。
「とにかく入ってみようか」
店に入ると、店主であろう女性が声をかけてくる。
「いらっしゃい、ここには何でもそろってるよ。ゆ~~っくり見ていきな♪」
頭にバンダナを巻いた40歳くらいの褐色のおばさんがパイプタバコを吹かしながら不敵な笑みを浮かべている。
それだけでも怪しい人間だが、さらに異質なのは彼女の体格だった。
身長は190cmを軽く超えており、とにかくいろいろなところがデカい。
ピアスや指輪をジャラジャラと身に付けており、店の怪しい家具や装飾品と相まって独特な雰囲気を醸し出していた。
とにかく圧が凄い。
これがデスゲームではなかったら一部の層に人気が出そうな見た目をしている。
一同は戸惑いながらも、個々に分かれて店の商品を物色していた。
店内には、様々な商品が置いてあった。
回復ポーションからアイテムポーチ、ランタンから羊皮紙まで。
なんでも揃ってそうに見えた。
しかし、値段がどれも高すぎる……。
「みんな!回復ポーションがあったぞ!」
そう言いつつハヤテがポーションを手に取るとウィンドウが表示され、値段が提示される。
「....回復ポーションが1つ200G!?ハイポーションが400G!?....何かの間違いじゃないのか...」
ハヤテが値段を見て絶句していると、少し間を開けて店主のおばさんが話しかけてくる。
「間違いなんかじゃないさ、これ1つでどんな傷でも治る魔法のポーションだよ? いったいいくらで買えると思ってたのさ...これでも良心的な価格設定だよ。」
(...NPCが応答した!?....いや、鍛冶屋やレストランの店員も反応はしていたけど、ここまで的確な返答ができるなんて...最近流行りのAI技術でも搭載されているのか?...でもなんでこの人だけ...?)
「....えっ.....a....す、すみません、このポーション、少しだけ安くしてもらえませんか?」
ハヤテも突然応答したNPCに驚いているらしい。
ゲームの中でNPC相手に値段交渉なんて聞いたこともないが、それほどテンパってるのだろう。
「アタシ相手に値切ってくるとはいい度胸だねぇ坊や~、アタシのポーションがその値段に見合わないと?」
「あ~... いえ、何でもありません、ちょっとお金が足りないだけで……」
そう言いながらハヤテが表示されたウィンドウのキャンセルボタンをクリックする。
「なんだい、買う気が無いのかい? 買う気がないならとっとと出ていきな!貧乏人を相手にしているほど、アタシは暇じゃないんでね!」
「すみません!もう少し選ばせてください!他にも見たい商品があるので...」
「フンッ... 冷やかしだったらタダじゃ置かないよぅ?」
その後も、俺達が商品を手に取る度にウィンドウが表示され、キャンセルを押すほどに店主の口調が徐々にキツくなっていく。
(いや、この手に取るだけで購入を促されるシステムが悪いだろ……)
そんな時。
「すみません! これっ!.....ください....」
店主の機嫌が悪くなっていくのを察したユウナがポーションを掴み、両手で店主の前に突き出す。
「そうかい!!アンタは買ってくれるんだねぇ? ポーション1つ200ゴールドだよっ♪」
店主がそう言うと、ユウナの目の前にウィンドウが表示される。
ユウナは怯えた表情でウィンドウを見つめ、震えた指先で購入ボタンをクリックする。
「毎度ありっ♪ よかったら他の商品も見ていってね♪」
どうやら店主の機嫌がリセットされたらしい……
その後、ポーションを使い切っていた俺とレンが1つずつポーションを購入し店を後にした。
小説を書くのは今回が初めてで、手探りで進めています。
読みにくい点や気になる部分などありましたら、教えていただけるととても助かります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。
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