第3話 幽霊を探し訪ねて 〝為做せ旅館〟 1/4
小旅行の続き。
カエ姉の車に乗って一行は鳥海山麓の樹海の中を走っている。
苔の茂った樹木が窓の外に窺える。
キミは外の景色を眺めた。どんどん山深くなっていく……。
「この道で合ってるはずなのだ……。スキー場の看板があってもう少し行くと橋があるのだ」
2日目の目的地である海水浴場へはこの樹海を突っ切った方が早く到着すると栞乃が調べてきた。
だが、カーナビの検索結果はこの樹海を大きく迂回するルートを勧めてくる。
「明日の樹海探検の下見も兼ねているのだ」という栞乃、ちゃっかりしている。
車が上りカーブをぐぅっと曲がる。
その遠心力で、千秋がキミに凭れ掛かってくる。
カーブの多い峠は道も細く、かなりきつい。
「カエ姉……窓開けて良い?」
ハルはエチケット袋片手に険しい表情を浮かべる。
慌てて運転席のスイッチで窓を開けるカエ姉。
「栞乃ー、見通しのいい所で一旦休憩するよ。新車にウェってされても困るし」
そうこうしているうちに、車は栞乃の言った橋に差し掛かった。
「あ、橋に展望台が付いているのだ! 珍しいのだ。カエ姉、あそこで休憩するのだ」
栞乃は運転席の方へ前のめりになって指をさした。
橋を少し過ぎた所に駐車スペースがあった。
そこへ車を止めてカエ姉は、
「それじゃ休憩タイム。ハル、外の空気吸えば気分もよくなるよ」
車内で嘔吐されては困ると気が気でない様子。
そのため、栞乃にハルの付き添いを命じた。
栞乃は、
「分かったのだー」
とハルの背中を摩る。
栞乃とハルを駐車スペースに残し、キミと千秋とカエ姉は橋の展望台に行くことにした。
「こっちはこっちで皆瀬村とは違う匂いでいいねー!」
展望台に上がってカエ姉は気持ちよく背伸びした。
ラジオ体操のように胸を反らした深呼吸から、腰に手を当て上体をひねり、運転で凝り固まった体をほぐす。
「眺めいいね。向こうに田んぼがあって家がぽつぽつあって……」
あれ、村と変わんないか、と千秋。
田舎の風景はどこへ行っても然程変わらない。森と田んぼと民家の三点セットである。
空気が澄んでいて静か。おまけに蛍がいたりする。
「……そんな田舎は飽きたの」
カエ姉が手すりに凭れて言った。
「東京で暮らしたい。せめて仙台とか、都会で暮らしたーーい!」
駄々をこね始めた。
そして夕日に染まる森に向かって、
「なんで高校教師になったんだろ……」
「「なんで?」」
キミと千秋は尋ねる。
「いろいろあったの……いろいろと……大学も県内で秋田から出たことないのよ? 今時信じられる!?」
カエ姉は大きく息を吸って、「バカヤロー!!」と展望台から叫んだ。
「本当にいろいろあるみたい」
と千秋は、キミに同意を求めるように苦笑した。
すると後ろで。
展望台の階段を上って来たハルが、
「みんな聞いて」と眉を釣り上げて興奮気味にやって来た。
「栞乃ちゃん、今日宿泊するホテルの予約をしていないんだって!」
「ええ!? 本当に?」
「マジかよ!?」
「これ見て、栞乃ちゃんが描いた地図!」
ハルは四つ折りの紙を出した。
その地図に目を通す千秋。キミも一緒に見る。
ナメクジが這ったようなぐねぐねした無数の線が描かれていて、目的地である海水浴場が赤丸で囲ってある。
そこから一本の赤線が伸びて注記がある。
『宿泊場所は現地で決める』
これを見た千秋が深く溜息を吐いて、
「栞乃……どうすんのよ。海水浴客たちで部屋が埋まっているかも知れないのに」
「あーぁ、空き部屋あるかな」
カエ姉までもが栞乃を責める。
「うっうっ……ごめんなさいなのだ……」
鼻を赤くした栞乃は小さな体をより縮ませて頭を垂れると鼻水をすすりだした。
これは不味い、とキミは察知し、
「ま、まあ謝ってるんだし、楽しく行こうぜ? 泊まるところは途中で見つけた場所にすればいいじゃん? ……な、な?」
「今から行って見つかるかなー」
とカエ姉は展望台の階段を下りながら、
「ほらみんな、日の沈む前に行くよ。さっさと車に戻った戻った」
栞乃は夕日のオレンジ色に染まったまま俯いて目をごしごし擦った。
キミは栞乃の手を取って、
「行こう」
とカエ姉の後に続く。
栞乃はすっかり肩を落として、しょんぼりしてしまった。




